2021年10月17日

猿蟹合戦


「猿蟹合戦」は、

昔噺のひとつ、

で、成立は、

室町末期、

とされる(広辞苑)。基本の筋は、

猿の柿の種と自分の握り飯とを交換した蟹は柿の種をまく。柿の木に実を結ぶと猿は親切ごかしに樹上に登って熟したものは自分で食べ、青く固い柿を投げて蟹を殺す。蟹の子は臼、杵、栗、蜂、牛糞の助けで仇を討つ、

と(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%95%E3%82%8B%E3%81%8B%E3%81%AB%E5%90%88%E6%88%A6・仝上)、

猿と蟹の柿の種と握り飯の交換、
蟹のまいた柿の種の急速な生長、
柿の実を独り占めにする猿、
青い柿を投げつけられた死ぬ蟹、
栗、蜂、牛の糞、臼などの助太刀による子蟹の仇討、

という型が、一般に知られている。室町末期から江戸初期にかけて成立した代表的な五つの昔話、

桃太郎、
かちかち山、
舌切り雀、
花咲爺(はなさかじじい)、

とされる(仝上)。

木に登って柿を食べるサル.png


この昔話は二段からなり、前段は

動物の分配競争、

であり、後段は、

旅する動物、

である(日本大百科全書)とされ、「動物の分配競争」は、

動物昔話の重要な部分をなしており、

連鎖譚(たん)、

として東南アジアには顕著な例が分布している。「かちかち山」の前段も、この種の連鎖譚からの分化とされる(仝上)。後段の「旅する動物」は、

グリム兄弟の昔話集の「ブレーメンの音楽隊」の話など、ヨーロッパにも多い昔話である。「猿蟹合戦」とはやや異なった、卵を盗まれた小鳥が、仲間の協力で仇を討つ「雀の仇討」は、日本のほか、類話が古代インドの『パンチャタントラ』や中国大陸にもある。「猿蟹合戦」のように、動物の戦闘隊の型をとる「旅する動物」の類話は、東アジアから北アメリカの先住民に多い。主人公に動物などが協力するという型は、「桃太郎」の骨子とまったく同じで、「猿蟹合戦」の後段には、黍団子など「桃太郎」の要素との交流も現れている、

との解釈がある(仝上)。

猿蟹合戦(燕石雑志).jpg

(猿蟹合戦(滝沢馬琴作『燕石雑志(えんせきざっし) https://kihiminhamame.hatenablog.com/entry/2018/04/29/235700より)

この後半の、

蟹の子の仇討、

部分は、後世の改作とされ(日本伝奇伝説大辞典)、

その背後には、岩手県上閉伊郡に伝わる「雀の仇討」や広島県山県郡の「雀話」がある、

とされる(仝上)。「雀の仇討」は、

竹やぶに巣をつくっている雀の卵を山姥が取って食べ、親雀まで食べられてしまう。ひとつだけ藪に落ちた卵が成長して、稲穂を集めて団子を作り、とちの実、針、蟹、臼、牛、蜂、栗、糞、腐れ縄、百足などが団子をもらう約束で供に加わり、仇討を果たす、

というもの(仝上・日本昔話事典)、「雀話」は、討手は子供を鬼に食われた「親雀」になっており、

栗、蜂、臼、牛の糞、などと鬼退治に行く、

という(仝上)、「桃太郎」に近い話になっている。その他、

猿と蟇(ひき)の寄合田(よりあいだ)、
猿と蟹の寄合餅(よりあいもち)、

等々もある。これは、「猿と雉子」になったりするが、東北地方に分布し、

一緒に田を作る相談がまとまったのに、田打ち、田植え、稲刈りになると、猿が口実を設けて働かず、食べる時になって、自分に都合いいように分配し、猿蟹合戦のように合戦譚になっていく(日本昔話事典)。

前半の「柿争い」の部分は、

猿と蟹と柿、
猿と蟹と餅、

等々、独立して語られている(仝上)。「猿と蟹と柿」は、

伝承の少ない話型のひとつ、

とされ、

たいてい猿と蟹がむすびと柿の種を交換することに始まり、両者の形状の由来譚、

となっている(日本昔話事典)。

蟹のまいた種がすぐに大きくなって実がなると、猿がいいところだけ食べて蟹に青い実を投げつける、

というのは「猿蟹合戦」と同じだが、

蟹の甲羅に爪型があるのは柿をぶつけられた跡(鹿児島県甑島)、

とか、

熟れた柿を独り占めしている猿に、その袋に柿を一杯詰めて枯枝の先にぶら下げたらおもしろいだろうと言われ、猿がその通りにすると、枯枝が折れて落ちた袋を持って蟹は穴に逃げ込む。怒った猿が穴に尻を押しつけ、柿を戻さないと糞を垂れると脅す。その尻を蟹が挟んで離さない。猿は許してもらう代わりに尻の毛を蟹にやる。だから蟹の手には毛があり、猿のしりは赤い(福岡県八女郡)、

等々、由来譚となっている(日本伝奇伝説大辞典)。

喧嘩のもとになった物は、柿と餅だが、

合戦譚をもつ型、

合戦譚をもたない型、

の分布状況が異なり、

「もつ型」の場合、

餅が争いの原因となるのが、青森・岩手・秋田、
柿が争いの原因となるのが、東北・関東・北陸・山陽・四国、

「もたない型」の場合、

餅が争いの原因となるのが、東北・関東・関西・山陽・九州、
柿が争いの原因となるのが、本州・四国の全域、

とある(日本昔話事典)。

関敬吾は、形式論から、

仲間の一人が他を欺いて虐待するという二動物の闘争譚である前半と、爆発、突刺、潤滑、重圧の機能を持つ四種の援助者によって仇を討つ後半からこの昔話は成り立ち、中心モチーフは後半にある、

とみているのに対して、柳田国男は、内容と分布状況から、

前半を重視し、この昔話は古くは猿と蟇(ひき)が餅を争う昔話で、その後、蟇が蟹に変化したり、合戦部分を借入したりしたのであり、その時代は下る生成論を示し、もとは前半部分が独立した昔話ではなかったかと推定した、

とされる(仝上)。

猿蟹合戦絵巻①.jpg

(江戸時代の『猿蟹合戦絵巻』 古典の絵巻で「さるかに合戦」としての作品はほかに例がなく、珍しいといわれる https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%95%E3%82%8B%E3%81%8B%E3%81%AB%E5%90%88%E6%88%A6より)

猿蟹合戦絵巻②.jpg

(江戸時代の『猿蟹合戦絵巻』 子蟹たちの敵討ちの場面。臼、蛇、蜂、荒布、包丁が集まっているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%95%E3%82%8B%E3%81%8B%E3%81%AB%E5%90%88%E6%88%A6より)

「猿」(漢音エン、呉音オン)は、

会意兼形声。「犬+音符爰(エン ひっぱる)。木の枝を引っ張って木登りをするさる。猿は音符を袁(エン)にかえた、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(犭(犬)+袁(爰))。「耳を立てた犬」の象形と「ある物を上下から手をさしのべてひく」象形(「ひく」の意味)から、長い手で物を引き寄せてとる動物「さる(ましら)」を意味する「猿」という漢字が成り立ちました。「猿」は「猨」の略字です、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1815.html

「猿」 漢字.gif

(「猿」 https://kakijun.jp/page/1391200.htmlより)

「猿」に当てる漢字には、「猴」(漢音コウ、呉音グ)もあるが、これは、

「犬+音符侯(からだをかがめてうかがう)」。さるが、様子をうかがう姿から来た名称、

とある(漢字源)。「猿猴(えんこう)」で、「さる」なのだが、両者の区別はよく分からない。孫悟空の場合、通称は、

猴行者、

で、自らは、

美猴王(びこうおう)、

と名乗ったので、「猿」ではなく、「猴」である。「猴」は、

人に似て能く坐立す。顔と尻とには毛がなく赤し、尾短く、性躁にして動くことを好む、

とある(字源)が、猿のかしらは、

山多猴、不畏人、……投以果実、則猴王・猴夫人食畢、羣猴食其余(宋史・闍婆國傳)、

と、

猴王、

という(字源)。「猿」と「猴」は区別していたのかもしれない。

「猴」 漢字.gif


この他に、「さる」の意で、

體離朱之聰視、姿才捷于獼猿(曹植・蝉賦)、



獼猿(ビエン)、

や、「おおざる」の意で、

淋猴即獼猴(漢書・西域傳・註)、



獼猴、

という使い方をする、

獼(ビ)、

がある。「獼」自体、

おおざる、

の意で、

母猴、
淋猴、

ともいう(漢字源)、とある。日本でも、色葉字類抄(1177~81)に、

獼猴 みこう、びこう、

と載り(精選版日本国語大辞典)、

後生に此の獼猴の身を受けて、此の社の神と成るが故に(「霊異記(810~824)」、戦国策・斉策)、
海内一に帰すること三年、獼猴(みごう)の如くなる者天下を掠むこと二十四年、大凶変じて一元に帰す(「太平記(1368~79)」)
仏家には、人の心を猿にたとへられたり。六窓獼猴(ミゴウ)といふ事あり(仮名草子「東海道名所記(1659~61頃)」)、

等々と使われる(仝上)。

参考文献;
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:猿蟹合戦 昔噺
【関連する記事】
posted by Toshi at 04:38| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください