2021年10月03日

をっと


「を(お)っと」は、

夫、
良人、

等々と当てる(広辞苑)が、「夫」は、「め」http://ppnetwork.seesaa.net/article/483689364.html?1633116498で触れたように、

を、

とも訓ます。古く、「夫」を、

を、

といった(大言海)ので、

夫人(ヲヒト)の転なるヲウトの急呼(大言海)、

とするが、多くは、

ヲヒト(男人)の音便形(岩波古語辞典)、
ヲヒト(男人)の略(俗語考・菊池俗語考)、

あるいは、

ヲヒト(雄人)の転(国語の語根とその分類=大島正健)、
ヲヒト(雄人)の促音化(日本語源広辞典)、

である。要は、「を」に当てる、

雄、
牡、
男、
夫、

のどれを取るかの差に過ぎない。平安初期(868年頃)の『令集解』に、

夫、俗に呼比止(をひと)と云ふ、

とあり、平安期(898~901頃)の漢和辞典『新撰字鏡』には、

をうと(夫)、

が載る。『白氏文集天永四年点』(1113)には、

聟(ヲフト)塩商たること十五年、

と訓じ、平安末期(11世紀末~12世紀頃)の『名義抄』にも、

「聟」の訓として「をひと」が用いられている、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AB

要は、

ヲヒト→ヲフト→ヲウト→オット、

と転訛したことになる。別に、

ヲサヒト(長人)の義(日本語原学=林甕臣)、

等々もあるが、

「め(女)」の対、

の「を」でいいのではあるまいか。

また、「夫」は、

ひこぢ、

とも訓ませる(広辞苑・精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。

其の比古遅(ヒコヂ)〈三字は音を以ゐよ〉答へて歌ひたまひしく(古事記)、

と、

「ひこ」は男子の美称。「じ」は敬称、

で、

りっぱな夫、

の意である(仝上)。

彦男、

とも当てる(岩波古語辞典)。

また、「つま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.htmlで触れたように、「夫」は、

ツマ、

とも訓み、

妻、

とも当てる。「つま」は、

妻、
夫、
端、
褄、
爪、

と当てて、

爪、

を「つま」と訓むのは、「つめ」の古形だが、

端(ツマ)、ツマ(妻・夫)と同じ、

とある(岩波古語辞典)。「端」は、

物の本体の脇の方、はしの意。ツマ(妻・夫)、ツマ(褄)、ツマ(爪)と同じ、

とあり(仝上)、「つま(妻・夫)」は、

結婚にあたって、本家の端(つま)に妻屋を立てて住む者の意、

で、「妻」も「端」につながり、「つま(褄)」も、

着物のツマ(端)の意、

で、「つま(端)」につながる。しかし、「つま(端)」には、

詰間(つめま)の略。間は家なり、家の詰の意、

とあり(大言海)、「間」には、

家の柱と柱との中間(アヒダ)、

の意味がある(仝上)。さらに、「つま(妻・夫)」は、

連身(つれみ)の略転、物二つ相並ぶに云ふ、

とあり、「つま(褄)」も、

二つ相対するものに云ふ、

とあり(大言海)、「つま(妻・夫)」の語意に同じ」なのである。「夫」、「妻」を、ともに、

ツマ、

と呼んだのは、「つま」を、

はし(端)、

とする説よりは、

あいだ、

とする説の方に分があるように思える。「連身」は、

ツレ(連)+マ(身)、

で、後世の「連れ合い」である。上代には、

夫も妻もツマ、

と言っていたことは、「端」説では説明がつかない。上代対等であった、

夫、

妻、

が、時代とともに、「妻」を「端」とするようになった結果、

つま(端)、

語源説になったのではあるまいか。

「夫」 漢字.gif

(「夫」 https://kakijun.jp/page/0442200.htmlより)

「夫」(漢音・呉音フ、慣用フウ)は、

象形。大の字に立った人の頭に、まげ、または冠のしるしをつけた姿を描いたもので、成年に達したおとこをあらわす、

とある(漢字源)が、髷に簪を挿したとする説https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%ABが目立つ。頭部にかんざしをさして、正面を向いて立った人の形にかたどる(角川新字源)ともある。

「夫」 甲骨文字.png

(「夫」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%ABより)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:をっと 良人
posted by Toshi at 04:37| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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