「たぬき汁」は、
狸汁、
と当てるが、
狸の肉に大根・牛蒡などを入れて味噌で煮た汁、
の意と、
蒟蒻と野菜一緒に胡麻油でいため、味噌で煮た汁。上記の「たぬき汁」の代用とした精進料理、
の、二つの意味が載る(広辞苑)。蒟蒻による「たぬき汁」は、江戸時代から、その名で呼んでいる(たべもの語源辞典)とある。
寛永二十年(1643)の『料理物語』には、
味噌にて仕立候、妻は大根牛蒡、
とあり、文化十四年(1817)の『瓦礫雜考』には、
狸汁は、今の蒟蒻を味噌汁にて煮たるには非らず、
とある。この頃には、「蒟蒻仕立て」が隆盛だったのだろう。
(たぬき汁 https://cookpad.com/recipe/4818959より)
「けんちん」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/477345064.html)で触れたが、
普茶料理(http://ppnetwork.seesaa.net/article/474648427.html)、
あるいは、
卓袱料理(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471380539.html)、
は、「普茶料理」が、
卓袱(しっぽく)料理の精進なるもの、
とあり(大言海)、料理山家集(1802)には、
普茶と卓袱と類したものなるが、普茶は精進にいひ全て油をもって佳味とす。卓袱は魚類を以って調じ、仕様も常の会席などと別に変りたる事なしといへども、蛮名を仮てすれば、式と器の好とに、心を付ける事肝要なり、
とあり、それで、
精進の卓袱料理、
といわれ(たべもの語源辞典)、「卓袱料理」もその精進版「普茶料理」、何れも中国からの伝来で、油を使うところが特徴である。
ただ、安永七年(1778)『屠龍工随筆』には、
狸を汁に煮て食ふに、其の肉を入れぬ先に、鍋に油を引きて炒りて後に、牛蒡大根など入れて煮るがよし、
とあり、同じく同書には、
蒟蒻などを油にていためて、牛蒡大根などまじへて煮るを狸汁、
ともあるので、もともと「たぬき汁」が油を使っていたとも、逆に精進系の蒟蒻版「たぬき汁」の影響のようにも見えるが、
獣肉食が禁止されていた仏僧によって、タヌキの代わりに凍りコンニャクをちぎって胡麻油で炒り、そこに良く擦ったおからを加え味噌汁にすると、味がそっくりになることから、これが精進料理として広まった、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%AC%E3%81%8D%E6%B1%81)ので、前者のようである。宝暦頃(1751~64年)の『籰絨輪』に、
狸汁にばけるこんにゃく、
とあるので、広く蒟蒻版が広まっていたことになる。奈良奉行川路聖謨の日記『寧府紀事』の嘉永元年(1848年)1月25日に、
「宝蔵院は昨日稽古はじめなるに古格にて狸汁を食するよし也いにしへは真の狸にて稽古場に精進はなかりしが今はこんにゃく汁を狸汁とてくはするよし也」、
と記されている(仝上)、とある。
別に、
凍こんにゃくをむしって胡麻油で揚げたものを実とした豆腐かす(おから)の味噌汁、
も「たぬき汁」と呼ばれたようである(たべもの語源辞典)。
「たぬき」については、「狸寝入り」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/469925330.html)で触れたれたように、
狸、
貍、
と当てる。
アナグマと混同され両者ともムジナ・貒(まみ)といわれる。ばけて人をだまし、また腹鼓を打つとされる、
とある(広辞苑)。「むじな」は、
狢、
貉、
とあてるが、「むじな」は、
アナグマ、
の異称。しかし、
混同して、タヌキをムジナとよぶこともある、
とある(広辞苑)。和名抄には、
「貉、無之奈、似狐而善睡者也」とあるが、
文明本節用集には、
「貉、ムジナ、狸類」
とある(岩波古語辞典)。「たぬき汁」では、どちらを食べていたのだろうか。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95