「ひめ」は、
姫、
媛、
と当てる(広辞苑)が、
日女、
比売、
とも当て(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%B2%E3%82%81)、
「め」は女性を表す。「ひ」は後代の「御」に相当する、敬意を表す接頭辞、
であり(仝上)、
ひこ(彦)の対、
とある(仝上・広辞苑)。
「ヒメ」の古形は「ヒミ」と考えられる、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%A1)、『上宮記』は、
推古天皇の別名「豊御食炊屋姫」(とよみけかしきやひめ)を「等已彌居加斯支移比彌」(とよみけかしきやひみ)と記している。阿波国には波尓移麻比彌神社(はにやまひめ)があり、ヒメは比彌(ひみ)と記されている、
として、古代において、
ヒメとヒミは通用していたと思われる、
という(仝上)。
「ひめ」は、上代には、
またの名は比売多多良伊須気余理(たたらいすけより)比売(古事記)、
と、
女性の美称、尊称、
の意(岩波古語辞典)で、
地神(土着)系の女性(メやベ)と区別される、天孫・天神系(天皇やその伴造)の女性を意味した、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%A1)、4世紀まで、
速津媛(はやつひめ 豊国速見地方)、
八女津媛(やめつひめ 筑紫国八女地方)、
等々地域の女性首長の尊称として使われた(仝上)。平安期になると、
この皇女(みこ)は昔名高かりける姫、手書き歌よみなり(宇津保物語)、
と、
貴人の娘、
を指し、そこからだろうか、
ちはやぶる賀茂の社の姫小松よろづ世経(ふ)るとも色は変らじ(古今集)、
とか、
姫鏡、小鏡也(俳諧・乳母)、
とか、
姫百合、
等々と、
他の語に冠して、かわいらしい、きゃしゃで小さいの意を表し、さらに、その意から、
強飯(こはいひ)、
に対して、
姫飯(ひめいひ)、
と、
飯(めし)の意でも使うに至り、終には、江戸期には、
おやま、遊女なり、……女中、姫、などと唱ふ(浪花聞書)
と、
遊女、
の意にまで変化する(岩波古語辞典)。
「ひこ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483945574.html?1634499550)で触れたように、「ひめ」も、
日女の意(広辞苑・大言海・日本語源広辞典・和句解・類聚名物考・俚言集覧・和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥・日本語原学=林甕臣)、
とするのが大勢で、
ヒは日・太陽、ムスヒ(産霊)・ヒモロキ(神籬)のヒと同じ。メは女子の意、
とある(岩波古語辞典)。「め(女)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483689364.html)については、触れた。
霊+メ(女)で、神の娘(日本語源広辞典)、
ヒメ(霊女)の義(箋注和名抄・俚言集覧・名言通・日本語源=賀茂百樹・日本国家の起源=大野晋)、
もほぼ同趣旨とみていい。
ひめ(日陰)の義(柴門和語類集)、
ヒイデタル女の義(日本釈名・柴門和語類集)、
等々は少しその変形か。
なお、古代国家成立以前には、
ヒメ・ヒコ制、
という
兄弟姉妹(姫と彦)による二重支配体制、
があったとされ(世界大百科事典)、
祭祀的・農耕従事的・女性集団の長のヒメ(あるいはミコ、トベを称号とした)、
と
軍事的・戦闘従事的・男性集団の長のヒコ(あるいはタケル、ワケあるいはネを称号とした)、
が共立的あるいは分業的に一定地域を統治していた(高群逸枝)、
とされている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%A1%E3%83%92%E3%82%B3%E5%88%B6)。
「姫」(キ)は、
形声。姫の右側は臣(シン)とは別字で、もと頤(イ あご)の左側と同じ。頤の原字。姫は、女にそれを音符としてそえたもの。あるいは、あごの張った女性の意味か、
とあり(漢字源)、和語で使う「身分の高い女性の尊称」の意はなく、「姫妾(きしょう)」というように、身分の高い人の「めかけ」の意や、宮廷につかえる貴婦人の意である。しかし、
会意形声。「女」+音符「臣」、「臣」は、貴人の前で目を伏せた様で、貴人の前でかしこまること。「説文解字」には見えず、「康煕字典」には掲載があるものの、引用は「集韻」からのみであり稀用の文字と考えられる。現代中国語での使用例はほとんどない。日本では、「姬」の新字体となり、別字衝突が発生している、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A7%AB)、
旧字は、形声。女と、音符𦣝(イ)→(キ)とから成る。もと、周王朝の姓。転じて、貴婦人の意に用いる。常用漢字は、もと「シン」の音で、「つつしむ」意を表す別字であるが、姬の省略形として採用された、
とも(角川新字源)、
(「姫」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1389.htmlより)
会意兼形声文字です。「2つの乳」の象形と「両手をしなやかに重ねた女性」の象形から、「子を養い育てる事ができる女性」、「ひめ」を意味する「姬・姫」という漢字が成り立ちました。「姫」はもと、別字(女+臣(「しっかり開いた目」の象形で「家来」の意味))で「慎む」の意味を表しましたが、のちに、「姬」の略字として用いられるようになりました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1389.html)。
「媛」(漢音呉音エン、呉音オン)は、
会意兼形声。爰(エン)は、両手の間に接触の仲立ちをする物をはさんでゆとりをあけたさま。媛は「女+音符爰」で、優美なゆとりあるゆかしい女、
とあり(漢字源)、「ひめ」の意である。別に、
会意形声。「女」+音符「爰」。「爰」は「爪」「又」(ともに手を意味)の間に物を引っ張る様子。魅力があって気を引く女性の意か、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AA%9B)、
会意兼形声文字です(女+爰)。「両手をしなびやかに重ね、ひざまずく女性」の象形と「あるものを上下からさしのべてひく」象形(「ひく」の意味)から、「心のひかれる美しい女性」を意味する「媛」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1124.html)。
(「媛」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1124.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95