2021年06月07日
そばだつ
「そばだつ」は、
峙つ、
聳つ、
喬立つ、
側つ、
屹つ、
等々と当てる(広辞苑・岩波古語辞典・大言海等)。古くは、
そばたつ、
と言った(仝上)。
たかくそびえる、
という意味だが、
かどが立つ、
という意もある。「そば」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/437123006.html)は、古名は、「そばむぎ」で、その略とされる。語源は、
そば(稜・カド)、
で、
とがったカド(稜角)がある三角形の実の穀物、
が語源とされる。ただ「そばだつ」には、
攲つ、
と当てるものがあり、
斜めにたてる、
と
そびえたたせる、
意とあり、ともに、古くは、
そばたつ、
と言っていたようで、平安末期の『色葉字類抄』に、
欹 ソハタツ、
とあり、『名義抄』の鎌倉中期写しの『高山寺本名義抄』にも、
側 ソバタツ、
と清音形で挙げており、室町末期の『日葡辞書』では、
「Sobatatatsu」「Sobatatatsuru」に、それぞれ「Sobadatatsu」「Sobadatatsuru」としている、
ことから、
室町時代末期には、ソバダツ、ソバタツ両形、
があり、それ以前はソバタツと清音であった(岩波古語辞典)。両者は、
峙つ、
聳つ、
喬立つ、
側つ、
屹つ、
が、四段活用なのに対して、
攲つ、
は、下二段活用と、異なり、後者は、前者の
他動詞形、
とあり(大言海)、本来は、同じであった可能性がある。口語形は、
そばだてる、
になるが、
攲てる、
と当て、
そびえたたせる、
意の他に、
一方の端を高くする、
意があり、その派生で、
耳をそばだてる、
とか、
枕をそばだてる、
と、
注意力をそのほうへ集中させる、
とか、
聞き耳をたてる、
意も使う(デジタル大辞泉)。口語形では、
峙つ、
聳つ、
喬立つ、
側つ、
屹つ、
と
攲つ、
の区別は消え、
攲てる、
と当てている(広辞苑・デジタル大辞泉)。
「そばだつ」の語源は、
稜(そば)立つ、
から由来していることから考えても、普通は、
稜立つの義(大言海・名言通・日本語源=賀茂百樹)、
だが、
ソビエタツ(聳立)、ソバミタツの意(和訓栞)、
もあり得る。それは、「そば」は、
稜、
傍、
側、
等々と当て、
ソハ(岨)と同根、
とあり、「そは」は、
山の切り立った斜面、
を意味し、そのため「そば」は、
原義は斜面の義、また、鋭角をなしているかど、斜めの方向の意。日本人は水平または垂直を好み、斜めは好まなかったので、斜めの位置、尖ったかどの場所の意はやがて、はずれ・すみっこの意に転じ、さらに、すこしばかりのものなどを指すようになった。またはずれ所の意から、物の脇・物の近くの意を生じた。ソバ(蕎麦)、そびゆ(聳)も同根、
とあるからである(岩波古語辞典)。
当てている「攲」(イ)は、
形声。「欠(からだを屈める)+音符奇」、
とあり(漢字源)、「かたむく」「そばだつ」意で、「攲攲」で、物のそばだつ貌の意、とある(字源)。
「峙」(漢音チ、呉音ジ)は、
形声。「山+音符寺(ジ)」。「峙立というように、山が「そびえる」「そばだつ」こと(漢字源)。
「聳」(漢音ショウ、呉音シュ・シュウ)は、
会意兼形声。從(ショウ・ジュウ)は、縦に細長いこと。聳は、「耳+音符從」で、頭にくっついた耳たぶをたてに細長くたてること、
とあり(漢字源)、「聳立(ショウリツ)」と、そばだてる意だが、「聳懼(ショウク)」と、棒立ちになる意もある。「聳耳」というように、耳を聳つの意でも使う。
「喬」(漢音キョウ、呉音ギョウ)は、
会意兼形声。喬は、高の字の上に、先端の曲がったしるしを加えた字で、上部が曲線をなしていること。また「夭(ヨウ 曲がる)+音符高」の会意兼形声文字とかんがえてもよい。高と同系だが、喬は先端がしなっている意を含む、
とあり(漢字源)、「喬木」というように、「高い」という意だが、そびえる意は薄い。
「側」(漢音ソク、呉音シキ)は、
会意兼形声。則は「鼎の略形+刀」の会意文字で、食器の鼎のそばに食事用のナイフをくっつけたたま。則が接続詞や法則(ひっついてはなれない掟)の意に転用されたため、側の字がその原義をあらわすようになった。側は「人+音符則」で、そばにくっつければ一方にかたよることから、そば、かたよるの意をあらわす、
とあり(漢字源)、「側目」というように、目を側(そば)むの意や、「盾を側だてて」というように、「立てて起こす」意がある。
「屹」(慣用キツ、漢音ギツ、呉音ゴチ)は、
会意兼形声。乞(キツ)は、下からむくっとおきてきたものが、上につかえて曲がるさまを描いた象形文字。屹は「
山+音符乞」で、山が空につかえるほど高くそそりたつさま、
とある(漢字源)。「屹立」というように、山がそばだつ意。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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