2021年08月26日

夜泣石


「夜泣石」は、

夜になると石が泣き出す、という伝説を有する石、

のことで、旧東海道沿いにある、

小夜の中山の夜泣石、

は古くから知られている(広辞苑)。

夜泣き石 (小夜の中山).jpg


遠江国掛川市佐夜鹿の小夜の中山(さよのなかやま)峠にある石、

である。夜になると泣くという伝説があり、

遠州七不思議、

のひとつhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9C%E6%B3%A3%E3%81%8D%E7%9F%B3_%28%E5%B0%8F%E5%A4%9C%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%B1%B1%29、とある。因みに、七不思議には、

夜泣き石(掛川市佐夜鹿、小夜の中山)
桜ヶ池の大蛇(御前崎市佐倉)
池の平の幻の池(浜松市天竜区水窪町池の平)
子生まれ石(牧之原市西萩間、大興寺)
三度栗(菊川市三沢)
京丸牡丹(浜松市天竜区春野町)
波小僧(遠州灘)
片葉の葦(菊川市三沢)
天狗の火(御前崎市)
能満寺のソテツ(吉田町片岡、能満寺)
無間の鐘(掛川市東山、粟ヶ岳)
柳井戸(浜松市北区引佐町)
晴明塚(掛川市大渕)、

が当てられているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%A0%E5%B7%9E%E4%B8%83%E4%B8%8D%E6%80%9D%E8%AD%B0、とか。

「夜泣石」は、

うなり石、
おなり石、

などとしても知られ、岩が泣き声をあげるだけでなく、

人に話しかけたり、音を発したりする、

ものもある。これを、

岩に神霊や精霊が宿り、その想うところを表現しようとするとき鳴動する、

と考えられ、

岩自体を神格化、

してきた背景に根ざしている(日本昔話事典)、とみられる。

「小夜の中山の夜泣石」は、京都東山から鎌倉に赴くまでの道中の体験や感想を記した、仁治三年(1242)の『東関紀行』以来、多くの文献に載り、安永二年(1773)の「煙霞綺談」西村白鳥(西村白鳥)、文化二年(1805)の『石言遺響』(曲亭馬琴)等々にも似た話が載る。

妊婦が山賊に殺されて、石の下に埋められてから子を産んだ。その幽霊が夜毎に子の食物を買い歩き、その悲しみの声と赤児の声が旅人を悩ませた、

という(仝上)。この話が、いわゆる、

子育て幽霊、

という昔話の話材なっていく。「子育て幽霊」は、

飴買い幽霊、

ともいい、岡本綺堂『中国怪奇小説集』http://ppnetwork.seesaa.net/article/444432230.htmlで触れたように、中国の志怪小説(「志怪」とは、「怪を志(しる)す」)由来と思われ、小夜の中山の夜泣石の伝説も、中国から輸入されたものらしく、宋の洪邁の「夷堅志」のうちに同様の話がある。

馬琴の記したものによると、この話は、

生まれた子は夜泣き石のおかげで近くにある久延寺の和尚に発見され、音八と名付けられて飴で育てられた。音八は成長すると、大和の国の刀研師の弟子となり、すぐに評判の刀研師となった。
そんなある日、音八は客の持ってきた刀を見て「いい刀だが、刃こぼれしているのが実に残念だ」というと、客は「去る十数年前、小夜の中山の丸石の附近で妊婦を切り捨てた時に石にあたったのだ」と言ったため、音八はこの客が母の仇と知り、名乗りをあげて恨みをはらしたということである、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9C%E6%B3%A3%E3%81%8D%E7%9F%B3_%28%E5%B0%8F%E5%A4%9C%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%B1%B1%29、因縁話に変わっている。なお、久延寺の和尚が飴で子を育てたという伝説から、

子育て飴、

という、琥珀色の水飴が小夜の中山の名物となっている(仝上)、という。

一般的には、

女人が非業の死をとげた、

という伝説だが、これに、本来別個の

赤児の伝説、

とが結合して、夜泣石が子育ての信仰の対象となり、夜泣きが治るとか、丈夫になるなどの霊験を伝えることになった(日本昔話事典・日本伝奇伝説大辞典)、とみられる。

夜泣石 鳥山石燕.jpg

(「夜泣石」 「遠州佐夜の中山にあり、むかし孕婦この所にて盗賊のために害せられ、子は胎胞の内に恙なく、幸に生長してその讎を報しとかや」(鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9C%E6%B3%A3%E3%81%8D%E7%9F%B3_%28%E5%B0%8F%E5%A4%9C%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%B1%B1%29
長野県更級郡上山田町には、

姥塚の夜泣石、

があり、姥捨山に捨てられた老婆が石に化して、たびたび鳴動して夜泣した、といい、福井県丹生郡朝日町では、比丘尼が谷外に突き落とされ大石の下になって死に、以来大石は夜泣きするといい、長野県下伊那郡上郷村には、

子泣石、

があり、

山崩れで子供が大石に押しつぶされ、その石から毎夜子供の啼く声がするという。こうした岩石は、総じて、

境の神、

を象徴し、道祖神的な役割を担っているのではないか、という見方もある(日本昔話事典)。類似の伝説に、木が夜泣する(その木を削ると夜泣を止める呪いになる)という

夜泣松、

石に向かって声を出すと、木魅のように音が返ってくる、

鸚鵡石、

等々もある(日本昔話事典)。

参考文献;
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:34| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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