「くら」と当てる漢字、
座、
については「くら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482602676.html?1627065402)で触れたように、
御手座(みてぐら)、
矢座(やぐら→櫓・矢倉)、
鳥(と)座、
千座(ちくら)、
等々、
人や物を載せる台、また、物を載せる設備、
の意で使われる(岩波古語辞典)が、
蔵、
倉、
庫、
とあてる「くら」は、その意味の延長線上で、
荒城田(あらきだ=新墾田)の鹿猪田(ししだ)の稲を倉に上げてあな干稲々々志(ひねひね)し我(あ)が恋(こ)ふらくは(万葉集)、
と、
穀物、商品、家財などを火災・水湿・盗難などから守り、保管・貯蔵するための建物、
の意で使うとみていい(広辞苑・日本語源広辞典・日本古語大辞典=松岡静雄・言葉の根しらべの=鈴木潔子他)。
土蔵、
倉庫、
と同義である(広辞苑・岩波古語辞典)。
物を納め置く座(クラ)の義、物置座の意、
とある(大言海)のが正確かもしれない。
古くは、校倉あり、又板蔵あり、皆木製なり。壁を土にて厚く塗り固めたるを塗籠(ぬりごめ)又は土倉、土蔵と云ふ、また穴蔵あり、
とある(仝上)。これで由来は尽きていそうだが、異説はある。
置くの義(日本釈名・東雅・和訓栞)、
オクラ(置坐)の義(言元梯)、
岩窟の義(国語の語根とその分類=大島正健)、
内部が暗いところから(和句解・家屋雑考)、
等々。しかし「くら」が、
座→倉・蔵・庫→鞍、
と、当て分けたと考えるのが自然に思える。
ただ、漢字では、「くら」の意の漢字は少なくなく、たとえば、「米蔵」の意では、
囷(キン・コン こめぐら)、
庾(ユ こめぐら)、
廩(リン こめぐら、穀蔵を倉、米蔵を廩と云ふ)、
牢(ロウ こめぐら、=廩)、
倉(ソウ こめぐら、穀蔵。丸きを囷と云ひ、方を倉と云ふ)、
の漢字があり、他に、
府(フ 朝廷の文書または財貨の蔵、ぜにぐら、府庫)、
廥(カイ まぐさぐら)、
窖(コウ あなぐら)、
と「くら」を使い分け、
座(ザ 席、居場所)、
には「くら」の意はなく、
庫(コ・ク 兵車(いくさぐるま)を入れ置くところ、武庫、兵庫。転じて、広く楽器・祭器・文書等のくら)、
蔵(ゾウ・ソウ 物品を納めて置く所)、
も、特定の意味があった(字源)。なぜ、「座」に、
くら、
の意が生まれたかは、「くら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482602676.html?1627065402)で憶測したように、
座居(くらゐ)→くら→それが居る場所→物を載せる場所・装置、
から転化したと思えるが、その意味で、そこから、「くら」の意味が、
倉、
蔵、
庫、
と当て分けて、
倉庫、
の意となったと思われる。本来の漢字の意味とは別に、
倉、
蔵、
庫、
の使い分けは厳密ではないが、
武器庫、
書庫、
という使い方には、「庫」の意味が生きている気がするが、
宝庫、
となると、本来は「宝府」が正しいと思われる。
「倉」(ソウ)は、
会意。倉は「食の略体+口印(入れる所)」で、食糧となる新穀や青草を入れる納屋。転じて、青草の青い色の意となり、蒼(ソウ 青草の色)・滄(ソウ 青い水)・愴(ソウ 青ざめる)などの言葉を派生させる、
とある(漢字源)。ただ、別に、
象形。(建物を示す)の中にとびらのある形にかたどる。穀物を納めておく「くら」の意を表す、
とか(角川新字源)、
象形文字です。「穀物をしまう為のくら」の象形から「くら」を意味する「倉」という漢字が成り立ちました、
とあり(https://okjiten.jp/kanji723.html)、象形文字の可能性がある。
(「倉」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%80%89より)
「蔵(藏)」(漢音ゾウ、呉音ソウ)は
形声。艸は収蔵する作物を示す。臧(ソウ)は「臣+戈(ほこ)+音符爿(ソウ・ショウ)」からなり、武器をもった壮士ふうの臣下。藏は「艸+音符臧」で、臧の原義とは関係がない、
とある(漢字源)。「秘蔵」とか「収蔵」とか「珍蔵」という言葉があり、「物を納めて蓄える」という意味が強い。
別に、
形声文字です(艸+臧)。「並び生えた草」の象形と「矛(ほこ)の象形としっかり見開いた目の象形」(「倉(ソウ)」に通じ(同じ読みを持つ「倉」と同じ意味を持つようになって)、「かくしてしまう」の意味)から、「かくす・かくしてしまう場所」、「くら」を意味する「蔵」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji965.html)。
(「蔵」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji965.htmlより)
「庫」(漢音コ、呉音ク)は、
会意。「广(いえ)+車」で、車や兵器を入れて屋根をかぶせたくら。屋根をかぶせてかばう意味を含む、
とある(漢字源)。
別に、
会意兼形声文字です(广+車)。「屋根」の象形と「車」の象形から車を入れる「くら」を意味する「庫」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji484.html)。「武庫」「兵庫」の意から、「宝庫」となり、「倉庫」と、意味が広がったと見える。
(「庫」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji484.htmlより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95