大村由己の「惟任退治記」のラストに、
偈に曰く
四十九の夢一場、威名什麽(なんま)の存亡とか説かん
請ふ看よ火裡(かり)烏曇鉢(うどんばち)、吹作(すいさく)す梅花遍界香(こうば)し、
とある。「烏曇鉢(うどんばち)」とあるのは、
優曇鉢、
のことで、
梵語のउडुम्बर(ウドゥンバラ uumbara)音写で、
優曇婆羅、
烏曇跋羅、
優曇鉢華、
等々とも当てる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%86%E3%81%A9%E3%82%93%E3%81%92・百科事典マイペディア)。略して、
優曇、
憂曇、
といい、
瑞祥、
の意とあり(岩波古語辞典)、
霊瑞花、
空起花、
起空花、
などを意味する(https://www.visiontimesjp.com/?p=4622)、
3000年に一度しか花を開かないというインド伝説上の植物、
とされ、
優曇華、
または、
憂曇華、
ともいう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%86%E3%81%A9%E3%82%93%E3%81%92・百科事典マイペディア)。その花を、
うどんげばな、
という。
仏教では、
その花が開くとき、
金輪王が出現する、
といい、また、
如来が世に出現する、
と伝え(広辞苑)、経典の中では、
難値難遇(なんちなんぐう)、
つまり、
仏に会い難く、人身を受け難く、仏法を聞き難い、
という、
とてもめったに出会うことのできない稀な事柄や出来事を喩える話、
とされ(http://www.tendai.or.jp/houwashuu/kiji.php?nid=78)、『大般若経』では、
如来に会うて妙法を聞くを得るは、希有なること優曇華の如し、
と説き、
『法華経』では、
仏に値(あ)いたてまつることを得ることの難きこと、優曇婆羅の華の如く、また、一眼の亀の浮木の孔(あな)に値うが如ければなり、
と説き、大海に住む百年に一度海面に頭を出す一眼の亀が、風に流されてきた一つの孔のある浮き木の孔の中にたまたま頭をつっこむという、
めったにない幸運で仏の教えにめぐりあうこと、
に喩える(http://www.tendai.or.jp/houwashuu/kiji.php?nid=78)。『金光明経』には、
希有、希有、佛出於世、如優曇華時一現耳、
とある(大言海)。また、『法華文句』には、
優曇華は、霊瑞の意を示し、三千年に一度現れる。この花が現れたときに、金輪王(轉輪聖王)がこの世に現れる、
とあり、『慧琳音義』には、
この花は天上の花であり、 人間世界には存在しない。もし、如来佛がこの世に下り、金輪王がこの世に現れれば、その偉大な福徳力によって、初めてこの世に優曇華の花が見られる、
とある(https://www.visiontimesjp.com/?p=4622)。
ある時、弟子たちが釈迦牟尼佛の説法を聞いた後、女弟子の蓮華色が「世尊。将来、轉輪聖王が下界に現れ伝法すると仰いましたが、人々はどのようにその時を知るのでしょうか?」と丁重に尋ねた。釈迦牟尼佛は「その時になると、優曇婆羅という花が広範囲に咲き、轉輪聖王がこの世で法を伝え、衆生を救い済度していることを示します」と明らかにした。釈迦牟尼佛はさらに「この花は人間界の花ではなく、轉輪聖王の一種の吉兆のようなものです。仏によってその象徴は異なりますが、この花は吉兆であり、この尊佛が下界のどこかに現れて説法し、衆生を済度することを予告するものです。あなた達は多くの善根功徳(ぜんごんくどく)を蓄えなさい。あなた達が聖王に出会うまで、私もあなた達に付き添います。あなた達が轉輪聖王の伝法と済度を得ることができれば、私も安心できます。」と続けた、
という(仝上)。
ただ、「うどんげ」が何かについては、いくつかの説がある。ひとつは、
クワ科イチジク属のフサナリイチジク(Ficus glomerata)、
が曇華の元になった植物ではないかともいわれている。
花がくぼんだ花軸の中にあって、外からは見えない。このためインドの伝説では、3000年に1度しか花を開かない、あるいは、如来や転輪聖王(てんりんじようおう)が出現した時だけ花を開くといわれた、
とある(世界大百科事典)。
インド原産で、ヒマラヤ、インド、セイロン島などに分布。葉は長さ一〇~一八センチメートルの先がとがった楕円形。花は小形で壺状の花托に包まれ、外からは見えない。果実は長さ約三センチメートルの倒卵形で食用となり、葉は家畜の飼料となる。仏教では、花が人の目に触れないため、咲いたときを瑞兆とみた、
ともある(精選版日本国語大辞典)。
(フサナリイチジク http://hanoirekishi.web.fc2.com/sung.htmlより)
また「うどんげ」は、
バショウの花、
の異称である。
芭蕉、
と当て、
ショウガ目/バショウ科/バショウ属、
で、
中国原産というバナナの仲間。樹木のようにも見えるが草、多年草である、
とある。
(バショウの花 https://mirusiru.jp/nature/flower/bashouより)
さらに、「うどんげ」は、
クサカゲロウの卵、
を指す。「クサカゲロウ」は、
草蜉蝣、
臭蜉蝣、
と当て、
アミメカゲロウ目(脈翅目)クサカゲロウ科、
に分類される(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%B2%E3%83%AD%E3%82%A6)。一般的には、
成虫は黄緑色の体と水滴型で半透明の翅をもつ、
とある(仝上)。
「クサカゲロウ」が、
他の物に産み付けられた昆虫クサカゲロウの卵塊、
を、
優曇華、
いう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%86%E3%81%A9%E3%82%93%E3%81%92)のである。
二センチメートルくらいの白い糸状をした柄の先に丸い卵をつけたものを、一箇所にかためて産みつけるので、花のように見える。草木の枝や葉などのほか、家の天井などにも見られ、吉凶の前兆とされる、
という(精選版日本国語大辞典)。
(優曇華と呼ばれるクサカゲロウ科の卵 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%B2%E3%83%AD%E3%82%A6より)
「華」(漢音カ、呉音ゲ、ケ)は、
会意兼形声。于は、(ウ |線が=線につかえてまるく曲がったさま。それに植物の葉の垂れた形の垂を加えたのが鼻の原字。「艸+垂(たける)+音符于)で、くぼんで丸く曲がるの意を含む、
とある(漢字源)。
別に、
会意形声。艸と、𠌶(クワ)(はな。・は省略形)とから成り、草木の美しい「はな」の意を表す、
とも(角川新字源)、
(「華」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AFより)
象形。「はな」を象ったもので、「拝」の旁の形が元の形、音は「花」からの仮借、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AF)、
(「華」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1431.htmlより)
会意兼形声文字です。「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「木の花や葉が長く垂れ下がる象形と弓のそりを正す道具の象形(「弓なりに曲がる」の意味)」(「垂れ曲がった草・木の花」の意味)から、「はな(花)」を意味する
「華」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1431.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95