「深更(しんこう)」は、
夜の深(ふ)けたること、
夜更け、
の意であり(大言海)、
深夜、
のことである(広辞苑)。
月明深夜古樓中(元稹)、
とか
樓鼓辨深更(曹伯啓)、
などと詩にあるように、
深夜、
も
深更、
も漢語である(字源)。
「更」(漢音コウ、呉音キョウ)は、
会意。丙は股(もも)が両側に張り出したさま。更は、もと「丙+攴(動詞の記号)」で、たるんだものを強く両側に張って、引き締めることを示す、
とある(漢字源)。
「更」は、
「㪅」の略字、
とあり(https://okjiten.jp/kanji1319.html)、また、
𠭍、
とともに、異字体ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9B%B4)ので、その意味がよくわかる。
(「更」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9B%B4より)
別に、
会意文字です(丙+攴)。「重ねた台座」の象形と「ボクッという音を表す擬声語と右手の象形」(「手で打つ」の意味)から、台を重ねて圧力を加え固め平らにする事を意味し、そこから、「さらに(重ねて)」、「あらためる」、「かえる」を意味する「更」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji1319.html)ように、「更」は、「更新」「更改」というように、「変わる」「改まる」という意であり、「変更」「更代(=交代)」というように、「代わる」である。
(「更」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1319.htmlより)
しかし、「更」には、
初惠遠以山中不知更漏、乃取銅葉製器(唐國史補)、
とある、
「更漏」(こうろう)というように、
時を報ずる漏刻(みずどけい)、
の意があり(字源)、
更は、漏刻のかはる義、字典「因時變易刻漏曰更」、
とある(大言海)。「刻漏」とは「漏刻」の意である。それが「變易」すること、つまり変わることを「更」というとある。これは、中国にて、
一夜を、五つに分くる称、
の謂いであり、
初更、又一更、甲夜(こうや)は、午後八時、九時なり、
二更、又乙夜(いつや)は、十時、十一時なり、
三更、又丙夜(へいや)は、十二時、午前一時なり、
四更、又丁夜は、二時、三時なり、
五更、戊夜(ぼや)は、四時、五時なり、
とあるものの踏襲である。これを、
五夜(ごや)、
という(仝上)。また、
五更、
ともいい、
戊夜、
ともいう(仝上)。これを、
一夜五更、
というが、
漢魏以来、謂為甲夜、乙夜、丙夜、丁夜、戉夜、……亦云一更、二更、三更、四更、五更、皆以五為節(顔氏家訓)、
とある。ある意味、「更」は、夜全体を指しているので、「深更」は、その、
深まる夜、
の意でもある。「更」とは、
一更ごとに夜番が更代(交代)する義、
であり(日本大百科全書・精選版日本国語大辞典)、
午後7時ないし8時から、午前5時ないし6時に至るまで、順次2時間を単位に、
初更(甲夜、一鼓)、
二更(乙夜、二鼓)、
三更(丙夜、三鼓)、
四更(丁夜、四鼓)、
五更(戊(ぼ)夜、五鼓)、
と区切ったところから由来する(仝上)。
漏刻のかはる時(大言海)、
だから交替するのかもしれない。「漏刻」は、
管でつながった四つまたは三つの箱を階段上に並べ、いちばん上の箱に水を満たし、順に流下して最後の箱から流出する水を、浮箭(=矢 ふせん)を浮かべた容器に受け、矢の高さから時刻を知る、
とあり(百科事典マイペディア・世界大百科事典)、
1昼夜48刻に分け、4刻を1時(とき。辰刻)にはかる、
とある(ブリタニカ国際大百科事典)。「漏」は、
計時用の漏壺を指し、
刻は、
時間の単位(1日は100刻が標準であるが、120刻、96刻、108刻とした時期があった)、
を意味する(仝上)、とある。日本の漏刻は、中国で発明・使用されたものを真似て、
斉明六年(660)中大兄皇子が製作したという所伝が初見。令制では陰陽寮に2人の漏刻博士があり、漏刻によって時刻をはかり、守辰丁(しんてい、ときもり)に鐘鼓を打たせて時を報じた、
とある(仝上)ので、一更、二更……を、一鼓、二鼓……と呼んだものと思われる。
(漏刻圖(桜井養仙『漏刻説』) http://www.kodokei.com/la_011_3.htmlより)
「更」を、
歴(れき)、
経(けい)、
ともいった(仝上)、とあるのは、漏刻の水の流れからきたものと思える。
さらに、各一更の時間を、
五等分して、その各分割を一点、二点、三点、四点、五点と称える。もちろん各点は、一更の五分の一に当たる時間帯になる、
とあり(広瀬秀雄『暦(日本史小百科)』)、「夜半」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482364862.html?1625688276)は、三更の中央(三更三点の中央)、
に当たる。詩文などで、「夜半」を言うのに、
三更、
というのは、この意味である。
ただ、
一更、二更、三更、四更、五更、
も、
一点、二点、三点、四点、五点、
も、時刻点を指す言葉ではなく、夜間を五等分した時間帯、をいうので、何時に当たるかには幅がある。特に、江戸時代貞享暦(じょうきょうれき)が使われる時代(1684年以降)は、夜間は、
日暮れから翌日の夜明けまで、
を指したが、江戸初期は、
日没から日出まで、
を指し、季節によって、日暮、夜明けの時刻は異なるので、「更」の長さも異なる。便宜上、日没から日出まで夜間とした、更点時間帯と現在の時刻制度とは、年間を通してかなり変動する。
(更点法と現在時刻 広瀬秀雄『暦(日本史小百科)』より)
で、例えば、現在の時刻で、一更は、
春秋は午後六時から八時半頃まで、夏は午後七時半から九時頃まで、冬は午後五時から七時半頃まで。戌(いぬ)の時、
二更は、
現在のおよそ午後九時から一一時頃。また、午後一〇時から午前零時頃、亥の刻、
三更は、
春は午後一〇時四〇分頃から零時五〇分頃まで、夏は午後一一時前頃から零時三〇分頃まで、秋は午後一〇時頃から零時三〇分頃まで、冬は午後一〇時二〇分頃から零時五〇分頃まで。子(ね)の刻、
四更は、
春は午前一時頃から三時頃まで、夏は午前零時半頃から二時すぎまで、秋は午前零時半頃から二時半すぎまで、冬は午前一時頃から三時すぎまで。丑(うし)の刻、
五更は、
春は午前三時頃から五時頃まで、夏は午前二時頃から四時頃まで、秋は午前二時半すぎから五時頃まで、冬は午前三時二〇分すぎから六時頃まで。寅の刻、
と、幅を持たせた時間帯になる(精選版日本国語大辞典)。
参考文献;
広瀬秀雄『暦(日本史小百科)』(近藤出版社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95