2021年08月16日

土用


「土用」は、梅雨明けの夏の土用だけを言っているが、

暦法で、立夏の前18日を春の土用、立秋の前18日を夏の土用、立冬の前18日を秋の土用、立春の前18日を冬の土用といい、その初めの日を土用の入りという、

と(広辞苑)、一年に四度あり、春の土用は、二十四節気の、

清明の後の十三日(四月十七日)より十八日間にして、終れば立夏、

夏の土用は、同じく、

小暑の後十三日(七月廿日)より立秋に至る、

秋の土用は、同じく、

寒露の後十三日(十月廿日)より立冬に至る、

冬の土用は、同じく、

小寒の後十三日(一月十七日)より立春に至る、

とある(大言海)。

本来土用は五行説をもっともらしく成立させるために考え出されたもので、五行の五から四季の四を引くと一余ってしまう。これではうまく対応させられないので土用なるものを案出した。
一年三六五日を五で割って七三日、この七三日を、春と木、夏と火、秋と金、冬と水とを結びつけた各にあてがう。五行の真ん中の土の七三日を四分の一に分け、一八日余りとし、これを各季節の終わりに配当して、これを、土が司る土用とした、

とある(内田正男『暦と日本人』)。

「土」 漢字.gif

(「土」 https://kakijun.jp/page/0318200.htmlより)

この由来は中国だが、

太陽系の天体、水星・金星・火星、木星・土星の五星は古来から知られた惑星で、天空上におけるその運行は複雑で、……古代人にとっては五惑星の運行は神秘的なもので、五星の運行が地上百般の現象と、何らかの関係があるのではなかろうか、という考えから、森羅万象がすべて五惑星の木・火・土・金・水の精気によって影響されるという思想が生まれた(渡邊敏夫『暦のすべて―その歴史と文化』)。

これが、五行説である。中国では、立春、立夏、立秋、立冬にそれぞれ始まる春・夏・秋・冬にも、木・火・土・金・水の五行を割り当てようとした。そこで、春・夏・秋・冬の、

各季の五分の一の長さをその終わりから削り取って、五行の中央に位置する土の支配するところとする、

つまり、

各季の長さ91.310日からその五分の一の18.262日をとって、土の司るところ、

としたものである(仝上)。したがって、

各季節九十一日余の終り十八日余が土に属する、

ということになった。だから、

春の土用、
夏の土用、
秋の土用、
冬の土用、

とあるのだが、夏の土用が、五行説からいってももっとも土気が旺んなるため、今日夏の土用だけが、普通に言われるようになった、と思われる。

夏の土用の入りは大体七月二十日ころであるが、夏の土用に入って最初の丑の日が、

土用丑、

である。夏の土用に入って三日目を、

土用三郎、

といい、古来、

この日の天候が快晴なら豊年、雨ならば凶年、

とされてきた(仝上)。

今日の暦では、太陽が黄経、

27度に達した時が春の土用の入り、
117度に達した時が夏の土用の入り、
207度に達した時が秋の土用の入り、
297度に達した時が冬の土用の入り、

とされる(仝上)。

「土用」の語源は、

土王の義。王の字を避けて用をもちいる(梅窓筆記・和訓栞・日本語源広辞典)、

と、

ドワウ(土旺)の訛り(大言海)、

の二説あるが、

土旺用事の略、

とある(渡邊・前掲書)。「土旺用事」とは、

土(つち)が旺(さかんに)なり用事(働き・支配)をする、

意でhttps://madokawindow.com/557.html

土がもっとも働く時、

である。五行説から考えれば、これが妥当ではないか。

古来、土用の期間は土いじりをしてはいけないと言われてきました。……陰陽道の神の中の一人に土公神(どくしん・どくじん)という神様がいます。土公神は土を司る神様で、土用の期間は土を支配するとされていたため、土公神が土を支配している期間は土いじりをしてはいけないと言われていますhttps://kishimojin.net/archives/12139

とも、

土用の間は土の気が盛んになるとして動土・穴掘り等の土を犯す作業や殺生が忌まれた。ただ土用に入る前に着工して土用中も作業を続けることは差し支えないとされ、「土用の間日(まび)」には土用の障りがないとされたhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E7%94%A8

ともある。

「鰻登り」(北斎漫画.jpg

(「鰻登り」(北斎漫画) https://www.unagi-koubou.jp/contents/blog/1819.htmlより)

なお、暑い時期に栄養価の高いウナギを食べるという習慣は古代に端を発するらしいが、土用の丑の日に食べる習慣となったのは、文政五年(1822~23)当時の話題を集めた『明和誌』(青山白峰著)によれば、安永・天明の頃(1772~88年)よりの風習である、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E7%94%A8%E3%81%AE%E4%B8%91%E3%81%AE%E6%97%A5

「土」(慣用ド、漢音ト、呉音ツ)は、

象形。土を盛った姿を描いたもの。古代人は土に万物を生み出す充実した力があると認め、土をまつった。このことから、土は充実したの意を含む。また、土の字は社の原字であり、やがて土地の神や氏神の意となる。のち、各地の代表的な樹木を形代として土に代えた、

とある(漢字源)。

「土」 成り立ち.gif

(「土」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji80.htmlより)

参考文献;
渡邊敏夫『暦のすべて―その歴史と文化』(雄山閣)
内田正男『暦と日本人』(雄山閣)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:15| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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