「ひこばえ」は、
蘖、
と当てる。
「孫(ひこ)生え」の意、
とある(広辞苑)。
切り株や木の根元から出る若芽、
をいう(仝上)。新撰字鏡(898~901頃)に、
荑、死木更生也、比古波江、
とある(精選版日本国語大辞典)。
余蘖・余孽(よげつ)、
ともいう。これは、春の季語である。
(ひこばえ デジタル大辞泉より)
太い幹に対して、孫(ひこ)に見立てて、
ひこばえ(孫生え)、
というらしい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%98%96)。訛って、
ひこばゆ、
ひこばう、
等々ともいう(精選版日本国語大辞典)。「ひこ」に、
孫、
を当てることは、「ひこ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483945574.html?1634499550)で触れたが、和名類聚抄に、
子之子為孫、無万古(むまこ)、一云、比古、
とある。これは、
ヒは物を隔つる義、曽孫を更にヒヒコと云ふもこれなり(大言海)、
とし、
他には載らないが、大言海は、「ひ」を、
隔、
重、
と当て、
重(へ)と通ず、
とし、
物を隔つるもの、又、コトの重なること、
とし、
ヒオホヂ(曾祖父)、
ヒオホバ(曽祖母)、
ヒヒコ(曾孫)、
を例示している。
なお、「ひこばえ」は、樹木の切株の新芽を言うが、刈り取った稲の株から生えるのを、
穭(ひつじ)、
という(広辞苑)。「ひつじ」は、訛って、
ひづち
ひつぢ、
ひつち、
ひずち、
等々とも言うが、
稲孫、
と当て(精選版日本国語大辞典)、類聚名義抄(11~12世紀)に、
穭、ヲロカオヒ、俗に云、ヒツチ、
とあるように、室町時代までは、
ひつち、
といった(岩波古語辞典)。これは、
刈れる田におふるひつちの穂にいでぬは世を今更に秋はてぬとか(古今集)、
と、秋である。「をろかおひ」は、
疎生、
穭、
と当て、
刈りあとの株から生えたひこばえ、再生稲、ひつじ、
とある(広辞苑)。
「ひづち」の由来は、
刈れる後の乾土(ヒツチ)より生ふれば名とするか(大言海)、
秣、ヒツチ、稲の再生して実なるを云、秋田をかり、水をおとして後、干土(ヒツチ)より出て、みのるものなればヒツチと云(日本釈名)、
とある(大言海)。「ひづち」は、さらに、
稲の二番生(ばえ)、
ままばえ、
再熟稲(さいじゅくとう)、
おろかおひ(おい)、
等々ともいう(仝上)とあるので、
ただ新芽が出るだけではなく、実のなる、
のを指しているようだ。で、学術的には、
再生イネ、
といい、一般には、
二番穂、
とも呼ばれ、
穭稲(ひつじいね)、
穭生(ひつじばえ)、
等々ともいい、稲刈りのあと穭が茂った田を、
穭田(ひつじだ)、
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%B2%E5%AD%AB)とある。
「蘖(櫱)」(漢音ゲツ、呉音ゲチ)は、
会意兼形声。草冠の下の字(ゲツ)は、途中で切る、刈り取るの意を含む。蘖はそれを音符として、草と木をそえたもの、
とあり(漢字源)、「切株」「ひこばえ」の意である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95