「めのこ」は、
女の子、
「をのこ」は、
男の子、
と、それぞれ当て(広辞苑)、
「めのこ」
と
「をのこ」
とは対である。「め」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483689364.html?1633116498)で触れたように、「め」は、
牝、
雌、
女、
妻、
等々と当て、「を」は、
雄、
牡、
男、
夫、
等々と当て、
「を」と「め」は対、
である(岩波古語辞典)。「め」は、
女神、
女鹿、
雌蕊、
手弱女(たおやめ)、
等々と、
多く複合語として使う。動植物の雌の意。人間にも、男と一対をなす女の意で使うが、多くは女を見下げたり卑下したりする気持ちでいう。また、妻を指す場合もあるが平安時代には受領以下の人の妻をいうことが多く、天皇・貴族の正妻を指すことはほとんどない。軽侮の意を表す接尾語メも、これの転用、
とあり(仝上)、「を」も、
上代では動植物・神・人を問わず広く使われたが、平安時代以後は複合語の中に用いられ、「をのこ(健児・従者)「をのわらは(男の童)」「しずのを(賤の男)」「あらを(荒男)」など、卑しめられ、低く扱われる男性を指すことが多くなり、男性一般を表すには「をとこ」がこれに取って代わった、
とある(岩波古語辞典)。「め」も、
古くは女性一般を意味していたが、平安時代以降、「をんな」と次第に交代し「め」は待遇度が低下して、女性の蔑称として用いられることとなった、
とある(日本語源大辞典)。
で、「めのこ」は、
女の子、
と当てるが、
男(をとこ)女(メノコ)を呼(よ)ひて王子(みこ)と曰ふ(書紀)、
と、
おんなの子ども、女児、
の意だけではなく、古くから、
吐大羅(とら)人、妻(め)舎衛婦人(メノコ)と共に来(もう)けり(斉明紀)、
と、
おんな、
の意で使う。特に、
身分の高くない女性、
の意とある(岩波古語辞典)。「め」がそうなったように、
その家のめのこども出でて、浮海松(うきみる)の浪によせられたるを拾ひて、家の内にもて來ぬ(伊勢物語)、
と、
召使いの女、
の意ともなる(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
女児の意では、だからか、
めのこご(女の子子)、
めこ(女子)、
めなご(女子・女児)、
等々を使う。
「をのこ」も、
すべてをのこをば、女に笑はれぬやうにおほしたつべしとぞ(徒然草)、
と、
男の子、男児、
の意でも使うが、
鶏が鳴く東男(あづまをのこ)は出で向ひかへり見せずて勇みたる猛き軍士とねぎたまひ任(ま)けのまにまに(万葉集)、
と、
成人男性、
の意で使い、特に、
(ヲは)平安時代以後は、低い者として扱う男性を指すことが多い。ヲノコも多くは軍卒・侍臣・下男などの意。男の意と見られる場合も、尊敬の対象とはならない男性を指し、類義語ヲトコのような、結婚の相手としての男性の意に用いない、
とあり(岩波古語辞典)。
宿直人(とのゐびと)めくをのこなまかたくなし(生頑なし)き、出で来たり(源氏)
と、
下男、召使、
の意で使われ(仝上)、
宮中(殿上)や貴人に仕える男性を指すのに用いられたことで、この用法も含めて広く、世代的身分的に下の存在の男性と認識されたところが、類義語「おとこ(をとこ)」との違いであったとみられる、
とある(精選版日本国語大辞典)。
をのこご(男子)、
も、
八(や)つ、九(ここの)つ、十(とを)ばかりなどのをのこごの、声は幼げにて文読みたる、いとうつくし(枕草子)、
と、
男児、
の意だが、
むつましき人なれど、をのこごにはうち解くまじきものなり(源氏)、
と、
男性、
の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。
その意味では、上代のヲ・メは、十世紀には、
ヲトコ・ヲンナ、
へと移行していたと見られるが、
を(男)→をとこ、
め(女)→をんな、
と変化したというよりは、
を→をのこ→をとこ、
め→めのこ→をんな、
と、「をのこ」「めのこ」を並行して使っていたと思われる。ただ、
をのこ、
めのこ、
が、相手を低く見る意の方へシフトしていくにつれて、
をとこ、
をんな、
が、男性、女性の汎称として浮上してきた、と見ることができそうである。
「子」(漢呉音シ、唐音ス)は、
象形。子の原字に、二つあり、一つは、小さい子供を描いたもの。もう一つは、子供の頭髪がどんどん伸びるさまを示し、おもに十二支の子(シ)の場合に用いた。のちこの二つは混同して子と書かれる、
とある(漢字源)。他は、
象形文字です。「頭部が大きく手・足のなよやかな乳児」の象形から、「こ」を意味する「子」という漢字が成り立ちました、
とする(https://okjiten.jp/kanji29.html)。
(「子」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AD%90より)
なお「子」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465595147.html)については触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95