「をとこ」は、
男、
と当て、古くは、
をとめ(少女)の対、
とされる(岩波古語辞典・広辞苑)。つまり、
「ひこ(彦)」「ひめ(姫)」などと同様、「こ」「め」を男女の対立を示す形態素として、「をとめ」に対する語として成立した、
もので(精選版日本国語大辞典)、
ヲトは、ヲツ(変若)・ヲチ(復)と同根、若い生命力が活動すること。コは子。上代では結婚期に達している若い男性。平安時代以後、「をんな(女)」の対で、男性一般をいう。類義語ヲノコは男の子の意で、もとは、健児・従者・召使の意、
とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。ただ、「をとこ」と「をのこ」とは、
「をとこ」は、古くは「をとめ」と対応して年若い男性をさし、のちに広く「をんな」に対するものとして性を意識して用いるようになった。これに対し、類義語「をのこ」は、男性を意味しても性の意識は少なく、「をとこ」が「夫」を意味することがあるのに対して、「夫」の意味はない、
との説明もある(学研全訳古語辞典)。
いずれにせよ、「をとこ」は、
をとめらにをとこたち添ひ踏みならす西の都は万代(よろづよ)の宮(続日本紀)、
と、
をとめの対、
の、「若い男性」の意から、
秋野には今こそ行かめもののふのをとこをみなの花にほひ見に(万葉集)、
と、
をみな・をんなの対、
の、「(一人前の)男性」の意へと広がったことになる。
「をと」は、
をつの名詞形、
であり、「をつ」は、
変若つ、
復つ、
と当て、
変若(お)つること、
つまり、
もとへ戻ること、
初へ返ること、
で、
我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ(大伴旅人)、
と、
若々しい活力が戻る、
生命が若返る、
意であり(仝上・大言海)、
若い、
未熟、
の含意である。もともと「を」は、
雄、
牡、
男、
夫、
等々と当て、
め(牝・雌・女・妻)の対、
で、
高円の秋野の上の朝霧に妻呼ぶ牡(を)鹿出て立つらむか(万葉集)、
と、
上代では動植物・神・人を問わず広く使われたが、平安時代以後は複合語の中に用いられ、「をのこ(健児・従者)「をのわらは(男の童)」「しずのを(賤の男)」「あらを(荒男)」など、卑しめられ、低く扱われる男性を指すことが多くなり、男性一般を表すには「をとこ」がこれに取って代わった、
とある(岩波古語辞典)。
漢字「男」(漢音ダン、呉音ナン)は、最古の部首別漢字字典『説文解字』に、
男丈夫也、从田从力、言用力於田成、、
とある(大言海・字源)。
田力に从(従)い、力を田に用いる、
で、
会意。「田(はたけ、狩り)+力」で、工作や狩りに力を出すおとこを示す、
とある(漢字源)。
別に、
会意文字です(田+力)。「耕作地」の象形と「力強い腕」の象形から、耕作地を力強い腕で耕しているさま(様)を表し、そこから、「おとこ」を意味する「男」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji31.html)。
(「男」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%B7より)
なお「子」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465595147.html)については触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95