2021年05月03日

じじむさい


「じじ(ぢぢ)むさい」は、

爺むさい、

と当て、

年よりじみている、
むさくるしい、

という意味だが(広辞苑)、年寄り自身に言うよりは、今日、

じじむさい身なり、
じじむさい意見、

というように、

男性の容姿や衣服などが年寄りのように感じられる様子、
また、
年寄りのようで汚らしい様子、

の意味で使う(デジタル大辞泉)。ただ、「じじむさい」に、

爺穢い、

と当て、

ぢぢむさい女房を持っている者も損だよ(文化十年(1813)「浮世床」)、

というように、

はなはだ穢い、
不潔、

という意味(大言海)や、

ちぢむさくも無く、小ざっぱりと洗濯物が着られるのは(文化六年(1809)「浮世風呂」)、

というように、

むさくるしい、

という意味(岩波古語辞典)で使う。

年寄りじみている、

という意味と、

むさくるしい、ひきたない、

という意味とが並立しているが、用例から見ると、室町から近世前後の、比較的新しい言葉に思える。方言では、

意地汚い、食い意地が張っている(松本)、
不細工、洗練されていない(東近江)、

等々と、汚さの意味が少しスライドして残っている。

どうも、「爺むさい」と「爺」を当てるのは、当て字なのではないか、という気がする。

「爺」 漢字.gif


「むさい(むさし)」は、

もとより礼儀をつかうて身を立つる人には心むさければ(甲陽軍鑑)、
心せばく、意地むさけれど(仝上)、

と、

むさぼり欲する心が強い。まだ欲望・意地などが強すぎてきたない(岩波古語辞典)、
卑しい、下品である(広辞苑)、

の意味と、

傍近う使ふにはちとむさいなあ(狂言・粟田口)、

と、

汚い、不潔である、

の意味がある。どうやら、

意地汚い、

という状態表現が、

汚い、

という価値表現へと転じたものと見える。方言には、この「むさい」の原意が残っていると見ることができる。

「むさい」は、

穢い、

と当てるが、

ムサト・ムサボルのムサと同根、

とある(岩波古語辞典)。「むさと」は、副詞で、

人の国をむさと欲しがる者は、必ず悪しきぞ(三略鈔)、

と、

むさぼるように強く、
むやみに、
無造作に、

といった意味で使い、「むさぼる」は、

ムサはムサト・ムサムサ・ムサシのムサと同じ、ホルは欲りの意、

とあり(仝上)、

汚らしくむさぼる、

意である(仝上)。「むさむさ」も、

むさぼり欲する心が強いさま、

で、

意地汚さ、

を言っている。こうみると、「じじむさい」は、

意地汚い、

意の「むさい」を強めている意味で、「爺」の意味は元来ない。「爺」は当て字の印象が強い。その当て字「爺」に引きずられて、今日の、

年寄りのよう、

という意味が加わったのではないか。となると、

老人の意の俗語ヂヂイ(老翁)にシジカム(蹙)のシジをだぶらせて、むさくるしい意のむさいを強調したもの(語源辞典・形容詞篇=吉田金彦)、
ジジムムサイ(字染穢)の義か(語簏)、
ジジムサイ(字染穢)の義か(俚言集覧)、

は付会ではないか。

一説に爺(ぢぢい)かとする説は従い難く、またぢじみ(字染)は仮名違い、

とする(江戸語大辞典)のが妥当で、

ぢぢは、鼻汁の小児語「ぢぢ」か、

とする説(仝上)の方が納得できる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:51| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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