2021年05月08日


「あけぼの」http://ppnetwork.seesaa.net/article/442024908.htmlで触れたように、古代、夜の時間は、

ユウベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ、

という区分をし、昼の時間帯は、

アサ→ヒル→ユウ、

と区分した(岩波古語辞典)。「アサ」は、

夜の対ではなく、

ヨイ(宵)・ユウ(夕)の対になる(仝上、なお「夜」http://ppnetwork.seesaa.net/article/442052834.htmlについては触れた)。

時間帯としては、昼の時間帯の「アサ」は、夜の時間帯の、

アシタ(明日・朝)、

と同じになるが、「アシタ」は、「あした」http://ppnetwork.seesaa.net/article/447333561.htmlで触れたように、

「夜が明けて」という気持ちが常についている点でアサと相違する。夜が中心であるから、夜中に何か事があっての明けの朝という意に多く使う。従ってアルクアシタ(翌朝)ということが多く、そこから中世以後に、アシタは明日の意味へと変化しはじめた、

とあり(仝上)、

アクルアシタ(明くる朝)→アシタ(翌朝)→アシタ(明日)、

と転化していった(日本語の語源・日本語源広辞典)ので、時間帯は同じだが、

夜が明けた朝、
と、
昼を前にした朝、

とは含意が異なったと思われる。しかし、「アサ」は、

アシタ(明日・朝)の約、

と、「アシタ」由来とみなされる。

〈あが面(オモ)の忘れんシダ(時)は〉(万葉)とあるが、夜明けの時のことをアケシダ(明け時)といった。「ケ」を落としてアシタ(朝)になった。さらにシタ[s(it)a]が縮約されてアサ(朝)になった、

とある(日本語の語源)。

アクルアシタ(明くる朝)→アシタ(翌朝)→アサ(朝)、

と転化したことになる(日本語源広辞典)。「シダ」は、

とき、

の意で、今日、

行きしな、
帰りしな、

と使う「しな」の古語である(岩波古語辞典・大言海)。「しな」については「しな、すがり、すがら」http://ppnetwork.seesaa.net/article/420311540.html?1620242194で触れた。

「朝」 漢字.gif


となると、「あさ」の語源は、「あした」から考える必要があるが、

アは、明(ア)くの語根、明時(あけした)の意(東(アヅマ)も明端(アケヅマ)なるが如し)、アシタ、約(つづま)りて朝(アサ)となる、雅言考、アシタ「明節(アケシタ)の略なり、時節などを、古くシタといふ、

とする説(大言海)で、尽きている気がする。「あか」http://ppnetwork.seesaa.net/article/429360431.htmlで触れたが、古代日本では、固有の色名としては、

アカ、クロ、シロ、アオ、

があるのみで、それは、

明・暗・顕・漠、

を原義とする(岩波古語辞典)といい、

赤(アカ)は、「明(アケ)」が語源、

であり、「アケ(明)」は、

アカ(赤・明)と同根、

で、

明るくなる、

意である(岩波古語辞典)。

アはアケル(明)のア(言元梯・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・国語の語根とその分類=大島正健)、
アはアカの約(和訓集説)、

等々も同趣旨と見ていい。「アサ」の「サ」を、

サは接尾語(言元梯・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・国語の語根とその分類=大島正健)、
サはスサの約(和訓集説)、

等々は、

アクルアシタ(明くる朝)→アシタ(翌朝)→アサ(朝)、

の転化を考えると、意味のない穿鑿に見える。

なお、

ユウベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ、

でいう、

アカツキ→アシタ、

と、「アサ」や「アシタ」の前の時間帯は、「あさぼらけ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/473460440.htmlで触れたように、あかつきhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/466141631.html、以外にも、 

ありあけ、
しののめ、
あさまだきhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/442024908.html?1474144774
あけぼのhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/444607999.html
あさぼらけhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/473460440.html

等々あり、この違いには微妙な区分がある。

「あかつき」http://ppnetwork.seesaa.net/article/466141631.htmlは、上代は、

あかとき(明時)、

で、中古以後、

あかつき、

となり、今日に至っている。もともと、古代の夜の時間を、

ユウベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ、

という区分した中の「あかつき」は、

夜が明けようとして、まだ暗いうち、

を指し(岩波古語辞典)、

ヨヒに女の家に通って来て泊まった男が、女の許を離れて自分の家へ帰る刻限。夜の白んでくるころはアケボノという、

とする(仝上)が、

明ける一歩手前の頃をいう「しののめ」、空が薄明るくなる頃をいう「あけぼの」が、中古にできたため、次第にそれらと混同されるようになった、

とある(日本語源大辞典)。

「しののめ」は、

東雲、

と当て、

一説に、「め」は原始的住居の明り取りの役目を果たしていた網代様(あじろよう)の粗い編み目のことで、篠竹を材料として作られた「め」が「篠の目」と呼ばれた。これが明り取りそのものの意となり、転じて夜明けの薄明かり、さらに夜明けそのものの意になったとする、

と注記して、

東の空がわずかに明るくなる頃。明け方、あかつき。あけぼの、

の意で、転じて、

明け方に、東の空にたなびく雲、

の意とある(広辞苑)。また、

万葉集に、「小竹之眼」「細竹目」と表記されて、「偲ぶ」「人には忍び」にかかる、語意未詳の「しののめ」がみられる。これを、篠竹を簾状に編んだものと考え、この編目が明かり取りの用をなしたところから、夜明けの意に転じたと見る説もある、

ともあり(日本語源大辞典)、

篠の目が明かり取りそのものの意となり、転じて夜明けの薄明かり、夜明け、

の意となった(語源由来辞典)、とする見方はあり得る。

「ありあけ」は、

月がまだありながら、夜か明けてくるころ、

だから、かなり幅があるが、

陰暦十五日以後の、特に、二十日以後という限定された時期の夜明けを指すが、かなり幅広い。

「あさまだき」http://ppnetwork.seesaa.net/article/442024908.htmlは、

マダ(未)・マダシ(未)と同根か、

とあり(岩波古語辞典)、

早くも、時もいたらないのに、

という意味が載る。どうも何かの基準からみて、ということは、夜明けを基点として、まだそこに至らないのに、既にうっすらと明けてきた、という含意のように見受けられる。

朝+マダキ(まだその時期が来ないうちに)(日本語源広辞典)

で、未明を指す、とあるので、極端に言うと、まだ日が昇ってこないうちに、早々と明るくなってきた、というニュアンスであろうか。大言海には、

マダキは、急ぐの意の、マダク(噪急)の連用形、

とあり、「またぐ」は、

俟ち撃つ、待ち取る、などの待ち受くる意の、待つ、の延か、

とあり、

期(とき)をまちわびて急ぐ、

意とあるので、夜明けはまだか、まだか、と待ちわびているのに、朝はまだ来ない、

という意になる。

「あげぼの」http://ppnetwork.seesaa.net/article/444607999.htmlは、「あけぼの」の「ほの」は「ほのかの」「ほの」と通じ、

ボノはホノカのホノと同根、

とある(岩波古語辞典)。「ほのか」とは、

光・色・音・様子などが、薄っすらとわずかに現れるさま。その背後に大きな、厚い、濃い確かなものの存在が感じられる場合にいう、

とある。また、

「あけ(明)」と「ほの(ぼの)」の語構成。「ほのぼのあけ(仄々明け)」とも言うように、「ほの」は「ほのぼの」「ほのか」などと同源で、夜が明け始め、東の空がほのかに明るんでくる状態が「あけぼの」である。古くは、暁の終わり頃や、朝ぼらけの少し前の時間をいった、

ともある(語源由来辞典)。どうやら、

夜明けの空が明るんできた時。夜がほのぼのと明け始めるころ、

で、「あさぼらけ」と同義とある。

「あさぼらけ」は、

夜がほんのりと明けて、物がほのかに見える状態、

とある(岩波古語辞典)。大言海に、

世の中を何に譬へむ旦開(あさびらき)漕ぎにし舟の跡無きが如(ごと)、

という万葉集の歌の「あさびらき」が、拾遺集で、「朝ぼらけ」としている、とある。ちょうど朝が開く瞬間という意になる。しかし、『日本語の語源』は、

アサノホノアケ(朝仄明け)は、ノア(n[o]a)の縮約でアサホナケになり、「ナ」が子音交替(nr)をとげてアサボラケ(朝朗け)になった。「朝、ほのぼのと明るくなったころ…」の意である。「ボ」が母韻交替をとげて朝開きになった、

と、大言海と真逆である。しかし、時間軸を考えると、

アサビラキ→アサボラケ、

ではないか。

アサビラキ(朝開)の転。アケボノと混じた語(類聚名物考・俚言集覧・大言海)、
アサビラケの転(仙覚抄・日本釈名・柴門和語類集)、

とアサビラケ説に対し、

朝ホロ明けの約(岩波古語辞典)、
朝ホノアケの約(和訓栞)、

と、朝ホロ明け説があるが、これだと、ほぼ「あけぼの」と重なる。

「あけぼの」と並んで(「あさぼらけ」は)夜が明ける時分の視覚的な明るさを表す語である。「あけぼの」が平安時代に散文語で、中世には和歌にも用いられるようになるが、『枕草子』春はあけぼの以降春との結びつきが多いのに対し、「あさぼらけ」は主に和歌に用いられ、秋冬と結びつくことが多い。「あさぼらけ」の方が、「あけぼの」よりやや明るいという説もあるが、判然としない、

とある(日本語源大辞典)。さて、

あさまだき、
ありあけ、
あかつき、
しののめ、
あけぼの、
あさぼらけ、

の順序はどうなるのだろう。

「あさまだき」は、

マダ(未)・マダシ(未)と同根か、

とあり(岩波古語辞典)、

早くも、時もいたらないのに、

という意味が載る。夜明けに至らないのに、既にうっすらと明けてきた、という含意のように見受けられる。だから、

あさまだき→あかつき・ありあけ、

となろうか。「ありあけ」は、

月がまだありながら、夜か明けてくるころ、

だから、かなり幅があるが、「あかつき」も、

夜が明けようとして、まだ暗いうち、

と広く、たとえば、「あけぼの」と比べ、

「曙は明るんできたとき。「暁」は、古くは、まだ暗いううら明け方にかけてのことで、「曙」より時間の幅が広い、

とあるhttp://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1145636881。とすると、古代の、

アカツキ→アシタ、

の時間幅全体を「あかつき」「ありあけ」とみると、その時間幅を、細かく分けると、

しののめ、
あさまだき、
あけぼの、
あさぼらけ、

の順序が問題になる。「あさぼらけ」には異説はあるが、

夜のほのぼのと明けるころ。夜明け方。「あけぼの」より少し明るくなったころをいうか。」(デジタル大辞泉)、
「あさぼらけ」の方が「あけぼの」よりやや明るいと見る説もあるが判然としない(精選版日本国語大辞典)、

とあるので、

あけぼの→あさぼらけ、

とみると、「しののめ」の位置だけが問題になる。

『日本語の語源』は「しののめ」について、

イヌ(寝ぬ。下二)は、「寝る」の古語である。その名詞形を用いて、寝ている目をイネノメ(寝ねの目)といったのが、イナノメに転音し、寝た眼は朝になると開くことから「明く」にかかる枕詞になった。「イナノメのとばとしての明け行きにけり船出せむ妹」(万葉)。
名詞化したイナノメは歌ことばとしての音調を整えるため、子音[∫]を添加してシナノメになり、母音交替(ao)をとげて、シノノメに変化した。(中略)ちなみに、イネノメ・イナノメ・シノノメの転化には、[e] [a] [o]の母音交替が認められる、

と、「篠竹」説を斥けている。そうみると、「目を開けた」時を指しているとすると、「しののめ」が、

しののめ→あけぼの→あさぼらけ、

なのか、

あけぼの→あさぼらけ→しののめ、

かの区別は難しいが、一応、いずれにしても、人が気づいた後の夜明け時の順序なのだから、

しののめ→あけぼの→あさぼらけ、

を、暫定的な順序としてみるhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/444607999.html。しかし、「しののめ」「あけぼの」「あさぼらけ」は、ほとんど時間差はわずかのように思える。

「アサ」に当てた「朝」(チョウ)の字は、

会意→形声。もと「艸+日+水」の会意文字で、草の間から太陽がのぼり、潮がみちてくる時をしめす。のち「幹(はたが上るように日がのぼる)+音符舟」からなる形声文字となり、東方から太陽の抜け出るあさ、

とある(漢字源)。

「朝」 成り立ち.gif

(「朝」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji152.htmlより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:52| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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