2021年07月08日

夜半


「夜半」は、

やはん、

と訓むが、

よは、

にも当てる(広辞苑)。

夜中、
真夜中、

の意であり、

子の時、
夜九ツ、

いまの午後十二時である(大言海)。「よわ」は、

夜、
夜は、

とも当て(大言海・岩波古語辞典)、

ヨマ(夜閒)の義(大言海・万葉考・雅言考・言元梯・国語の語根とその分類=大島正健)、
ヨフカ(夜深)の義(名語記・三余叢談・名言通・松屋筆記・日本語原学=林甕臣)、
ヨヒyofi(宵)、その母音交替形ユフyufu(夕)等々と同根(岩波古語辞典)、

等々の諸説があるように、

本来、現在のヨル(夜)の意で使用されたと考えられる。後に、ヨワは「夜半」と表記され、ヨナカ(夜中)の意で使用された、

とある(日本語源大辞典)。「夜半」という感じに引きずられて、「夜中」の意味に転化したと見える。

「夜」 漢字.gif

(「夜」 https://kakijun.jp/page/0850200.htmlより)

その意味では、

夜中、

も、

夜の最中(大言海)、
夜のなかば(広辞苑)、

という意味で、「夜半」のように、

子の時、
夜九ツ、

と、限定された時間ではなく、

宵の後で、暁にならないころ(広辞苑)、
宵が過ぎて、まだ暁に至らない時間(岩波古語辞典)、

という意味になり、上代の夜の時間区分、

ユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ、

の「ヨナカ」に当たる(岩波古語辞典)。「よひ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/481438111.htmlで触れたように、「よる」中心にした時間の区分、

ユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ、

のうち、

ユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ(アカトキ)、

と分けられ、

当時の日付変更時点は丑の刻(午前二時頃)と寅の刻(午前四時頃)の間であったが、「よなか」と「あかとき」(明時、「あかつき」の古形)の境はこの時刻変更点と一致している、

とある(日本語源大辞典)が、「よ」は、

よひ、
よなか、
よべ(昨夜)、

と「よ」は、「よる」が「ひる」に対し、暗い時間帯全体を指すのに対し、

特定の一部分だけを取り出していう、

とある(仝上)。「よべ」は、昨晩の意だが、昨晩を表す語としては、古代・中古には、

「こよひ」と「よべ」とがあった。当時の日付変更時刻は丑の刻と寅の刻の間(午前三時)であったが、「こよひ」と「よべ」はその時を境としての呼称、日付変更時刻からこちら側を「こよひ」、向こう側を「よべ」とよんだ、

とある(仝上)。つまり、「よる」の古形、

よ、

が、

ユフベ→ヨヒ→ヨナカ、

と区分されたことになるが、「よなか」が、

よべ→こよひ、

と、境界線を挟んで、使い分けられていたことになる。

この時間感覚は、

世俗の一昼夜と云ふは、明六つ時を一日の初めとし、次の朝の六つ時を終とす、

と(貞享暦(じょうきょうれき)の元文五年(1740)暦のことわり書)あるように、

夜明け(明け六ッ)から一日が始まると考えた(広瀬秀雄『暦(日本史小百科)』)ので、その境目が、「夜中」になる。それは、前夜に当たる「夜半」を過ぎて、「アカツキ」前までを指している。

時刻と方位.jpg

(時刻と方位・干支表 明解古語辞典(三省堂)より)

しかし「夜半」は、漢語である。

厲之人、夜半生其子、遽取火而視之、汲汲然惟恐其似己也(荘子)
夜半有力者、負之而走(仝上)、

と、やはり「夜中」の意である(字源・大言海)。

「夜」(ヤ)は、

会意兼形声。亦(エキ)は、人のからだの両脇にある脇の下を示し、腋(エキ)の原字。夜は「月+音符亦の略体」で、昼(日の出る時)を中心にはさんで、その両脇にある時間、つまり「よる」のことを意味する、

とある(漢字源)。ただ、

会意。「大」+「月」(白川静)、

とする説https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%9Cもあり、

「夜」 金文・西周.png

(「夜」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%9Cより)

また、

会意兼形声文字です(亦+夕)。「人の両脇に点を加えた文字」(「脇の下」の意味)と「月」の象形から、月が脇の下よりも低く落ちた「よる」、「よなか」を意味する「夜」という漢字が成り立ちました、

と、やはり、「月」と絡める説があるhttps://okjiten.jp/kanji155.html

「夜」 成り立ち.gif

(「夜」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji155.htmlより)

参考文献;
広瀬秀雄『暦(日本史小百科)』(近藤出版社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:夜半
posted by Toshi at 04:03| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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