「すそご」は、
裾濃、
末濃、
下濃、
等々と当てる(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。
すそごう、
すえご、
などとも訛る(仝上)。
白地の下方をしだいにぼかして濃くする染色法、
で、布帛(ふはく)と甲冑の縅(おどし)の場合とがある。
布帛の場合、
すそご、むらご(斑濃・叢濃・村濃 同じ色でところどころを濃淡にぼかして染め出したもの)なども、つねよりはをかしくみゆ(枕草子)、
と、
上を淡く下を濃くした、
ものだが、
織色(おりいろ)によるものと染色(そめいろ)によるもの、
とがあり、
大旗、木旗、下濃(すそご)の旗、三流れ立てて三手に分かれ(太平記)、
と、旗にも使われる。
甲冑(かっちゅう)の威(おどし)の配色では、
上を白、次を黄とし、しだいに淡い色から濃い色とする、
ものを言う(仝上)。因みに、「縅」とは、
札(さね 鉄または練革で作った鎧の材料の小板)を上から下へ連接することを言い、縅は元来「緒通す(おどおす)」に「威す」の字を当てた(縅の字は、「威」に「糸」偏をつけた和製)、
を指し、「緒」の材質により、
韋(かわ)縅、
糸縅、
綾縅、
があり、縅し方には、
縦取縅(たてどりおどし 垂直に縅していく)、
縄目縅(なわめおどし 斜め状の縅毛が横に連続するため縄のように見える)、
素懸縅(すがけおどし 縦取縅の省略ともいえる間隔をおいて菱形に交差させながら2本ずつ縅す)、
寄懸(よせがけ 間隔をおいて3本以上ずつ縅す)、
等々があり、
紫裾濃、
紺裾濃、
紅裾濃、
萌黄裾濃、
等々という。縅の配色には、「すそご」と反対に、
濃い色から次第に淡い色になり、最後を白とする縅、
を
匂い、
といい、
黄櫨匂(はじのにおい 紅、薄紅、黄、白の順)、
萌黄匂(もえぎにおい 萌黄、薄萌黄、黄、白の順)、
等々がある(有職故実図典)。
(紫裾濃鎧(むらさきすそごのよろい) http://park2.wakwak.com/~ome.net/24bunkazai0082.htmlより)
縅には、一色に威すものもあるが、「すそご」「におい」の他に、
村濃(むらご 上下左右に偏せず、まばらに濃い色を配する)、
妻取(つまとり 袖・草摺の端の妻を三角に色々の意とで縅し交ぜたもの)、
等々がある。江戸後期の有職故実書『貞丈雑記』には、
すとごと云は、何色にても、上の方の色を淡くして、すその方をば、濃く染たるを云他、鎧の紅すそご、紫すそごも右の心なり、
とある。
なお、「すそご」には、他に、
三種の神器ならびに玄象(げんじょう)、裾濃、二間の御本尊に至るまで(太平記)、
と、玄象(げんじょう)と並び、
琵琶の名器の名、
にこの名がある(仝上)。平安末の日本における現存最古の書論書『夜鶴庭訓抄(やかくていきんしょう)』に、琵琶名として、
井手、渭橋(已上、宇治殿)、玄上(大内)、牧馬(斎齋院)、下濃(すそご 内大臣殿)、元興寺(大内)、兩道、小比巴、木繪、元名(蝉丸比巴也)、以上皆、紫檀也、
とあるし、枕草子に、
御前にさぶらふものは、御琴も御笛も、みなめづらしき名つきてぞある。玄しゃう、牧馬(ぼくば)、井手(ゐで)、渭橋(ゐけう)、無名など、
とある。
参考文献;
笠間良彦『図録日本の甲冑武具事典』(柏書房)
鈴木敬三『有職故実図典』(吉川弘文館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95