2021年11月06日

さすまた


「さすまた」は、

刺股、
指股、
刺叉、
指叉、
刺又、
刺俣、

等々と当て(広辞苑・岩波古語辞典)、

江戸時代、罪人を捕らえるのに用いた三つの道具の一つ。木製の長柄の先端に鋭い月型の金具をつけた道具。喉頸にかけて取り押さえる、

とある(広辞苑)。「三道具(みつどうぐ)」とは、江戸期に、犯人逮捕の際などに用いたという長柄(ながえ)の武器で、

寄道具(よりどうぐ)、

ともいい(日本大百科全書)、

突棒(つくぼう)、
刺股(さすまた)、
袖搦(そでがらみ)、

を一組としていう(精選版日本国語大辞典)。関所、番所などに常備したので、

番所の三つ道具、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。江戸初期の『四条河原(がわら)遊楽図屏風(びょうぶ)』の歌舞伎の小屋、能楽の小屋の櫓(やぐら 入口)の脇の竹矢来(たけやらい)に沿って立て並べているようすが描かれている(仝上)、とある。

さすまた.bmp

(左から「そでがらみ」「つくぼう」「さすまた」 精選版日本国語大辞典より)

「突棒」(つくぼう)は、

長い柄の先をT字形の鉄製として、鉄釘(てつくぎ)を植えてある武器、

で、室町時代から、『文明(ぶんめい)本節用集』にもみえ、『洛中洛外図屏風』(上杉家本)にも描かれる(日本大百科全書)。

鉄把(てっぱ)、
撞木(しゅもく)、

ともいう(仝上)。

つくぼう.bmp

(つくぼう 精選版日本国語大辞典より)

「袖搦(そでがらみ)」は、

長い柄の先端に、とげの出た鉄叉(てっさ 物を絡みつけるための鉤針(かぎばり)状の鉄鉤)を上下に向けてたくさんつけ、それに続く柄の部分にも、相手が握れないように鉄釘を打ち付け、たもの。頭髪や衣服に絡んで引き倒す武器。柄の長さは7尺5寸(2.3m)、

で(仝上)、

狼牙棒(ろうげぼう)、

という中国の武具に由来するという(仝上)。

そでがらみ.bmp

(そでがらみ 精選版日本国語大辞典より)

「さすまた」は、

杈首叉(さすまた)の義、

とあり(大言海)、「杈首(さす)」は、

叉手、

とも当て、「こまねく」http://ppnetwork.seesaa.net/article/484220493.html?1636055164で触れたように、

両手を胸の前で重ね合わせる、

意であるが、それに準えて、

切妻造の屋根の左右の端に、合掌形に交叉して組んだもの、

をもいう(広辞苑・大言海)。

杈首(さす).jpg

(扠首(さす) デジタル大辞泉より)

二木の上下、両端、上は空を指し、下は開き、千木と搏風(破風)との形をなす、其の叉の上に、棟木を承く。農家の茅葺の丸太合掌を、今も、サスと云ふ。転じて、殿宅の搏風(破風)の名となる、今も、神社の妻飾の搏風を杈首棹(ザヲ)と云ひ、其の中央の束柱を杈首束(さすづか)といふ、

とある(仝上)。この「杈首」には、いまひとつ、

さすまた、

の意があり、

杈首股、

と当てる(仝上)。これが訛って、

さんまた、

といい、

三脵、
三叉、

と当て(広辞苑・大言海)、

高い所に物を懸けるのに用いる、先端がY字形にした棒、

で、

みつまた、
またふり、
またざお、

等々ともいう(仝上)。「叉」は、

あざふ、

と訓ます。

アザ(交)アフ(合)の約、

とある。

組み合わせる、交叉させる、

意である(岩波古語辞典)。

「叉」 漢字.gif

(「叉」 https://kakijun.jp/page/sa03200.htmlより)

「叉」(漢音サ、呉音シャ)は、

象形。手の指の間に物をはさんだ形を描いたもの。Y型をなしていて、物を挟み、または突くものをすべて叉という、

とある(漢字源)。

「指の間に物をはさんだ」象形から、「はさみとる」、「さすまた」を意味する「叉」という漢字が成り立ちました、

も同趣旨https://okjiten.jp/kanji2386.htmlだが、

手の指を組み合わせた形にかたどる。転じて「また」の意を表す(角川新字源)、

は少し含意を異にする。

「叉」 説文解字.png

(「叉」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8F%89

「杈」(サ、サイ)は、

枝、

の意であるが、それをメタファに、

やす(先端が叉になっている漁具)、

を指し、さらに、

さらい(さらひ)、

と訓ませると、

くまで、

の意となる(字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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