「おっしゃる」は、
仰る(デジタル大辞泉)、
仰しゃる(広辞苑)、
被仰る(大言海)、
等々と当てる。
言うの尊敬語、
仰せられる、
という意である。命令形と、「ます」のつく連用形は、
おっしゃい、
となる(広辞苑)。
仰有る、
とも当てる(デジタル大辞泉)ので、
オオセアルの約、オオシャルの約(広辞苑)、
仰せらるの約、おっしゃるの急呼、四段活用に転ず、イラセラルルの、イラッシャルとなると同じ(大言海)、
仰せ+ラルの変化(日本語源大辞典)、
御仕遣(おしゃる)の意(新編常陸国誌=中山信名)、
とあり、
仰せ+ある(有)説、
と
仰せ+らる説、
に分かれる。どちらとも決めがたく、
室町時代に現われた「おしゃる」(「おほす」+「やる」)が、江戸時代に「おっしゃる」となったとする説がある一方、二つとも同時的に例があるため共に「おほせある」また、「おほせらる」からと見る説もある。成立時期は、近世前期と見られる、
とある(日本語源大辞典)。
もとになった、
おほす(おおす)、
は、
仰す、
課す、
負す、
と当て(岩波古語辞典)、
オフ(負)の古い他動詞形。人に背負わせる意が原義。転じて、人に課し命じる意。さらに転じて貴人が名を付ける意、
とある(仝上)。
上位者が命令して負わせる、
意である(日本語源広辞典)。
仰す、
は、
命令を相手に背負わせる意(広辞苑)、
命令を負(おほ)する意(大言海)、
で、
言いつける、
意となる。
おほす(負)、
は、
背に負わしむ、
おほす(課)、
は、
徴す、
課す、
となる。「おほす」には、
生す、
と当て、
生(お)ひしむ、
もある(大言海)。
山吹は撫でつつ於保佐(おほさ)むありつつも君来(き)ましつつかざしたりけりおほしむ(万葉集)、
と、
これも、「おほす」の流れにあるように感じる。
「おっしゃる」は、言うの尊敬語には違いないが、「仰す」の原義「負ふ」のもつ、上の者が下の者に背負わせる、という含意が底流しているように感じられる。
「仰」(漢音ギョウ、呉音ゴウ、慣用コウ)は、
会意兼形声。卬(ギョウ あおぐ)は、高くたって見下ろす人と低くひざまずいて見上げる人との会意文字。仰はそれを音符とし、⇆の方向にかみ合う動作を意味する、
とあり(漢字源・角川新字源)、「あおぐ」意である。別に、
会意兼形声文字です(人+卬)。「横から見た人」の象形と「立つ人の象形とひざまずく人の象形」(「立つ人をあおぎ見る(上方を見る)」の意味)から、「あおぐ(頭をあげて見る)」、「見上げる」を意味する「仰」という漢字が成り立ちました、
という解釈もある(https://okjiten.jp/kanji1104.html)。
(「仰」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1104.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95