2021年07月02日
おかぼれ
「おかぼれ」は、
岡惚れ、
と当てるが、「うぬぼれ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/440529875.html)で触れたように、「岡惚れ」の「岡」は、
岡目八目、
の岡であり、
傍目八目、
とも当てるように、
他人のすることを脇から見ていることをホカミ(外見、他見)といったのが、オカミ・オカメ(傍見、岡目)になって、第三者の立場でものを見ることをいう、
とある(日本語の語源)。「おかめ(をかめ)」を、
傍目(ヲカメ)、傍見(ヲカミ)、
とする(大言海)の他、
ホカメ(外目)、
とする(古今要覧稿・両京俚言考)ものもある。いずれも、同じ趣旨だが、この「岡」は、
傍の意だが、一説に、本に対する仮の意、
があるとするものもある(江戸語大辞典)。
「岡目八目」は、
当局者(当事者)迷、
の逆で、
傍で見ている者の方が、打っているひとより八目も先を見越している、という意だが、中国では、
当事者迷、旁观者清、
というらしい。
「岡惚れ」は、江戸期から使われたようだが、今日死語かもしれない。
傍から惚れる、
意で、
ちょっと接しただけで惚れること、深く接して人物を知ったうえでもないのに惚れること、
だが(江戸語大辞典)、
相手の心も知らず自分だけ密かに思慕すること、
の方がいい解釈に思える(岩波古語辞典)。だからか、
本惚れに対する仮惚れ、
の意とある(仝上)。また、
傍惚(おかぼ)れ、
とも当てる。
おかっぽれ、
と表記した方が、その軽さをよく言い表している。
で、他人が仲の好いのをはたでねたむことをホカヤキ(傍妬き)といったのが、
オカヤキ(傍妬き)、
に転音したのもこの類だ(日本語の語源)。これは、
岡焼餅、
ともいい、
本焼餅に対する仮焼餅、
の意で、
岡目焼餅(外目焼餅とも当てる)、
とも言うらしい(江戸語大辞典)。
やはり、「岡」を当てる、
岡持ち、
は、ホカモチバコ(他持ち箱)の転らしい(日本語の語源)。
また「岡」を当てる、俗に、
岡っ引き、
という、
町同心の手先に使われ、違法者を探知して、捕吏の手引きをする者、
つまり、目明しの異称である、
岡引、
は、
傍にいて手引すること、一説に、同心の捕縛するのが本引きで、これに対して仮引きの意、
とある(江戸語大辞典)。
「岡場所」の「岡」も、
公許の吉原に対して、その外の(「わきの」)場所、
の意で、やはり、
本場所に対して、仮場所の意、
があり、
寛延・宝暦頃(1748~64)から言い始めた呼称で、官許の遊里すなわち吉原以外の私娼地、
とある。別に、
さと・くるわ(廓)の対、
とある(江戸語大辞典)。全盛を極めたのは、安永・天明(1772~1789)期と化政期(1804~30)とで、その数86ヵ所に及んだ、という。後に、
品川・新宿・板橋・千住、
の四宿が準官許地とされ、それ以外は、寛政(1787~93)・天保(1841~43)両度の改革で禁廃された(仝上)、とある(仝上)。
「岡惚れ」は、
傍から惚れる、
でいいと思うが、異説がある。
ヲカは、小高い岡から遠望するという意(すらんぐ=暉峻康隆)、
はまだいいとして、
オカはカオ(顔)の倒置語で、カオボレ(顔惚)の意、また、岡は岡場所とする説もある(ことばの事典=日置昌一)、
というのはどうだろう。
「岡」(コウ)は、
会意。岡は「山+网(つな)」。网は網(モウ あみ)の原字であるが、ここでは綱(コウ つな)を示すと考えたほうがよい。固く真っ直ぐな意を含む、
とある(漢字源)が、別に、
形声文字です(网+山)。「網」の象形(「網」の意味だが、ここでは、「亢」に通じ(「亢」と同じ意味を持つようになって)、「アーチ形」の意味)と「山」の象形から、「アーチ形の山」、「丘」を意味する「岡」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1952.html)。
「傍」(漢音ホウ、呉音ボウ)は、
会意兼形声。方は鋤の柄が両わきに張り出た形を描いた象形文字。旁は、それに二印(ふたつ)と八印(ひらく)を加え、両側に二つ開いた両脇を示す。傍は「人+音符旁(ボウ)」で、両脇の意。転じて、かたわら、わきの意を表す、
とある(漢字源)が、別に、
会意兼形声文字です〈人+旁〉。「横から見た人」の象形と「帆(風を受けるための大きな布)の象形と柄のある農具:すきの象形(並んで耕す事から「並ぶ・かたわら」の意味)」(「左右に広がった部分・かたわら」の意味)から、「かたわら」、「よりそう」を意味する「傍」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji1175.html)。
なお、「ほれる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/446808988.html)については触れた。
参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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