2021年07月16日


「かぜ」は、

風、
風邪、

と当てるが、「風」の意味に、いわゆる「風が吹く」の意や、「風」をメタファにした、「風向き」の意や、~風といった「やり方」の意といった「風」の意味の外延の中に、

風を引く、

として、「風邪」の意もある(広辞苑)。「風」は、

空気の流動、

の意だが、

奈良朝以前には、風は生命のもとと考えられ、風にあたると受胎すると思われていた。転じて、風が吹くと恋人が訪れてくるという俗信があった。また、明日香・初瀬など、それぞれの山々に風神がいて風を吹かすものとされていた、

とある(岩波古語辞典)。

「風」 漢字.gif


「かぜ」は、平安時代末期の古辞書『色葉字類抄』に、

風、かざ、

とあるように、古形が、

カザ

であり、

風向(かざむ)き、
風車(かざぐるま)、
風穴(かざあな)、
風花(かざはな)、
風音(かざおと)、
風雲(かざぐも)、
風祭(かざまつり)、
風花(かざはな)、

等々と、複合語だけに残っている、

とある(岩波古語辞典)。ただ、大言海は、逆に、「かざ」は、

かぜ(風)の転、

とし、

早稲(わせ)、わさだ(早稲田)。船(ふね)、ふなばたなどの例、

としている。確かに、複合語となることで、

kazehana→kazahana、

と、

a→e、

間の母音交換は、「手綱」の、

tetuna→taduna、

というような音韻変化はあり得る(日本語の語源)ので、是非は判別しがたいが、大言海は、「かぜ」は、

気風(かじ)の転、

とし、「気(か)」は、

気(け)の転、

とし、

竹、たかむら。酒、さかづき、

を例とし、

か(香)、か(臭)、かをる(薫)、かまく(感)、かぶる(感染)などのカ、

とする。そして、「風(じ)」は、

かぜ(風)の古名、

とする。神代紀に、

吹撥之気、化為神、號曰級長戸邊(しなとべ)命、

を例に挙げ、

「荒風(あらし)」、「旋風(つむじ)」、「風巻(しまき)」、転じて「ち」。「東風(こち)」「速風(はやち)」。叉転じて「て」。「疾風(はやて)」、

と、

し(じ)→ち→て、

と転じたとする。「し→じ→ぢ→ち」を考えると、

si→di→ti→te、

という転訛はありえるかもしれない。

ち(風)→て(風)、

の転嫁が認められる(岩波古語辞典)のなら、

し(風)→じ(風)→ぢ(風)→ち(風)、

もあり得るのかもしれない。

さらに、「か」は、

アキラカ・サヤカ・ニコヤカなど、接尾語のカと同根、

とあり、

カ細し、カ弱し、

のように、

目で見た物の色や性質などを表す形容詞の上につき、見た目に……のさまが感じ取れる意を表す、

とあり(岩波古語辞典)、

転じてケ(気)となる、

と、結果として大言海とは真逆ながら、

カ⇔ケ、

の転訛を言っており、「け(気)」は、

潮気立つ荒磯にはあれど行(ゆ)く水の、過ぎにし妹(いも)が、形見とぞ来(こ)し(万葉集)、

のように、

霧・煙・香・炎・かげろうなど、手には取れないが、たちのぼり、ゆらぐので、その存在が見え、また感じられるもの、

を示すとある。「かぜ」を、

気風(かじ)の転、

とする大言海説に、一応の理が立つ気がする。

「カ(気)+ゼ(風)」で、空気の動きの意(日本語源広辞典)、
カは大気の動き、ゼは風、すなわちジと同胞語で、カジ(気風)の転(音幻論=幸田露伴)、

とするのも、同趣旨である。

キハセ(気馳)の義(日本語原学=林甕臣)、

も、似た発想である。

中国古代の「風」は、大気の物理的な動きとともに、肉体に何らかの影響を与える原因としての大気、またその影響を受けたものとしての肉体の状態を意味した。日本での「かぜ」は、もともと大気の動きである、

とある(日本語源大辞典)。

因みに、「風邪」との関係については、

(風邪の)意の用例は平安初期からみられ、おそらくは中国語「風」の移入か、

とみている(仝上)。「風」には、「風疾」とか「風者百病之長邪」という言い方をする(漢字源)。

(風邪が)風の影響をうけるとすることは、「風を引く」の例でわかるが、その症状は必ずしも感冒には限らず、腹の病気や慢性の神経性疾患なども表していた。又、身体以外に、茶や薬などが空気にふれて損じ、効き目を失うことを「カゼヒク」といったことが、日葡辞書から知られる。「風邪」は、漢籍では病気名とはいえず、日葡辞書でも、「Fûja」は、「ヨコシマノカゼ」で、体に影響する「悪い風」とされている。近世では「風邪」は一般に、「ふうじゃ」と読まれ、感冒をさすようになった。病気の「かぜ」に「風邪」を当てることが一般的になったのは明治以降のことである、

とある(仝上)。因みに、「風邪(フウジャ)」は漢語、

かぜひき、

をさす(字源)。

大難之将生也、猶風邪之中人(道徳指帰論)、

とある(仝上)。

「風」(漢音ホウ、呉音フウ・フ)は、

会意兼形声。風の字は大鳥の姿、鳳の字は大鳥が羽搏いて揺れ動くさまを示す。鳳(おおとり)と風の原字は全く同じ。中国では、おおとりを風の遣い(風師)と考えた。風はのち「虫(動物の代表)+音符凡(ハン・ボン)」。凡は広く張った帆の象形。はためきゆれる帆のように揺れ動いて、動物に刺激を与える「かぜ」をあらわす、

とある(漢字源)。同趣旨の解釈は、

もと、鳳(ホウ、フウ)(おおとり)に同じ。古代には、鳳がかぜの神と信じられていたことから、「かぜ」の意を表す。のち、鳳の鳥の部分が虫に変わって、風の字形となった、

がある(角川新字源)。

「風」 甲骨文字・殷.png

(「風」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A2%A8より)


「風」 金文・西周.png

(「風」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A2%A8より)


「風」 簡牘文字.png

(「風」 簡牘文字・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A2%A8より)

ただ、これと真逆なのが、

形声。「虫」(蛇、竜)+音符「凡」を合わせた字で、「かぜ」を起こすと見なされた蛇が原義(「虹」も同様で意符が「虫」)。「凡」は「盤」の原字で、盥盤の側面の象形。「虫」に代えて「鳥」を用いた文字が「鳳」であり、両方とも「かぜ」の使いとされた、

という解釈https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A2%A8。別に、

会意兼形声文字です(虫+凡)。甲骨文では「風をはらむ(受ける)帆」の象形(「かぜ」の意味)でしたが、後に、「風に乗る、たつ(辰)」の象形が追加され、「かぜ」を意味する「風」という漢字が成り立ちました、

と「帆」を始原とする説もあるhttps://okjiten.jp/kanji100.html。しかし、「風」の字の変遷を見ると、原字は、「鳳」に見える。

「風」 成り立ち.gif

(「風」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji100.htmlより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル: 風邪
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