2021年10月29日

千鳥


「千鳥」は、その字の通り、

朝狩(あさかり)に五百(いほ)つ鳥立て夕狩に千鳥踏み立て許すことなく追ふごとに(万葉集)、

と、

多くの鳥、

の意である(岩波古語辞典・広辞苑)が、この場合、「千」は、

郡飛する意、

となる(大言海)。別に、

チドリ目チドリ科の総称、

の意があり、この場合、

鵆、
鴴、

とも当てる。

コチドリ.jpg


この「千鳥」の由来は、

数多く群れを成して飛ぶからか、また、鳴き声から(広辞苑)、
交鳥(チガエドリ)の義、飛ぶ状より云ふ、或いは云ふ、鳴く声を名とす。鵆は鴴の異体なり、但し(中国南北朝期(439~589)の漢字字典)『玉篇』には、「鵆、荒鳥」とあり、チドリは國訓(大言海)、
鳴き声から(日本語源=賀茂百樹・音幻論=幸田露伴)、
チ(擬声、チョチョ・チンチン)+鳥。チチと鳴く鳥の意(日本語源広辞典)、

と、鳴き声とする説が多い。他に、

チヂドリ(千々鳥)の義(日本語原学=林甕臣)、
チガヘドリ(交鳥・差鳥)の義(名言通)、

もある。「チガヘ」というのは、「千鳥足」http://ppnetwork.seesaa.net/article/484098057.html?1635363915で触れたように、

路を行くに、右へ片寄り、又、左へ片寄りて歩むこと。又、歩むに両脚を左右に打ちちがへて行く、

こと(大言海)からきているが、

鳴き声をチと聞いて、

しほ山のさしでの磯に住む千鳥君がみ代をばやちよとぞ鳴く(古今集)、

のように、祝賀の意を持たせることがある。後世には、

ちりちり(虎明本狂言「千鳥」)、
チンチン(松の葉・ちんちんぶし)、

と聞きなす、

とある(日本語源大辞典)。「千鳥」の由来は、鳴き声でいいようであるが、今日、僕には、さえずりは、

チ、チ、チ、

と聞こえ。地鳴きは、

ピウ ピウ、

と聞こえるhttps://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1523.html

「鵆」 漢字.gif

(「鵆」 https://kakijun.jp/page/E9FB200.htmlより)

古くからなじみの鳥らしく、

淡海の海(み)夕波千鳥 汝(な)が鳴けば心もしのに古(いにしへ)思ほゆ(柿本人麻呂)、
思ひかね妹(いも)がり行けば冬の夜の川風寒み千鳥鳴くなり(紀貫之)、

等々と歌に詠まれてきたが、

和柄や家紋としても、意匠化されてきた。

千鳥柄.png

(千鳥柄 https://iwami-hana.com/chidori-255より)

波に千鳥、

は氷屋の暖簾にまだ見かけるし、

かき氷屋の「波に千鳥」.png

(かき氷屋の「波に千鳥」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%89%E3%83%AA%E7%A7%91より)

着物の柄にも、例えば、

千鳥格子、

というのがある。

千鳥格子.jpg


「鵆」は、「ちどり」に当てた、国字とある(字源)。「鴴」(コウ)は、

すずめ(荒鳥)、

の意である。これを、

ちどり、

と訓ませ、

鵆、

とつくったものらしい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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