2021年09月15日

禰宜


「禰宜(ねぎ)」は、

神主の下、祝(はふり)の上に位置する神職、伊勢神宮では、少宮司(ショウグウジ)の次、宮掌(クジョウ)の上位、宮司の命を受け祭祀に奉仕し、事務をつかさどる、

とある(広辞苑)。ただ、「禰宜」は、

イナゴ、

の異称でもあり、和漢三才図会(1712)には、

ばった(飛蝗)の異名、

とある。「飛蝗」は、

関東にては䘀螽(イナゴ)類の総称、

とある(大言海)。

古くは「禰宜」は、神主と祝(はふり)の中間に位置したが、現在の神職制によれば、禰宜は、

宮司(ぐうじ)・権(ごん)宮司の下、権禰宜の上に位置する、

とある(日本大百科全書)。

禰宜を初めて置いたのは神宮(伊勢神宮)であり、大宮司の下に10人(現在は12人)置かれ、中世以降は荒木田(あらきだ)氏(内宮(ないくう))と度会(わたらい)氏(外宮(げくう))が世襲した、

とある(仝上)。著名な大社にはたいてい禰宜が置かれているが、賀茂神社、松尾社、日吉社、平野社では禰宜は第一の神職とされ、香取神宮、鹿島神宮ではその上に大禰宜が置かれhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%B0%E5%AE%9C、宇佐(うさ)神宮には女禰宜もいた、とある(日本大百科全書)。「禰宜」は、

年齢的にある程度成熟し、知識や経験が豊富な者が務めることが多く、一般に、祭祀では重要な役割を果たす、

とされるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%B0%E5%AE%9C

「禰宜」の語源は、

祈(ねぎ)の義、我が身、人の上を神に祈る、或いは神を労(ねぐ)の義か(大言海)、
祈ぎ・労ぎ(神の加護を祈る)(日本語源広辞典)、
祈(ね)ぐの連用形(広辞苑)、
ネガフ(願ふ)を早口に発音するとき、ガフ[g(af)u]が縮約されてネグ(祈ぐ)に変化した。その連用形の名詞化である(日本語の語源)、
ねぐ(労)の連用形の名詞化(日本語源大辞典)、
「和ませる」の意味の古語「ねぐ」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%B0%E5%AE%9C

等々、「願ふ」「祈ぐ」「労ぐ」の三説に分かれるようである。

ネギ(祈)の義。自他のことを神に祈る者であるところから(万葉代匠記・万葉集類林・円珠庵雑記・雅言考・俗語考・大言海・「ほ」「うら」から「ほがひ」へ=折口信夫・八重山古謡=宮良当壮・宮良当壮・猫も杓子も=楳垣実)、
ネギゴト(祈)から(南嶺子=百草露)、

と、「祈ぐ」が多数派の見えるが、

ネガヒ(願)の義(名言通)、
ネガヒ(願)の約。ガヒの反はギ(日本声母伝・俚言集覧・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・日本古語大辞典=松岡静雄)、

とする説も少なくない。

禰宜.bmp

(「禰宜」 精選版日本国語大辞典より)

しかし、「ねが(願)ふ」は、

ネグ(労)と同根、神などの心を慰め和らげることによって、自分の望むことが達成されるような取計らいを期待する意。類義語イノルは、タブーとなっていることを口にする意。神の名とか仏の名号とかを口にして呼ぶのが原義、

とあり(岩波古語辞典)、「ねぐ」は、

祈ぐ、
労ぐ、

と当て、

神などの心を安め和らげて、その加護を祈る、

意であり、「労ぐ」も、

ねぐ(祈)から(国語の語根とその分類=大島正健)、

とあり、「願ふ」は、

祈(ね)ぐの延、

と(大言海)、

願ふ、
祈ぐ、
労ぐ、

の語源は、ほぼ重なるのである。つまり、

神などの心を安め和らげて、その加護を祈る、

ことであり、

神の心を慰め和らげ祈請の事にあたる者、

を、

ねぎ、

としたとみていい。「禰宜」は当然、当て字である。

「ねぐ」(労)について、

他の心を慰めいたわる意を原義とし、上位に対するとき願う意に、下位に対するときねぎらう意になるとする、

説があり(時代別国語大辞典・上代編)、

「禰宜」も、この上二段活用動詞の連用形の名詞化とすれば、「宜」が乙類の文字であるのとよく合う、

ともある(精選版日本国語大辞典)。

因みに、「権禰宜」(ごんねぎ)は、

禰宜の下位にあたる最も一般的な職階。宮司および禰宜が一般的に、1社に1人ずつと決められているのに対して、権禰宜には人数制限は特に設けられていない。権禰宜の下位に「出仕」などの職階が置かれることもあるが、それらは神職には含まれない、

とある(実用日本語表現辞典)が、この「権」は、

実に対して仮(かり)、

の意味があり、

権大納言、

といったように、

官位を示す語に冠して、定員外に権(かり)に置いた地位を示す、

意であり、

本来のものに準ずる、

意を持つので、「禰宜」に準ずるという意になる。

「禰」 漢字.gif

(「禰」 https://kakijun.jp/page/ne18200.htmlより)

「禰(祢)」(漢音デイ、呉音ネ・ナイ、慣用ネイ)は、

会意文字。「示+音符爾(シ・ニ 近い、身近な)」、

とあり(漢字源)、別の解釈では、

「禰」 成り立ち.gif

(「禰」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2621.htmlより)

形声文字です(示(ネ)+爾)。「神にいけにえをささげる台」の象形(「祖先の神」の意味)と「美しく輝く花」の象形(「美しく輝く花」の意味だが、ここでは、「邇(ジ)」に通じ(同じ読みを持つ「邇」と同じ意味を持つようになって)、「近い」の意味)から、自分に最も近い先祖「父のおたまや」を意味する「禰」という漢字が成り立ちました、

と、より詳細であるhttps://okjiten.jp/kanji2621.html

「宜」 漢字.gif

(「宜」 https://kakijun.jp/page/0865200.htmlより)

「宜」(ギ)は、

会意文字。「宀(やね)+多(肉を盛ったさま)」で、肉をたくさん盛って、形よくお供えをするさまを示す。転じて、形がよい、適切であるなどの意となる、

とある(漢字源)。別に、

「宜」 甲骨文字.png

(「宜」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AE%9Cより)

会意文字です(宀+且)。「屋根・家屋」の象形と「まないたの上に肉片をのせた」象形から、出陣にあたり、屋内で行われる儀礼にかなった調理を意味し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「よろしい」を意味する「宜」という漢字が成り立ちました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji1366.html。「ねぎ」に当てた、「禰」も「宜」も、共に「御供え」の意があり、ふさわしい字を当てたものだと感心させられる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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