「虎」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482959788.html?1629140731)で触れたように、和語「とら」の語源説に、
恐ろしくてトラ(捕)まえられぬから(和句解)、
逆に、
人を捕る意から(日本釈名・和訓栞)、
トル(採)義(言元梯)、
トリクラヒ(捕食)の義(日本語原学=林甕臣)、
等々と、「捕らえる」と関連づける説がある。その是非は別として、「とらえる」は、
捕(ら)える、
捉える、
執える、
と当て(広辞苑・岩波古語辞典・大言海)、文語は、
とらふ(下二段)、
である(広辞苑)。「とらふ」は、
トリ(取)アフ(合)の約(岩波古語辞典)、
ト(取)リア(敢)ウの約(広辞苑)、
トリ堪(ア)フ。無理に……するの意の補助動詞アフ(下二段)が接して約音現象を起こしたものか(時代別国語大辞典-上代編)、
トリサヘヲフ(取塞追)の義、またトリオサヘル(取押然)の義(日本語原学=林甕臣)、
等々の諸説がある。ただ、
トル(取)の義から(和句解・名言通・国語の語根とその分類=大島正健)、
取る、又捕るの延(大言海)、
等々といった、「取る」の転訛とするには、「捕らえる」の意味の、
手でしっかりつかむ、しっかり握る、
意から、
人や動物を取り押さえて逃げないようにする、
召しとる、捕縛する、
と、より強い含意に広がり、それをメタファに、
視野・知識などの中にしっかり納める、
意となり、そこから、
好機などを自分のものとする、
物事の本質・特徴などを把握する、
映像・音などをはっきり感じ取る、
ある部分を取り立て問題にする、
等々の意につながっていく(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%A8%E3%82%89%E3%81%88%E3%82%8B・広辞苑・デジタル大辞泉)のを見ると、「取る」とは違うニュアンスがあり、
トリ(取)アフ(合)の約、
よりは、
ト(取)リア(敢)ウの約(広辞苑)、
トリ堪(ア)フ。無理に……するの意の補助動詞アフ(下二段)が接して約音現象を起こしたもの、
等々意識的に「つかむ」意味が強調されているように思われる。
わが命長く欲しけく偽りをよくする人を執(とら)ふばかりを(万葉集)、
の「とらふ」には、そんな執着が感じられる。
接頭語「取り」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/444210858.html)で触れたように、「とる」は、
取る、
採る、
捕る、
執る、
撮る、
録る、
等々と当て、
て(手)と同源(広辞苑)、
手の活用(大言海)、
タ(手)の母音交換形トを動詞化した(岩波古語辞典)、
で、
ものに積極的に働きかけ、その物をしっかり握って自分の自由にする意。また接頭語としては、その動作を自分で手を下してしっかり行い、また、自分の方に取り込む意。類義語ツカミは、物を握りしめる意。モチ(持)は、対象を変化させずそのまま手の中に保つ意、
とある(岩波古語辞典)。だから、「とる」は、
手+る(動詞をつくる機能のル)、
で、
①物の全体をしっかり手中に収めて自分のものにする、
②手を動かして、物事を思う通りに操作する、
③物事を手許へ引き寄せて、こちらの自由にする、
④物事をこちら側の要求・基準に合うように決定する、
と用例を分けられる(岩波古語辞典)ことからみると、「とらふ」は、意識的につかむ意の「取る」をさらに、強化しているという含意と見える。
「捕」(漢音ホ、呉音ブ)は、
形声。「手+音符甫(ホ)」で、手を対象にぴったり当てること、
とあり(漢字源)、「逮捕」「捕縛」等々と使う。別に、
(「捕」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1216.htmlより)
会意兼形声文字です(扌(手)+甫)。「5本の指のある手」の象形と「草の芽の象形と耕地(田畑)の象形」(「田に苗を一面に植える」の意味)から、苗を手にとる事を意味し、そこから、「しっかり手にとる」を意味する「捕」という
漢字が成り立ちました、
とあり(https://okjiten.jp/kanji1216.html)、「甫」の意味がよくわかる。
「捉」(漢音サク、呉音ソク)は、
会意兼形声。足(ソク)は、伸縮するあしのこと。蹙(シュク)・縮(シュク)と同系で、ぎゅっと縮む意を含む。捉は「手+音符足」で、手の筋肉を具っと縮めてつかむこと、
とある(漢字源)。「補足」等々という使い方をする。別に、
(「捉」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2068.htmlより)
形声文字です(扌(手)+足)。「5本の指のある手」の象形と「人の胴体の象形と立ち止まる足の象形」(「足」の意味だが、ここでは、「束(ソク)」に通じ(同じ読みを持つ「束」と同じ意味を持つようになって)、「たばねる」の意味)から、「手で縛る」、「とらえる」を意味する「捉」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji2068.html)。
「執」(慣用シツ、呉・漢音シュウ)は、
会意。「手かせ+人が両手を出して跪いた姿」で、すわった人の両手に手かせをはめ、しっかりとつかまえたさまを示す、
とある(漢字源)。「執着」といった使い方をする。
(「執」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1355.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95