2021年06月26日

背向


「背向」は、

そがい

と訓ませる。

はいこう、

と訓むと、

背くこと向かうこと、
離れることと従うこと、

の意で、

向背、

と同義で、文字通り、

背を向ける、

意からのメタファと思われる。

そがい、

と訓むと、文字通り、

背(うしろ)の方、
うしろ向き、

の意で、

背面、

と重なる。古く万葉集に、

筑波根(つくばね)に曽我比(そがひ)に見ゆるあしほ山悪しかるとがもさね見えなくに

と、使われている。ここから、万葉集で、

わが背子(せこ)を何処(いづち)行かめとさき竹の背向(そがひ)に寝(ね)しく今し悔やしも

背中合わせ、

の意も、出てくる。

ソは背、ソムカヒの約か。ヒムガシがヒガシに転ずる類(岩波古語辞典)、
ソムカヒの略。ひむがし、ひがしと同趣(大言海)、

とある。「そ(背)」は、

セの古形、

とある(岩波古語辞典)。

ソはセ(背)の母音交替形。「万葉集」には「背」「背向」などとも表記され、ソムカヒの縮約と見られる。多くの場合、「に」を伴って「見る」「寝る」といった同志を修飾する、

とある(日本語源大辞典)。

ソムカヒ→ソガヒ→ソガイ、

という転訛ということになる。ただ、漢語に

背向(ハイコウ・ハイキョウ)、

という言葉があり、漢書・藝文志に、

形勢者、雷動風擧、後発而先至、離合背向、変化無常、以形疾制敵者也、

とあり(字源)、

背向=向背、

と注記されている。ために、

「前後」または「向かい合ったり背にしたりする」意の漢語「背向」の翻訳語、

と見る説もある(日本語源大辞典)。

「背」 漢字.gif


「背」http://ppnetwork.seesaa.net/article/405100495.html?1622501901については触れたことがあるが、「せ」の古形、

ソ(背)、

から語源を考えるしかない(岩波古語辞典)。

朝鮮語tïng(背)と同源(岩波古語辞典)、

は別として、

反(ソレ)の約(大言海・名言通)
ソ(外)の義(言元梯)、
シリヘの約シレの反(日本釈名)、
ソヘ(後方)の義(日本語原学=林甕臣)、
体の根の意で、ネ(根)の転か(国語蟹心鈔)、

等々の諸説がある中で、

本来「せ」は外側、後方を意味する「そ」の転じたもの、

とある(日本語源大辞典)ので、

ソ(外)の義(言元梯)、
ソヘ(後方)の義(日本語原学=林甕臣)、

辺りになるが、この原義から考えると、

背が高い、

というような、

背丈、

の意味はない。

ところが、

身の勢、極て大き也(今昔)、

というように、体つき・体格を意味する、

勢(せい)、

があり、これとの音韻上の近似から、

勢(せい)⇔背(せ)、

と混同されるようになった(日本語源大辞典)、とある。

「背」 小篆 漢.png

(「背」 小篆・説文・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%83%8Cより)

「背」(漢音ハイ、呉音へ・ハイ、ベ・バイ)は、

会意兼形声。北(ホク)は、二人のひとが背中を向けあったさま。背は「肉+音符北」で、背中、背中を向けるの意、

とある(漢字源)。「北」は(寒くていつも)背中を向ける方角、とある(「北」は「背く」意がある)。また「背」の対は、「腹背」というように腹だが、また「背」は「そむく」意があり、「向背」(従うか背くか)というように「向」(=従)が対となる(仝上)。別に、

「背」 成り立ち.gif

(「背」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji281.htmlより)

会意形声。「肉」+音符「北」、「北」は、二人が背中を合わせる様の象形。「北」が太陽に背を向けるの意から「きた」を意味するようになったのにともない、(切った)「肉」をつけて「せ」「せなか」「そむく」を意味するようになった、

ともあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%83%8C

「向」 漢字.gif

(「向」 https://kakijun.jp/page/0647200.htmlより)

「向」(漢音コウ、呉音キョウ)は、

会意。「宀(屋根)+口(あな)」で、家屋の北壁にあけた通気口を示す。通風窓から空気が出ていくように、気体や物がある方向に進行すること、

とある(漢字源)。別に、

会意。「宀」(屋根)+「口」(窓 又は 窓に供えた神器)、

ともありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%91、さらに、

象形文字です。「家の北側に付いている窓」の象形から「たかまど」を意味する「向」という漢字が成り立ちました。
「卿(キョウ)」に通じ(同じ読みを持つ「卿」と同じ意味を持つようになって)、「むく」という意味も表すようになりました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji487.html

「向」 甲骨文字.png

(「向」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%91より)

向、

と同義の「嚮」(漢音キョウ、呉音コウ)は、

「向(キョウ)+郷(キョウ)」で、ごちそうをはさんで左右から人が向かい合うさまを示す。むかう、むこうの方角へ動いて去るの意を含む、

とあり(漢字源)、「嚮導」(キョウドウ 目標目ざして導く)等々と使う。

「向」 成り立ち.gif

(「向」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji487.htmlより)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:26| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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