2021年07月27日

oT化の中で


桑島浩彰・川端 由美『日本車は生き残れるか』読む。

日本車は生き残れるか.jpg


自動車産業変化のキーワードは、

CASE、

とされる。

コネクテッド(connected)、
自動化(autonomous)、
シェアリング(shared)、
電動化(electric)、

の頭文字をとったものだ(世界的にはACESの方が使われるらしいが)。

ポイントは、

コネクテッド、

だと思う。家電業界が凋落したのと同じく、

ネットにつながった自動車、

の時代、

膨大な数のサービス(モビリティサービス)、

が生まれる。自動車は、

IoT(Internet of Things)、

の「oT」つまり、

ネットにつながったモノ、

になる。だから、

「IT業界の巨人たちが自動車産業にこぞって進出しようとしている」

のである。欧米・中国の自動車企業は、

「必死になって変わろうとしているし、ライバルとの提携・合併や優良資産・部門の売却など大胆な動きを貪欲に行っている。」

それに対して、日本企業の動きは鈍い。

欧米・中国のダイナミックな変化の努力をつぶさに描きつつ、対する日本の現状を描いていく。象徴的だと思うのは、たとえば、日産について、

「日産は、CASEのAやEの部分では最先端の技術を持ち、世界の自動車メーカーと互角以上に戦っているように見える。だが、誤解を恐れずにいえば、個々の要素技術には秀でていても、それらの技術を組み合わせて魅力ある商品としてパッケージした開発までできているか、という視点から考えるとやはり懸念は残る。」

という言及と、

「アメリカの家電・IT見本市であるCESや欧米のモーターショウに足を運ぶと、日本と海外の自動車関連企業の展示に大きな差があることに気づく。日本勢の展示は自社製品、つまり自分の会社のモノや技術がいかに優れているかを示す展示が多い。一方、日本勢以外、特に欧米勢のプレイヤーは『世界観』に関する展示や発表が多い。コネクテッドや自動運転など、新しい技術を用いることで、どのように人々の乗車体験や生活を変えていくのか、そのビジョンや具体的なユースケース(事例)が増えている。自動車を製造する『自動車』産業の展示から、自動車を使ったソリューション、モビリティ産業のビジョンの展示にシフトしているのだ。」

あるいは、

「日本のメーカーの方々と話をすると、『いま、最も注目する技術を教えてほしい』『将来的に勝てる技術は何か』という類の質問をいただくことが多い。あるいは、特定の技術を起点に将来の事業を描こうとする、いわゆる『ロードマップ信仰』のような例も多々ある。日本の技術力は高いし、一人一人のエンジニアは優秀だ。だが、そういう質問をすること自体が『技術』『モノづくり』の視点から自分の仕事を考えているように思える。求められるのは、自社の技術よりも、顧客価値の起点、すなわち社会的な課題や必要とされているニーズから、既存の技術をつなげて、サービスやそれを後押しする技術を創造する力なのだ。」

等々という指摘をみると、完全にネット時代に取り残された「モノづくり大国」という二十世紀的な世界に留まったままの姿が浮かぶ。それは、家電業界でみた姿とダブる。

著者は、

「日本の自動車産業は崩壊しない。ただし戦いのルールは大きく変化する。そして、新しいルールに適応できた企業だけが生き残ることができる。」

として、日本の自動車産業が克服すべき弱点を、

モノづくり信仰、
垂直統合へのこだわり、
自前主義、
電気・材料・IT系エンジニアの軽視、
形の見えないもの(ソフトウエア・サービス)にお金は払えない、

を挙げた。ソフト優位の時代は、もうはるか前から、既に「95時代」から考えても二十年以上たっている。しかも、ネット時代に、日本のパソコンメーカー、家電メーカーが、単なるハコモノ屋、部品屋として屈服していった姿を見ているのに、未だにこの体たらくである。

「デジタルの時代、コネクテッドの時代には、データをオープンに管理し、他社との連携を行うことでデータを共有し、適宜フィードバックを行うことで、よりユーザーが使いやすいプラットフォームに改良し、エコシステム全体の価値を高めていく――というビジネスモデルが一般化する。自動車産業にとっては、そのひとつの形態がコネクテッドになった時代のモビリティサービスなのだ。」

という現状の中、著者たちは、生き残りの有無を明言していないが、ネット時代に何週もの周回遅れのわが国の未来は、かなり厳しい、という言外の危惧を感じ取った。

なお、次世代テクノロジーの趨勢については、

山本康正『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』http://ppnetwork.seesaa.net/article/481602237.html

家電メーカーの凋落については、

大西康之『東芝解体-電機メーカーが消える日』http://ppnetwork.seesaa.net/article/450728442.html

で、それぞれ触れた。「モノづくり」に拘泥する日本の製造業は、ネット環境の中で、ほとんど現在の地位を保つのは難しい。今回、それが、モノづくりの頂点、自動車にも及ぶ。

IoTの、oTとなったとき、つまり、

ネットにつながったモノ、

になったとき、

「日本がグローバルに優位性を持っている領域は非常に少ない」

とは、自動車だけではなく、すべての製造業に及ぶ。すでに、家電メーカーの凋落が、それを証している。

参考文献;
桑島浩彰・川端 由美『日本車は生き残れるか』(講談社現代新書)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:53| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください