2021年05月21日
メガトレンドの行方
山本康正『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』読む。
キャッチコピーに、
ハーバード大学院理学修士+38歳ベンチャー投資家にして元グーグル+京大特任准教授が描くテクノロジー基礎、
とある。そして、2年後のビジネスは、
AI(人工知能)+5G+クラウドのトライアングル、
を中心として進む、と提唱する。ここまでは、たぶん予想の範囲だろう。しかし、その中心に居るのは、アメリカの、
FAAN+M G(フェイスブック・アマゾン・アップル・ネットフリックス・グーブル+マイクロソフト)、
であり、それを猛追するのは、中国の、
BATH(バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェィ)、
であり、日本は蚊帳の外どころか、生き残れるかどうか危ういと聞くと、薄々予感はしていたものの、脱力感が強い。確か、ソフトバンクの孫正義氏が、
「現在世界に300億円以上の価値がある未上場のAI関連企業が670社あるが、半分がアメリカ、半分の半分が中国。日本はなんと3社なんです」、
と指摘し、
「ハイテクジャパンと言われてたのが、完全に後ろのほうをついて行っている。なんとしても日本の政府、経済界、危機感を持っていますぐ取り組まなきゃいけない」
と訴えていたのを思い出す。
モノづくり日本、
などと20世紀的なことを言っている為政者では、この急激に進化する世界の潮流に乗れるはずはない。
著者は、近未来に起こるメガトレンドを、
データがすべての価値の源泉になる、
あらゆる企業がサービス業になる、
全てのデバイスが箱になる、
大企業の優位性が失われる、
収益はどこからえてもOKで、業界の壁が消える、
職種という概念がなくなる、
経済学が変わっていく、
と7つ上げている。ハードよりソフト、ソフトより、ネットの時代である。主導権は、ネット→ソフト→ハードウエアの順位となっている。レンタルビデオショップからスタートした、
ネットフリックス、
が、動画配信サービスの巨大帝国となり、いまや、自前の映画やドラマを作り、その予算が一兆円というと、ハリウッドすら、ネット動画配信サービスが凌駕する時代が来ている。となれば、もはやテレビは蚊帳の外になる。
数周遅れの、
モノづくり、
にこだわるということは、単なる部品屋になるということである。今日、既に多くの日本メーカーはiPhoneの部品屋になっているが、これが日本の趨勢ということになるのかどうか。
しかし、たとえば、アマゾンが、
カメラ付きの冷蔵庫モニター、
の特許を取っており、
「モニターが常に360度監視し、あらゆる食材のデータをとっていく。画素数が上がれば冷蔵庫の隅々の食材が何かを正確に特定できるので、ヌケ、モレがなくなり、食材の販売チャンスを逸することがなくなる。」
といって、アマゾンは、アレサ対応の電子レンジや冷蔵庫を開発・販売しているが、冷蔵庫を製造販売で稼ぐつもりはなく、あるいは、格安で冷蔵庫を提供し、別の分野で儲けようとするかもしれない。グーグルの無料メールサービスと同じである。そうなれば、家電メーカーは存在できない。同じことは、ベッドでも起こる。
「横になった回数、寝返りを打った回数、寝る位置、寝る姿勢など、睡眠中の全てのデータを集めることができる。」
そして、そのベッドを格安で提供する。そういう時代である。モノづくりでは生き残れない。
グーグルは世界中の図書館の本を1ページ単位でスキャンしている、
という。いま、ネットを制する者は、
データを制する者、
になりつつあることを承知しているからだ。中国の強みは、是非は別として、
「13億人という膨大な国内人口に加えて、プライバシーという概念がないに等しい」
ことだ。たとえば、AIの性能は、
データの量と優れたアルゴリズムの掛け算できまる、
という。データの価値に気づいている中国が、
「アメリカを超えるようなAIを持つのも時間の問題」
という。
新しいテクノロジーが開く未来に、著者が楽天的なのは当然としても、
「それでもテクノロジーは前に進めるべきだ。倫理は大事だが、後で考えればいいこともある。それよりも追いつけなくなったときのほうが致命的である。反対意見はあるだろうが、私はその立場をとる。」
には、ノイマンを思い出す。
高橋昌一郎『フォン・ノイマンの哲学』(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480483995.html)で触れたように、非人道的な原子爆弾開発について、
われわれが生きている世界に責任を持つ必要はない、
と断言した。ノイマンの思想の根柢にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」である。
ノイマンはこう言ったとされている。
我々が今作っているのは怪物で、それは歴史を変える力を持っている!……それでも私は、やり遂げなくてはならない。軍事的な理由だけでもだが、科学者として科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなくてはならない。それがどんなに恐ろしいことだとしてもだ。これははじまりにすぎない、
と。いまその恐ろしさは、制御不能なまでに拡散している。歯止めなきテクノロジー礼賛、利潤追求には、ちょっとたじろぐところがある。
参考文献;
山本康正『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社現代新書)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください