「たまご」は、
卵、
玉子、
と当てる。
卵、
と
玉子、
の使い分けは、「卵」は、
生物学的な意味、
「玉子」は、
食材の意味、
と区別される(https://macaro-ni.jp/50053)が、生のものを、
「卵」、
調理されたものを、
「玉子」、
という使い分けがされるようになってきているという(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B6%8F%E5%8D%B5)。そのために、「たまご」から孵化する喩えで、
医者の卵、
と当てるが、
医者の玉子、
とは当てない。中国語でも、「卵(ルァン)」は、
生物学的な意味、
で、食材的な意味では、
「鶏蛋(ジータン)」、
と言う(https://macaro-ni.jp/50053)、とある。
ただ、「卵」と「玉子」の使い分けは、
ゆで卵、
とも、
ゆで玉子、
とも書き、
玉子焼き、
とも
卵焼き、
とも書かれ、必ずしも厳密ではない(https://macaro-ni.jp/50053)。
「たまご」の古語は
かひ、
あるいは、
かひこ、
あるいは
かひご、
である(大言海・岩波古語辞典)。
「かひこ」は、
卵子(大言海)、
か
殻子・卵(岩波古語辞典)、
とあて、「かひ」は、
卵、
と当てる(仝上)。「かひ」は、
カヒ(貝)と同根、
とある(岩波古語辞典)のは、
カヒは殻の意(岩波古語辞典)、
殻(カヒ)あるものの意(大言海)、
と、「たまご」の殻からきている。
殻、
は、
かひ、
と訓ませ、「貝」は、
殻(かひ)あるものの義、
とある(大言海)。つまり「かひ」は、
貝、
とも
殻、
とも、
当てている(岩波古語辞典)。「たまご」の「かひ」は、「殻」から名づけられ、
かひ(殻・貝)の子、
の意味になる(日本語源大辞典)。
蚕、
と当てる「かひこ」は、
飼ひ子、
で清音なのに対して、「卵子(殻子)」は、濁音、
かひご、
とされる(岩波古語辞典・日本語源大辞典)。平安中期の和名抄も、
卵、加比古(カヒゴ)、鳥胎也、
とし、平安末期の名義抄も、
卵、鳥殻、カヒゴ、
室町期の文明本節用集も、
卵、カヒゴ、
と、「かひご」とする(岩波古語辞典)。また、室町末期の日葡辞書も、
かひご、
であり、観音院本名義抄では、アクセントを異にする(日本語源大辞典)とある。「かひこ(蚕)」と「かひご(卵子・殻子)は区別されていた。
「かひこ」「かひご」の「こ」「ご」は、
子、
児、
卵、
とも当てるが、
愛しみ呼びて名づけたに起こる(大言海)、
に由来する愛称で(たべもの語源辞典)、
巣守子(毈)、稲子(蝗)、いささ子(魦)、
等々と同じ(大言海)、とある。
「たまご」という言葉は、室町期から使われ、江戸期に広く使われるようになったらしいが、
かひご→たまご、
と転訛したとは思えないので、
殻(かひ)子、
の「殻」のイメージではなく、外見の、
玉、
から来たのではないか、と思える。その意味で、
丸い球形のもの、真珠などに魂が宿っている、とする、
玉、珠、球は、魂(タマ)と同源、
とする説(日本語源広辞典)は捨てがたい。
「たま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/462988075.html?1619562819)で触れたように、「たま」(玉・珠・球)は、
タマ(魂)と同根。人間を見守りたすける働きを持つ精霊の憑代となる、丸い石などの物体が原義、
とあり、「たま(魂)」は、
タマ(玉)と同根。未開社会の宗教意識の一。最も古くは物の精霊を意味し、人間の生活を見守り助ける働きを持つ。いわゆる遊離靈の一種で、人間の体内からぬけ出て自由に動きまわり、他人のタマと逢うこともできる。人間の死後も活動して人を守る。人はこれを疵つけないようにつとめ、これを体内に結びとめようとする。タマの活力が衰えないようにタマフリをして活力をよびさます、
とあり、「たまふり」とは、
人間の霊魂(たま)が遊離しないように、憑代(よりしろ)を振り動かして活力を付ける、
ことだ。憑代は、精霊が現れるときに宿ると考えられているものを指す。あるいは、憶説かもしれないが、「たま」の霊力が信じられなくなった時期が、「たまご」に、
たま、
を当てさせたのではあるまいか。本来「たま」は「魂」で、形を指さなかった。魂に形をイメージしなかったのではないか。それが、
丸い石、
を精霊の憑代とすることから、その憑代が「魂」となり、その石をも「たま」と呼んだことから、その形を「たま」と呼んだと、いうことのように思える。その「たま」は、単なる球形という意味以上に、特別の意味があったのではないか。しかし憑代としての面影が消えて、形としては、「たま」は、「丸」とも「円」とも差のない「玉」となったというのが、室町期のように思える。
形の丸については「まる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461823271.html)で触れたように、「まる(まろ)」「まどか」という言葉が別にあり、
「まろ(丸)」は球状、
「まどか(円)」は平面の円形、
と使い分けていたが、やがて、「まどか」の使用が減り、「まろ」は「まる」へと転訛した「まる」にとってかわられた。漢字をもたないときは、「まどか」と「まる」の区別が必要であったが、「円」「丸」で表記するようになれば、区別は次第に薄れていく。いずれも「まる」で済ませた。「たま」も、また、
まる、
との区別が薄らぐ。「たまご」と呼ばれ出したのは、そんな時期ではないか。
それと、もうひとつ、本来、「卵(殻)子」は、
かひご、
で、「蚕」は、
かいこ、
であったが、その区別が曖昧になってくる。そのため、室町期に、
玉の子、
という言い方がされるようになる。「魂(たま)」の意味を失った「たま(玉)」の行き着いた先が、
玉の子→玉子、
なのである。
「卵」(ラン)は、
象形。丸く連なった、魚か蛙の玉子を描いたもの、
とされる(漢字源)。別に、
象形文字です。「たまご」の象形から、精子と卵子とが引き合って生じる「たまご」を意味する「卵」という漢字が成り立ちました、
とあるのは、少し穿ちすぎではあるまいか(https://okjiten.jp/kanji1052.html)。
(「卵」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1052.htmlより)
(「玉」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%8E%89より)
「玉」(漢音ギョク、呉音コク)は、
象形。細長い大理石の彫刻を描いたもので、かたくて質の充実した宝石のこと。三つの玉石をつないだ姿とみてもよい。楷書では、王と区別して、ヽをつける、
とある(漢字源)。別に、
象形文字です。「3つの美しいたまを縦に紐(ひも)で通した」象形から「たま」を意味する「玉」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji190.html)。
(「玉」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji190.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:たまご