桂を折る


「桂を折る」は、

折桂(せつけい)、

という(字源)。

進士の試験に及第する(字源)、
文章生(もんじょうしょう)、試験、対策に応じて及第する(大言海)、
官吏登用試験に応じて及第する(広辞苑)、

という意で、

登第、
及第、
登科、

と同義になる(字源)。温庭筠の詩に、

猶喜故人新折桂、

とある(字源)。由来は、「晋書」郤詵(げきしん)伝に、

秦始中、詔天下、學賢良直言之士、太守文立學詵應選、……武帝於東堂會送、問詵曰、卿自以為如何、詵對曰、臣擧賢良策為天下第一、猶桂林一枝、崑崙片玉、帝笑、

とあるのによる(大言海・故事ことわざの辞典)。

すぐれた人材、

を、

桂の枝、

にたとえたのだが、「桂林」には、

文官
または
文人、

の意もある(故事ことわざの辞典)。

「桂林一枝、崑崙片玉」は、

桂の林の一枝、崑崙山の宝石の一片にすぎない、

の意から、

謙譲、

の含意があるとされ(字源)、「桂林一枝」には、転じて、

人品の清貴にして俗を抜く、

という喩えとしても使われる、とある(仝上)。ただ、雍州刺史という地方長官に任命されたことに対する答えなので、どこかに、

大した出世ではない、

という意味で、

これは桂林の一枝、崑崙山の美しい玉の一つを手に入れたにすぎない、

といっている含意もある(学研四字熟語辞典)。で、

世以登科為折桂、此謂郤詵対東堂。自云桂林一枝也、唐以来用之(避暑秘話)、

とある。「桂林一枝」から「折桂」と意訳したことになる。そして、続いて、

其後以月中有桂、故又謂之月桂、

とある。つまり、伝説の、

月に生えている桂の木、

と結び付けられて、

月の桂を折る、

とも言うようになる。

つきのかつら、呉剛(月岡芳年画).jpg

(「つきのかつら、呉剛」(月岡芳年) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%82%E7%94%B7より)

これは、

桂男(かつらおとこ・かつらを)、

といい、「酉陽雑俎‐天咫」(唐末860年頃)に、中国の古くからの言い伝えとして、

月の中に高さ五〇〇丈(1500メートル)の桂があり、その下で仙道を学んだ呉剛という男が、罪をおかした罰としていつも斧をふるって切り付けているが、切るそばからその切り口がふさがる、

という伝説がある(精選版日本国語大辞典)。シジフォスの岩に似た話である。

呉剛伐桂、

といいhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%82%E7%94%B7、伝説には、ひとつには、炎帝の怒りを買って月に配流された呉剛不死の樹「月桂」を伐採するという説と、いまひとつは、

舊言月中有桂、有蟾蜍、故異書言月桂高五百丈、下有一人常斫之、樹創隨合。人姓吳名剛、西河人、學仙有過、謫令伐樹(酉陽雑俎)、

と、仙術を学んでいたが過ち犯し配流された呉剛が樹を切らされているという説とがある(仝上)、という。

ために、「月の桂」には、

月の異称、

とされ、略して、

かつら、

ともいい、月の影を、

かつらの影、

といったり、三日月を、

かつらのまゆ、

などという(大言海)。また「桂男」は、

桂の人、

などともいい、

かつらおとこも、同じ心にあはれとや見奉るらん(「狭衣物語(1069‐77頃)」)、

と、盛んに使われるが、さらに、

手にはとられぬかつらおとこの、ああいぶりさは、いつあをのりもかだのりと、身のさがらめをなのりそや(浄瑠璃「出世景清(1685)」)、

と、

美男子、

の意味でも使われるようになる(精選版日本国語大辞典)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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