「タイマン」は、
怠慢、
ではなく、
タイマン、
と表記される。広辞苑には載らない。
対マン、
とも表記され、
助太刀無用の1対1の喧嘩、
とあり(実用日本語表現辞典)、
1対1で何かを行うことを、
サシで、
と言うこともあるが、こちらは、
差し向かい、
の略とされる(仝上)、とある。
man対manからできた語(デジタル大辞泉)、
man to manを変形させた「マン対マン」の上略(語源由来辞典)、
ともあり、どうやら、
マンツーマン(man to man)→マン対マン→対マン→タイマン、
と転訛したもののようである(https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%B3)。
不良少年少女が用いる語で、一対一の喧嘩のこと、
とあり、「一騎打ち」や「決闘」との違いは、
タイマンでは武器を持たずに己の拳で殴り合うことにある、
とある(https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%B3)。したがって、
タイマンは拳一つで成り上がる不良たちの掟(ルール)のため、一対一という形式を守っても武器や凶器を使って戦うことはシャバい(カッコ悪い)行為に当たり、例えそれで勝ったとしても周囲からリスペクト(尊敬)を集めることはできない、
ともある(仝上)。これが流行ったのは、1980年代で、
「ツッパリ」と呼ばれる不良少年が好んで使った言葉である。当時は学校同士やグループ同士のケンカの際、最後は相手の権力者(大将・番長)とタイマンでケリをつけることが美徳とされた、
とあり(日本語俗語辞典)、一般化したのは、本宮ひろ志の漫画など当時の不良やツッパリ漫画でよく使われたからだ、ともある(仝上)。
正しいタイマンのやり方、
というのがあるらしく、
①メンチを切る(タイマンしたい相手の目を見て睨むこと ガンつける、とも)、
②タンカ(啖呵)を切る、
③殴る、
とある(https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%B3に譲る)。
これが、広く、
一対一での勝負や交渉、
の意にも使われるようになり、
一騎打ち、
の意と重なるようになる(デジタル大辞泉)。したがって、
「クエスト対象のモンスターとタイマンする」
というように、
対戦ゲームやFPSなどゲームにおいて、対戦相手や敵キャラと、仲間を呼んだり退いたりせずに1対1で戦うこと、
の意で広く使われている(https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%B3)。
同義語「さし」は、
さしで話す、
と使うが、「さし」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/447797237.html)で触れたように、
差し向いの略(江戸語大辞典・大言海)、
であり、「差し」は、接頭語で、
動詞に冠して語勢を強めあるいは整える、
とある(広辞苑)が、
遣るの意なる差すの連用形。他の動詞の上に用ゐること、甚だ多く、次々に列挙するが如し。……又、差しを、指す、擎す、刺すなど、四段活用の動詞に、當字に用ゐることも、多し、
とある(大言海)。
「さし」は、
射し・差し
刺し・挿し、
鎖し・閉し、
注し・点し、
止し、
等々と当て、後から「さし」に漢字を当てたにしても、同じ「さし」でも、区別があったから、異なる漢字を当てたと考えることができる。
最も古くは、自然現象において活動力・生命力が直線的に発現し作用する意。ついで空間的・時間的な目標の一点の方向へ、直線的に運動・力・意向が働き、目標の内部に直入する意、
とあり(岩波古語辞典)、一番多いのは、
差し、
だが、
その職務を指して遣はす意ならむ。此語、さされと、未然形に用ゐられてあれば、差の字音には非ず、和漢、暗合なり。倭訓栞「使をさしつかはす、人足をさすなど、云ふはこの字なり」、
とあり(大言海)、
当てる、遣わす、
押しやる、
突きはる、
将棋を差す、
といった意味で、
「刺す」と同源。ある現象や事物が直線的にいつの間にか物の内部や空間に運動する意、
とある(広辞苑)。
差し遣わす、
差し送る、
差し送る、
差し入れる、
差しかかる、
といった使い方になる。行動のプロセスそのものの意でもあるので、この使い方が一番多いのかもしれない。しかし、「さし」を加えることで、単に、強調する、ということではないはずだ。
渡す、
のと、
差し渡す、
のとでは、「渡す」ことに強いる何かを強調しているし、
出す、
と
差し出す、
も同じだ。
貫く、
と
刺し貫く、
でも、ただ貫いたのではなく、ある一点を目指している、という意味が強まる。
仰ぐ、
と
差し仰ぐ、
では、両者の上下の高さがより強調されることになる。「さし」が、
空間的・時間的な目標の一点の方向へ、直線的に運動・力・意向が働き、目標の内部に直入する意(岩波古語辞典)、
として強調されるということは、
自分の意思、
か、
他人の意思、
が強く働いている含意を強めているように思う。
許す、
と
差し許す、
あるいは、
控える、
と
差し控える、
と、意味なく、強調しているのではない。
差し向かい、
の「さし」も、意思が入っている、と考えると、納得がいく。
漢字「差」(漢音サ、呉音シャ)は、
会意兼形声。左はそばから左手で支える意を含み、交叉(コウサ)の叉(ささえる)と同系。差は「穂の形+音符左」。穂を支えると、上端はX型となり、そろわない。そのジグザグした姿を示す、
とある(漢字源)。
会意形声。「禾」+音符「左」、刈り取るために穂を左手でまとめるの意。支えた手と刈り取る刃物が交叉することか、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B7%AE)のも、
会意兼形声文字です。「ふぞろいの穂が出た稲」の象形と「左手」の象形と「握る所のあるのみ(鑿)又は、さしがね(工具)」の象形から、工具を持つ左手でふぞろいの穂が出た稲を刈り取るを意味し、そこから、「ふぞろい・ばらばら」を意味する「差」という漢字が成り立ちました、
とあるのも(https://okjiten.jp/kanji644.html)、同趣旨。別に、
もと、会意。左(正しくない)と、𠂹(すい)(=垂。たれる)とから成り、ふぞろいなさま、ひいて、くいちがう意を表す。差は、その省略形、
との解釈もある(角川新字源)。
(「差」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B7%AEより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95