「さすまた」は、
刺股、
指股、
刺叉、
指叉、
刺又、
刺俣、
等々と当て(広辞苑・岩波古語辞典)、
江戸時代、罪人を捕らえるのに用いた三つの道具の一つ。木製の長柄の先端に鋭い月型の金具をつけた道具。喉頸にかけて取り押さえる、
とある(広辞苑)。「三道具(みつどうぐ)」とは、江戸期に、犯人逮捕の際などに用いたという長柄(ながえ)の武器で、
寄道具(よりどうぐ)、
ともいい(日本大百科全書)、
突棒(つくぼう)、
刺股(さすまた)、
袖搦(そでがらみ)、
を一組としていう(精選版日本国語大辞典)。関所、番所などに常備したので、
番所の三つ道具、
ともいう(精選版日本国語大辞典)。江戸初期の『四条河原(がわら)遊楽図屏風(びょうぶ)』の歌舞伎の小屋、能楽の小屋の櫓(やぐら 入口)の脇の竹矢来(たけやらい)に沿って立て並べているようすが描かれている(仝上)、とある。
(左から「そでがらみ」「つくぼう」「さすまた」 精選版日本国語大辞典より)
「突棒」(つくぼう)は、
長い柄の先をT字形の鉄製として、鉄釘(てつくぎ)を植えてある武器、
で、室町時代から、『文明(ぶんめい)本節用集』にもみえ、『洛中洛外図屏風』(上杉家本)にも描かれる(日本大百科全書)。
鉄把(てっぱ)、
撞木(しゅもく)、
ともいう(仝上)。
(つくぼう 精選版日本国語大辞典より)
「袖搦(そでがらみ)」は、
長い柄の先端に、とげの出た鉄叉(てっさ 物を絡みつけるための鉤針(かぎばり)状の鉄鉤)を上下に向けてたくさんつけ、それに続く柄の部分にも、相手が握れないように鉄釘を打ち付け、たもの。頭髪や衣服に絡んで引き倒す武器。柄の長さは7尺5寸(2.3m)、
で(仝上)、
狼牙棒(ろうげぼう)、
という中国の武具に由来するという(仝上)。
(そでがらみ 精選版日本国語大辞典より)
「さすまた」は、
杈首叉(さすまた)の義、
とあり(大言海)、「杈首(さす)」は、
叉手、
とも当て、「こまねく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484220493.html?1636055164)で触れたように、
両手を胸の前で重ね合わせる、
意であるが、それに準えて、
切妻造の屋根の左右の端に、合掌形に交叉して組んだもの、
をもいう(広辞苑・大言海)。
(扠首(さす) デジタル大辞泉より)
二木の上下、両端、上は空を指し、下は開き、千木と搏風(破風)との形をなす、其の叉の上に、棟木を承く。農家の茅葺の丸太合掌を、今も、サスと云ふ。転じて、殿宅の搏風(破風)の名となる、今も、神社の妻飾の搏風を杈首棹(ザヲ)と云ひ、其の中央の束柱を杈首束(さすづか)といふ、
とある(仝上)。この「杈首」には、いまひとつ、
さすまた、
の意があり、
杈首股、
と当てる(仝上)。これが訛って、
さんまた、
といい、
三脵、
三叉、
と当て(広辞苑・大言海)、
高い所に物を懸けるのに用いる、先端がY字形にした棒、
で、
みつまた、
またふり、
またざお、
等々ともいう(仝上)。「叉」は、
あざふ、
と訓ます。
アザ(交)アフ(合)の約、
とある。
組み合わせる、交叉させる、
意である(岩波古語辞典)。
「叉」(漢音サ、呉音シャ)は、
象形。手の指の間に物をはさんだ形を描いたもの。Y型をなしていて、物を挟み、または突くものをすべて叉という、
とある(漢字源)。
「指の間に物をはさんだ」象形から、「はさみとる」、「さすまた」を意味する「叉」という漢字が成り立ちました、
も同趣旨(https://okjiten.jp/kanji2386.html)だが、
手の指を組み合わせた形にかたどる。転じて「また」の意を表す(角川新字源)、
は少し含意を異にする。
(「叉」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8F%89)
「杈」(サ、サイ)は、
枝、
の意であるが、それをメタファに、
やす(先端が叉になっている漁具)、
を指し、さらに、
さらい(さらひ)、
と訓ませると、
くまで、
の意となる(字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95