2021年07月19日

わざ


「わざ」は、

技、
業、

と当てる。大言海は、

所為、
態、
事、

を当てているが、意味によっては、

藝、
術、

を当てる(日本類語大辞典)ことがあるのは、推測できる。ただ、

こめられている神意をいうのが原義、

とあり(岩波古語辞典)、

もと、神のふりごと(所作)の意。それが精霊にあたる側の身ぶりに転用されたもの(国文学の発生=折口信夫)、

とあるのも同趣旨になる(日本語源大辞典)。「ワザ」は、

ワザハヒ(災)・わざをき(俳優)のワザ、

とある(岩波古語辞典)のは、

ワザワヒ(禍)の転用、曲之靈が禍を為すむというところからか(国語の語根とその分類=大島正健)、

と同趣旨で、「災害」「災い」を神の「しわざ」と考え、そこに神意を読み取る側の受け止め方ということになる。だから、単なる、

行為、

行事、

ではなく(大言海)、

人妻に吾(あ)も交はらむ、吾妻に人も言問へ、此の山を領(うしは)く神の昔より禁(いさめ)ぬわざそ(万葉集)、



神意の込められた行事・行為、
とか、
深い意味のある行為・行事、

というのがもとの用例に近い(広辞苑・岩波古語辞典)。

事柄に込められている神意(日本語源広辞典)、

つまり、

神わざ、

と受け止めた、という意味である。「かみわざ」は、

神業、
神事、

と当てる。古くは、

カムワザ、

と訓み、

神のしわざ、

の意だが、180度ひっくり返って、

神に関する公事、神事、

の意になる(広辞苑)。

だから、「わざ」は、

あしひきの山にしをれば風流(みやび)なみわがするわざをとがめたまふな(万葉集)、

と、単なる、

しわざ、
行い、

の意味にも使う(広辞苑)が、

意識的に何事かすること、

ならひ学びてなしうるわざ、

というような含意から、

それ失せたまひて、安祥寺にて御わざをしけり(伊勢物語)、

と、

仏事・法要、

の意味だったり、

釣魚(つり)するを以て楽(わざ)とす。……遊鳥(とりのあそび)するを樂(わざ)とす(書紀)、

と、

仕事、
職とすること、

の意となり(岩波古語辞典・広辞苑)、それがさらに極まれば、

闌(た)くるといふ事をわざよと心得て上手の心位とは知らざるか(至花道)、

と、

方法、
技術、

となり、

藝、
腕前、

の意となっていく(広辞苑)。このときは、

技、

を当て、それ以外は、

業、

を使うのが普通(広辞苑)、とある。天治字鏡(平安時代)には、

伎、和佐、

とある(大言海)。

ただ、「わざ」を神意とつなげず、

為す、

という意味から、

「態」の転用でシワザ(為態)の意から(日本古語大辞典=松岡静雄・日本語源=賀茂百樹)、
ワ(腕)サマ(様)からの転(語源辞典・形容詞篇=吉田金彦)、

とする説がある。しかし、当てる漢字はともかく、

ワザヲキ

の「ワザ」であることを考えると、「神」との関り抜きの説は、採りがたい気がする。

「伎」 漢字.gif

(「伎」 https://kakijun.jp/page/0611200.htmlより)

「伎」(漢音キ、呉音ギ)は、

会意兼形声。支は、細かく分かれた枝を手(叉)に持つ姿。古くはキと発音した。伎は「人+音符支(キ・シ)」で、人間の細かいわざ、技をあやつる人の意を表す、

とある(漢字源)。「技」(細かいわざ)、「岐(細かい分かれ道)」と同系。「わざ」の意では、「技」と同義である(仝上)。

「伎」 小篆  漢.png

(「伎」 小篆・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BC%8Eより)

別に、

会意兼形声文字です(人+支)。「横から見た人」の象形と「竹や木の枝を手にする」象形(「枝を支え持つ」の意味)から、枝を持って演ずる事を意味し、そこから、「わざおぎ(映画・演劇などで、劇中の人物を演ずる人)」を意味する「伎」という漢字が成り立ちました、

とあるのが、具体的であるhttps://okjiten.jp/kanji2093.html

「技」 漢字.gif


「技」(漢音キ、呉音ギ)は、

会意兼形声。支(シ)は、細い枝を手にもつさま。技は「手+音符支」で、細い枝のような細かい手細工のこと、

とある(漢字源)。

「技」 小篆 漢.png

(「技」 小篆・説文(漢) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%8A%80より)

別に、

会意兼形声文字です(扌(手)+支)。「5本指のある手」の象形と「竹や木の枝を手にする」象形(「木の枝をささえ持つ」の意味)から、枝を持ちたくみにふるまう事を意味し、そこから、「わざ」を意味する「技」という漢字が成り立ちました、

とあるhttps://okjiten.jp/kanji775.html

「業」 漢字.gif

(「業」 https://kakijun.jp/page/1366200.htmlより)

「業」(漢音ギョウ、呉音ゴウ)は、

象形。ぎざぎざのとめ木のついた台を描いたもの。でこぼこがあってつかえる意を含み、すらりとはいかない仕事の意となる、

とある(漢字源)。

象形。かざりを付けた、楽器を掛けるための大きな台の形にかたどる。ひいて、文字を書く板、転じて、学びのわざ、仕事の意に用いる(角川新字源)、

象形。「のこぎり状のぎざぎざの装飾を施した楽器を掛ける為の飾り板」の象形から「わざ・しごと・いた」を意味する「業」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji474.html

とある説明がわかりやすい。

「業」成り立ち.gif

(「業」成り立ち https://okjiten.jp/kanji474.htmlより)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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