「夜半」は、
やはん、
と訓むが、
よは(わ)、
とも訓ます。「夜半(やはん)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482364862.html)で触れたように、「よは」は、
夜、
夜は、
とも当て(大言海・岩波古語辞典)、
平安・鎌倉時代、多く和歌に使う雅語、
とあり(岩波古語辞典)、
風吹けば沖つ白波たつた山夜半(よは)にや君がひとり越ゆらむ(古今集)、
と、
夜、
真ふけ、
夜中、
の意である(広辞苑・岩波古語辞典)。語源は、
ヨマ(夜閒)の義(大言海・万葉考・雅言考・言元梯・国語の語根とその分類=大島正健)、
ヨフカ(夜深)の義(名語記・三余叢談・名言通・松屋筆記・日本語原学=林甕臣)、
ヨヒyofi(宵)、その母音交替形ユフyufu(夕)等々と同根の語(岩波古語辞典)、
等々の諸説があるように、
本来、現在のヨル(夜)の意で使用されたと考えられる。後に、ヨワは「夜半」と表記され、ヨナカ(夜中)の意で使用された、
とある(日本語源大辞典)。
「よる」の表現には、
よ(夜)、
と、
よる(夜)、
がある。
「よ」が複合語を作るのに対して、「よる」は複合語を作らない、
が(仝上)、古代の夜の時間区分の、
ユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ、
うち、「よる」は、
ユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ(アカトキ)、
と区分され(岩波古語辞典)、
当時の日付変更時点は丑の刻(午前二時頃)と寅の刻(午前四時頃)の間であったが、「よなか」と「あかとき」(明時、「あかつき」の古形)の境はこの時刻変更点と一致している、
とある(日本語源大辞典)が、「よる」の古形、
よ、
が、
ユフベ→ヨヒ→ヨナカ、
と区分されたことになり、「よなか」が、
よべ→こよひ、
と、境界線を挟んで、使い分けられていた。
「よべ」は、昨晩の意だが、昨晩を表す語としては、古代・中古には、
「こよひ」と「よべ」とがあった。当時の日付変更時刻は丑の刻と寅の刻の間(午前三時)であったが、「こよひ」と「よべ」はその時を境としての呼称、日付変更時刻からこちら側を「こよひ」、向こう側を「よべ」とよんだ、
とある(仝上)。
「よ」は、
よひ、
よなか、
よべ(昨夜)、
と、「よる」が「ひる」に対し、暗い時間帯全体を指すのに対し、
特定の一部分だけを取り出していう、
とある(仝上)。とすると、「よは」は、
「よ」+「は」
で、「は」は、はっきりしないが、
端、
とあてる「は」なら、
邊に通ず、
とある(大言海)、
はた、へり、
の意の「は」か、
半(ハン)の音か、
とある(大言海)、
はした、
の意の「は」か、
と考えられ、「よる」の「へり」「はし」の意であり、
よひ、
よなか、
よべ(昨夜)、
のように、特定の時間を指していたのかもしれない。たとえば、「夜半(やはん)」が、
子の時、
夜九ツ、
という限定された時間を指しているように、「よは」も、
ここに壯夫《をとこ》ありて、その形姿《かたち》威儀《よそほひ》時に比《たぐひ》無きが、夜半《さよなか》の時にたちまち來たり(古事記)、
と、
さよなか、
と訓ませているように、かなり限定した時間を指していたように思える。
「よは」に当てた、
夜半、
は、漢語である。
厲之人、夜半生其子、遽取火而視之、汲汲然惟恐其似己也(荘子)
夜半有力者、負之而走(仝上)、
と「夜中」の意である(字源・大言海)。だから、「夜半(やはん)」に引きずられて、広く「夜中」の意味に転化したようである。
「夜半」を、
よなか、
と訓ませるのはそれだろう。
ちなみに、「よ」は、
ヨルの古形、「ひ(日・昼)」対、
太陽の没しているくらい時間、
を指し(岩波古語辞典)、
ヨ(節)の義、日(ヒル)と日(ヒル)との中間の意。闇(やみ)ヤに通ず(大言海・東雅)、
ヨ(間)の義、昼と昼の閒の義(言元梯)、
等々が語源とみられ、「よる」は、
昼の対、
で(岩波古語辞典)、
あかねさす昼は物思ひぬばたまのよるはすがらに音のみし泣かゆ(万葉集)
と、
奈良時代は副詞的に独立した形用いた、
が、
よ(「よる」の古形)+る(接尾語)(日本語源広辞典)、
よ(「よる」の古形)+る(助辞)(大言海・俚言集覧・国語の語根とその分類=大島正健)、
等々が語源とみられる。
「よは」は、
平安・鎌倉時代、多く和歌に使う雅語、
とされるように、
夜半の月(よわのつき 秋の季語)、
夜半の春(よわのはる 春の季語)、
夜半の夏(よわのなつ 夏の季語)、
夜半の秋(よわのあき 秋の季語)、
夜半の冬(よわのふゆ 冬の季語)、
等々と使われている(https://word-dictionary.jp/posts/4535)。
「夜」については、「夜半」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482364862.html)で触れたので、「半」に触れておく。「半」(ハン)は、
会意。「牛+八印」で、牛は、物の代表、八印は両方に分ける意を示し、何かを二つに分けること、八(両分する)はその入声(ニッショウ 音)にあたるから、「牛+音符八」の会意兼形声と考えてよい、
とある(漢字源)。
(「半」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji348.htmlより)
別に、
会意文字です(八+牛)。「二つに分かれているもの」の象形と「角のある牛」の象形から牛のような大きな物を二つに「わける・はんぶん」を意味する「半」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji348.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95