「なぞらえる」は、
準える、
准える、
擬える、
等々と当てる(広辞苑)。
おとにのみこふればくるしなでしこのはなにさかなんなぞらへてみん(「歌仙家集本家持集(11世紀)」)、
というように、
ある物事を類似のものと比較して、仮にそれとみなす、
つまり、
同類なす、
擬する、
見立てる、
という意味だが、さらに、あくまで思考の中での「類比」から、現実、
ならい従う、
となり、
ことの詞(ことば)につきてなぞらへ試みるに、奈良の御世より広まりたると侍る。赤人・人丸が逢ひ奉れる御世と聞えたり(「今鏡(1170)」)、
まねる、
似せる、
という意味でも使う(広辞苑・デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)。
今はなほ昔のかたみになずらへて(源氏物語)
なずらえる、
ともいう。
文語で言ふと、
なぞらふ、
で、
なぞらふの母音交替形、
が、
なずらふ、
とある(岩波古語辞典)。また、室町時代頃からヤ行にも活用し、
なぞらゆ、
とも言った(精選版日本国語大辞典)。
中古以来、「なずらえる」「なぞらえる」の両形がある。古辞書では、古くは「なずらう」の形が圧倒的だが、やがて「なぞらう」がふえてくる。しかし、「なぞう(なそう)」という語形が上代にあり、「なぞらう」はこれからの派生語と考えられるので、「なずらう」の方が古いとも断じにくい、
とある(仝上)ように、「なぞらふ」は、
なぞふの延、あとふ、あとらふの類、
とある(大言海)。あるいは、
「逆ふ」から「さからふ」の語形が生じた如く、「なぞふ」から「なそらふ(←なぞらふ→なずらふ)」が生まれたと考えられる、
ともある(小野寛「なそふ考」)。「なぞふ」は、
準ふ、
准ふ、
比ふ、
等々と当て(岩波古語辞典)、奈良時代までは、
うるはしみ吾(あ)が思(も)ふ君はなでしこが花になそへてみれど飽かぬかも(大伴家持)、
と、
なそふ、
と清音であった(仝上)が、平安時代以後は濁音化した(精選版日本国語大辞典)。語源については、
竝配(なみそ)ふの意、
しか見当たらない(大言海)。
ナゾラフがどのようにして成立したのかは未詳。ナゾフと関係があるとすればラフは接尾語的なものということになるが、ラフは平安時代には発達していない。また、ナゾルから作用継続性動詞としてナゾラフが派生したことも考えられるが、ナゾルが現れるのははるかに時代がくだってから、
とある(精選版日本国語大辞典)ように、意味的には、
書いてある文字の上をなすって書く、
そっくり真似をする、
意の「なぞる」から、
なぞる→なぞらふ→なぞゆ→なぞらえる、
といった転訛が連想されるが、無理筋のようだ。
「准」(漢音呉音シュン、慣用ジュン)は、
会意兼形声。準は「水+十(集め揃える)+音符隹(スイ ずっしり、落ち着く)」の会意兼形声文字。水を落ち着けて水面を平らにそろえること。水準・平均の意を含む。准はその略字、
とあり(漢字源)、「標准(標準)」の「平らにならす」意と、「准用」「准拠」と「基準となる事柄に比べ合わせる」「拠る」意があり、「准后(ジュゴウ)」と「そのものに次ぐ」意、「平均する意から、同等にそろえて扱う意」の意、「准許」「批准」と「許す」意がある(仝上)。もと、准は、官庁の公文書では、準と区別して、主に、ゆるす、よる意に用いる(角川新字源)とある。別に、
(「准」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1595.htmlより)
会意兼形声文字です(氵(水)+隼)。「流れる水」の象形と「鳥の象形の下に一(横線)を加え、人が腕にとまらせた狩りに使う鳥」を示す文字(「はやぶさ」の意味)から、はやぶさの形をしている水準器(一定の物体の地面に対する角度を確認する器具)の意味を表し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「なぞらえる(仮にそれとみなす)」を意味する「准」という漢字が成り立ちました。「准」は「準」の略字です、
とある(https://okjiten.jp/kanji1595.html)。
「準」(慣用ジュン、漢音呉音シュン、漢音セツ、呉音セチ)は、
会意兼形声。隹(スイ)とは、ずんぐりと下体の太った鳥を描いた象形文字。淮(ジュン)は「水+音符隹」の会意兼形声文字で、水がずっしりと下にたまること。準は「十印(そろえる)+音符淮」で、下に溜まって落ち着いたみずの水面を基準として高低を揃えることを示す、
とあり(漢字源)、水準器の「みずもり」(水面が平らになるものを利用して水平かどうかをはかる)の意。そこから派生して、「準則」のような「尺度」の意、「たいらなさま」の「平準」、よりどころにする、なぞらう意の「準拠」「準用」の意、次ぐもの(主となるものに似ている)意の「準用」の意等々に使う。
「擬」(漢音ギ、呉音キ)は、
会意兼形声。疑は「子+止(あし)+音符矣(人が立ち止まり、振り返る姿)」からなる会意兼形声文字で、子供に心が引かれて足を止めてどうしようかと親が思案するさま。擬は「手+音符疑」で、疑の原義をよく保存する。疑は「ためらう、うたがう」意に傾いた、
とあり(漢字源)、「擬案(案を擬す)」のように「じっと思案する」「おしはかる」意と、「模擬」「擬古」のように「なぞらえる」意もある(仝上・角川新字源)。別に、
(「擬」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1783.htmlより)
会意兼形声文字です(扌(手)+疑)。「5本の指のある手」の象形と「十字路の左半分の象形(のちに省略)と人が頭をあげて思いをこらしてじっと立つ象形と角のある牛の象形と立ち止まる足の象形」(「人が分かれ道にたちどまってのろま牛のようになる」の意味)から、「おしはかる」を意味する「擬」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji1783.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95