「たたき」には、
叩き、
敲き、
と当てるのと、
三和土、
と当てるのとがある。いずれも、「たたく(叩・敲)」の連用形で、「三和土」は、
叩き土の略、
とあり(大言海)、
合わせ土、
ともいい、
赤土、石灰、砂に、にがしお(苦汁(にがり))を加えて叩き固めたもの、
で(大言海・日本語源広辞典・日本語源大辞典)、
溝、泉水の底などを、これを敷きて固めてつくる、
とある(大言海)。
叩き、
敲き、
と当てる「たたき」も、
食べる料理を包丁で細かく叩いた料理、
で、「叩く」意味と関わる(たべもの語源辞典)。
(アジのたたき(なめろう) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%9F%E3%81%8Dより)
この「たたき」には、たとえば、
鰹のたたき、というように、
カツオをおろして表面を火であぶり、そのまま、あるいは手や包丁の腹でたたいて身を締めてから刺し身状に切ったもの。薬味や調味料を添える、土佐作り、
の意と、
鯵のたたき、
というように、
生の魚肉・獣肉などを包丁の刃でたたいて細かくした料理、
の二つの意味がある(広辞苑・デジタル大辞泉)。本来は、「たたき」は、
生肉や生魚など未加熱の食材を細かく切り刻んだもの、
であり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%9F%E3%81%8D)、もともとは膾(あるいは鱠)と呼ばれた(仝上)。
(「なます」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%86%BEより)
「さしみ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/453881536.html)で触れたように、「刺身」は、
指身・指味・差味・刺躬また魚軒とも書く。生魚の肉を細かく切ったものを古くは鱠(なます)とよんでいた、
のであり(たべもの語源辞典)、倭名抄には、
鱠、奈萬須、細切肉也、
とある。「膾」は、「生肉」で、「鱠」は、「魚肉」、
漢字の「膾」は、肉を細かく刻んであわせた刺身を表す字なので、「月(肉)」が用いられている。その後魚肉使うようになり、魚偏の「鱠」が用いられるようになった、
ということである(語源由来辞典)。
「膾」は、「なます」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/474186656.html)で触れたように、
大根・人参などを細かく切って酢で和えた食べ物、
を指すが、「膾」の意味が、
魚貝や獣などの生肉を細かく切ったもの、
↓
薄く切った魚貝を酢に浸した食品、
↓
大根・人参を細かく刻み、三杯酢・胡麻酢・味噌酢などで和えた料理、
と変わる(広辞苑)。野菜や果物だけで作ったものは「精進なます」と呼ばれ、魚介類を入れないことや、本来の漢字が「膾」であることから、「精進膾」と表記される、
とある(語源由来辞典)のは、「膾」の本来の意味から区別のためと思われる。初めは、
魚貝や獣などの生肉を細かく切ったもの、
で、やがて魚の「なます」が多くつくられるようになり、
鱠、
が多く用いられるようになり、平安時代後期に魚肉と野菜を細かく刻んであえた物を指す言葉に変わった。
というように、刃物で細かく叩き切ることから、「膾」が、
叩き鱠、
あるいは、
叩き、
と呼ばれるようになるのは、本来の「膾」が主として酢の物を意味する言葉へと変化していったという背景がある。
庖丁やすりこぎで叩いた「たたき」には、
たたきあわび(叩鮑)、
たたきいか(叩烏賊)、
たたき牛蒡(叩牛蒡)、
たたき豆腐(叩豆腐)、
たたきあげ(叩揚 魚鳥の肉を細かに叩いて丸めて油で揚げたもの)、
たたきな(叩菜)、
たたきなっとう(叩納豆)、
たたきびしお(敲醢 叩き潰してひしおにしたもの。しおから)、
たたきはしら(叩柱 貝柱のたたき)、
等々ある(たべもの語源辞典)。なお、「しおから」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479351026.html)については触れた。
これに対して、
鰹たたき、
鯖たたき、
等々、「たたき」を後に付けるのは、「炙るたたき」である、
おろして表面を火であぶり、そのまま、あるいは手や包丁の腹でたたいて身を締めてから刺し身状に切ったもの、
を指す。
(カツオのたたき デジタル大辞泉より)
なお、「たたく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465451606.html)で触れたように、「叩」(漢音コウ、呉音ク)の字は、
形声。卩印は、人間の動作を示す。叩は「卩(人間のひざまずいた姿)+音符口」。扣(コウ)と通用する、
とあり(漢字源)、別に、
会意兼形声文字です(口+卩)。「たたいた時の音を表す擬声語」と「ひざまずく人」の象形(「ひざまずく」の意味)から、「ひざまずいて頭を地にコツコツとうちあてて礼をする」を意味する「叩」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2259.html)。
叩は、聲也。たたくうつ、叩門、叩首と用ふ。論語「以杖叩其脛」、
とある(字源)ので、擬制音とみるのが妥当だろう。
(「叩」 漢字の成り立ち https://okjiten.jp/kanji2259.htmlより)
「敲」(漢音コウ、呉音キョウ)の字は、
形声。「攴(動物の記号)+音符高」、
とある(漢字源)が、
敲は、たたきて音聲を出す。叩より重し。敲金、敲門と用ふ。
とある(字源)。やはり擬音の可能性が高い。
(「敲」 小篆・説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%95%B2より)
和語の「たた(叩)く」の「たた」も、
タタは擬音語。クは擬音語を承けて動詞を作る接尾語、
とある(岩波古語辞典)。
「たたく」の「た」は、「て」の古形で、
他の語の上について複合語をつくる、
とある(岩波古語辞典)。「手玉」「他力」「手枕」「手挟む」等々。「たたく」も、「手」の動作に絡んで、
叩くは、「タ(手)+ク(ハタク)」が語源です。手ではたくように打つ意です。さらに、打つ、なぐる、やっつける、非難する、安くさせる、質問する、また憎まれ口をいう意にも使います。造語成分として複合語を作ります。例::タタキ上げ(長く苦労して一人前になった人)、タタキ込む、…タタキ大工、タタキ出す、タタキつける、タタキなおす、…タタキのめす、
とあり(日本語源広辞典)、擬音と推測出来る。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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