2021年11月19日


「桂(かつら)」は、「桂を折る」http://ppnetwork.seesaa.net/article/484421562.html?1637178611で触れたように、「桂を折る」以外にも、

桂男(かつらおとこ・かつらを 月で巨大な桂を永遠に切り続けている男の伝説)、
桂の眉(かつらのまゆ 三日月のように細く美しい眉)、
桂の影(かつらのかげ 月の光)、
桂の黛(かつらのまゆずみ 三日月のように細く美しく引いた眉墨)、

等々と使われるのは、「桂」が、

月の桂、

から、

月の異称、

として使われるようになったことによる。

「月の桂」は、「桂を折る」で触れたように、「酉陽雑俎‐天咫」に、

舊言月中有桂、有蟾蜍、故異書言月桂高五百丈、下有一人常斫之、樹創隨合。人姓吳名剛、西河人、學仙有過、謫令伐樹、

とあり、中国において、「月桂」は、

想像の説に、月の中に生ひてありと云ふ、月面に婆娑たる(揺れ動く)影を認めて云ふなるべし、手には取られぬものに喩ふ、

とある(大言海)。「懐風藻」に、

金漢星楡冷、銀河月桂秋(山田三方「七夕」)、

は、

月の中にあるという桂の木、

の意で、

玉俎風蘋薦。金罍月桂浮(藤原万里「仲秋釈奠」)、

では、

月影(光)、

の意で使われている(精選版日本国語大辞典)。万葉集では、

目には見て手には取らえぬ月内之楓(つきのうちのかつら)のごとき妹をいかにせむ、

と、

手には取られぬもの

の喩えとして詠われている。「毘沙門堂本古今集註」(鎌倉時代末期~南北朝期書写)では、

久方の月の桂と云者、左伝の註に曰、月は月天子の宮也。此宮の庭に有二七本桂木一、此の木春夏は葉繁して、月光薄く、秋冬は紅増故に月光まさると云也、

と解説する。また、月の人、「桂男」を、

月人、

とも言い(大言海)、

かつらをの月の船漕ぐあまの海を秋は明石の浦といはなん(「夫木(1310頃)」)、
桂壮士(カツラヲ)の人にはさまるすずみかな(「古今俳諧明題集(1763)」)、

等々と詠われる(精選版日本国語大辞典)。

桂の木.jpg


さて、「桂」は、

楓、

とも当て(岩波古語辞典)、

かもかつら(賀茂桂)、
とわだかつら、

ともいった(「日本植物名彙(1884)」)らしいが、和名類聚抄(平安中期)には、

楓(ふう)、和名、乎加豆良(をかつら)、

とあり(岩波古語辞典)、古名は、

おかつら(男桂・楓)、

といった(「十巻本和名抄(934頃)」)。

カツラ科の落葉高木。日本の各地と中国の山地に生える。落葉広葉樹の大高木で、高さはふつう20~25メートル、高いものは30メートルほどで、樹幹の直径は2mほどにもなる。葉は広卵形で裏面が白い。雌雄異株。5月ごろ、紅色の雄花、淡紅色の雌花をつけ、花びらはない、若葉は紅味があり、賀茂祭にも使う。秋黄葉する、

とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。

また、同じ和名類聚抄(平安中期)に、

桂、和名、女加豆良(めかつら)、

とあり、これは、

肉桂、

を指す。正確には、

藪肉桂(やぶにっけい)、

を指す(広辞苑)。やぶにっけいは、別名

マツラニッケイ(松浦肉桂)、
クスタブ、

ともいい、

クスノキ科の常緑広葉樹。高木だが、せいぜい15メートル。樹皮は灰黒色で滑らか。ニッケイに似た香気と渋味をもつ。夏、葉脇に長い花軸を出し、淡黄色の小花をつける。果実は液果で、紫黒色、

とある(広辞苑)。すくなくとも、

おかつら、

めかつら、

は区別していたものと思われる。大言海は、

かつら(桂)、

かつら(楓)、

とを、別項として立て、

前者を、

めかつら、

とし、

訓香木、云加都良(古事記)、

を引き、

後者を、

をかつら、

とし、

杜木、此云可豆邏(杜は鬘の誤と云ふ)(神代紀)、

を引き、

古事記、「楓(かつら)」(神代紀「杜木(かづら)」とあるに同じ、楓は桂の借字なり)、

と註している。

ヤブニッケイ.jpg


「かつら」の由来は、

カツは香出(かづ)、樹皮に香気あり、ツは濁る可きが如し、ラは添えたる音(大言海・日本語源広辞典)、

とされる。「ら」は、

擬態語・形容詞語幹などを承けてその状態表現をあらわす、

とある(岩波古語辞典)。

葉の香りに由来し、落葉した葉は甘い香りを発することから「香出(かづ)る」(日本語源広辞典・大言海)、

と香りが由来らしく、古事記(712)に、

傍の井の上に湯津香木有らむ、

に、

訓香木、云加都良、

注記がある。薫りに由来したものだと思われる。中国名は、

連香樹、

と表記されるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%84%E3%83%A9_%28%E6%A4%8D%E7%89%A9%29が、中国で言う「桂」は、

モクセイ(木犀)、

のことであって、日本と韓国では古くからカツラと混同されている(仝上)、ともある。

詩などに桂花と云ふは木犀なり、

とある(大言海)のはその意味である。

「桂」 漢字.gif


「桂」(漢音ケイ、呉音カイ)は、

会意兼形声。「木+音符圭(ケイ △型にきちんとして格好がよい)」で、全体が△型に育った良い形をしている木、

とあり(漢字源)、「肉桂(ニッケイ)」「筒桂(トウケイ)」「岩桂(ガンケイ)」「銀桂」「金桂」「丹桂」など香木の総称の他、伝説上の月の桂の意、である(仝上)。

桂については《山海経(せんがいきよう)》や《荘子》など先秦の書物にも記事があり、珍しい木、香辛料の木とされ、時代が下ると《本草》をはじめ諸書に、薬用植物として、牡桂、菌桂、木桂、肉桂など多様に表出される。これらが現在の何に当たるかは大半不明だが、漢の武帝が未央(びおう)宮の北に桂宮を作ったように、桂が高貴、良い香りを象徴したことはまちがいない、

とある(世界大百科事典)。別に、

会意兼形声文字です(木+圭)。「大地を覆う木」の象形(「木」の意味)と「縦横の線を重ねた幾何学的な製図」の象形(「上が円錐形、下が方形の玉(古代の諸侯が身分の証として天子から受けた玉)」)の意味から、「かつら(肉桂などの香木の称、モクセイ科の常緑樹、月に生えているという伝説の木)」、「カツラ科の落葉高木」を意味する「桂」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2251.html

「桂」 成り立ち.gif

(「桂」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2251.htmlより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 05:13| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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