2021年10月06日

をとめ


「をとこ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/483673592.html?1633030409で触れたように、「をとめ」は、古くは、

をとこの対、

である(岩波古語辞典)。

「おとめ」は、

少女、
乙女、

と当てる(広辞苑・大言海)。和名類聚鈔(平安中期)は、

少女、乎止米、

類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう 11~12世紀)は、

少女、ヲトメ、

と、それぞれしている。

「ひこ(彦)」「ひめ(姫)」などと同様、「こ」「め」を男女の対立を示す形態素として、「をとこ」に対する語として成立した、

もので(精選版日本国語大辞典)、

ヲトは、ヲツ(変若)・ヲチ(復)と同根、若い生命力が活動すること。メは女。上代では結婚期にある少女。特に宮廷に奉仕する若い官女の意に使われ、平安時代以後は女性一般の名は「をんな(女)」に譲り、ヲトメは(五節の)舞姫の意、

とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。

風のむた寄せ來る波に漁(いさり)する海人(あま)のをとめが裳の裾濡れぬ(万葉集)、

と、

少女、

の意から、

藤原の大宮仕へ生れつがむをとめがともは羨(とも)しきろかも(万葉集)、

宮廷につかえる若い官女、

の意でも、

(五節の舞姫を見て詠める)あまつ風雲のかよひぢ吹きとぢよをとめの姿しばととどめむ(古今集)、

と、

舞姫、

の意でも使われる。

少女子、

とあてる、

をとめご、

も、

少女、

の意と、

天人の舞を舞う少女、舞姫、

の意がある(岩波古語辞典)。

「をとめ」の「をと」は、「をとこ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/483673592.html?1633030409で触れたように、

をつの名詞形、

であり、「をつ」は、

変若つ、
復つ、

と当て、

変若(お)つること、

つまり、

もとへ戻ること、
初へ返ること、

で、

我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ(大伴旅人)、

と、

若々しい活力が戻る、
生命が若返る、

意であり(仝上・大言海)、

若い、
未熟、

の含意である。となると、

小之女(ヲツメ)の転(大言海・和訓栞・国語の語根とその分類=大島正健)、
小姥(ヲトメ)の義(大言海)、
ヲノメ(少女)から(名言通)、

は採れまい。

古代では、「をとこ」―「をとめ」で対をなしていたが、「をとこ」が男性一般の意となって、女性一般の意の「をんな」と対をなすように変わり、それに伴って、平安時代には「をとめ」も「少女」と記され、天女や巫女を表すようになった、

とある(日本語源大辞典)。だから、

乙女、

は当て字で、

「おとうと」の「おと」と同じく年下の意であるが、「お」と「を」の区別が失われて用いられるようになった当て字、

とある(仝上)。そうなると、

ワ行の方が若く、ア行の方が老いた女をあらわします、

とある(日本語源広辞典)ように、古くは、

ヲ(袁)とオ(於)を以て老少を区別する(古事記伝)、

と、

老若の違い、

があったらしいのが、「お」と「を」の区別が失われ、

おみな(嫗)⇔をみな(女)

の区別がつかなくなった。

「乙」 漢字.gif

(「乙」 https://kakijun.jp/page/0102200.htmlより)

「乙」(漢音イツ、呉音オツ・オチ)は、

指示。つかえ曲がって止まることを示す。軋(アツ 車輪で上から下へ押さえる)や吃(キツ 息がつまる)などに音符として含まれる、

とある(漢字源)が、別に、

象形。草木が曲がりくねって芽生えるさまにかたどる。借りて、十干(じつかん)の第二位に用いる、

ともあり(角川新字源)、さらに、

指事。ものがつかえて進まないさま(藤堂)。象形:へらとして用いた獣の骨を象る(白川)。十干に用いられるうち、原義が忘れられた、

ともあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%99

「乙」 金文.png

(「乙」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%99より)

さらに、

象形文字です。「ジグザグなもの」の象形から、物事がスムーズに進まないさま・種から出た芽が地上に出ようとして曲がりくねった状態を表し、そこから、「まがる」、「かがまる」、「きのと」を意味する「乙」という漢字が成り立ちました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji1506.html。つまり、「乙」を、象形文字とする説と指事文字(形で表すことが難しい物事を点画の組み合わせによって表して作られた文字)とする説がある。形があるからそれを象れるが、形がないから、点画の組み合わせによって表して作ったということになるので、なぞる形の有無にすぎまい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:45| Comment(0) | カテゴリ無し | 更新情報をチェックする
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