「色」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484590827.html?1638129665)で触れたように、
同母、
と当てる「いろ」は、
イラ(同母)の母音交替形(郎女(いらつめ)、郎子(いらつこ)のイラ)。母を同じくする(同腹である)ことを示す語。同母兄弟(いろせ)、同母弟(いろど)、同母姉妹(いろも)などと使う。崇神天皇の系統の人名に見えるイリビコ・イリビメのイリも、このイロと関係がある語であろう、
とある(岩波古語辞典)。この「いろ」が、
イロ(色)と同語源(続上代特殊仮名音義=森重敏)、
色の語源は、血の繋がりがあることを表す「いろ」で、兄を意味する「いろせ」、姉を意味 する「いろね」などの「いろ」である。のちに、男女の交遊や女性の美しさを称える言葉となった。さらに、美しいものの一般的名称となり、その美しさが色鮮やかさとなって、色彩そのものを表すようになった(語源由来辞典)、
と、色彩の「色」とつながるとする説もあるが、
其の兄(いろえ)神櫛皇子は、是讃岐国造の始祖(はじめのおや)なり(書紀)、
と、
血族関係を表わす名詞の上に付いて、母親を同じくすること、母方の血のつながりがあることを表わす。のち、親愛の情を表わすのに用いられるようになった。「いろせ」「いろと」「いろも」「いろね」など、
とあり(精選版日本国語大辞典)、
異腹の関係を表わす「まま」の対語で、「古事記」の用例をみる限り、同母の関係を表わすのに用いられているが、もとは「いりびこ」のイリ、「いらつめ」のイラとグループをなして近縁を表わしたものか。それを、中国の法制的な家族概念に翻訳語としてあてたと考えられる、
とされる(仝上)。「まま」は、
継、
と当て、
親子・兄弟の間柄で、血のつながりのない関係を表す。「まませ」「ままいも」は、同父異母(同母異父)の兄弟・姉妹、
である(岩波古語辞典)。また、
兄弟姉妹の、異腹なるものに被らせて云ふ語、嫡庶を論ぜず、
とある(大言海)。新撰字鏡(898~901)には、
庶兄、万々兄(まませ)、…(庶妹)、万々妹(ままいも)、継父、万々父(ままちち)、嫡母(ちゃくぼ)、万々波々(ままはは)、
とある。その語源は、
隔てあるところから、ママ(閒閒)の義(大言海・言元梯)、
マナの転で、間之の義(国語の語根とその分類=大島正健)、
ママ(随)の義。実の父母の没後、それに従ってできた父母の意(松屋筆記)、
等々があるが、たぶん。「隔て」の含意からきているとみていいのではないか。
で、「いろ」は、
イラ(同母)の母音交替形(岩波古語辞典)、
イロ(色)と同語源(続上代特殊仮名音義=森重敏)、
など以外に、
イは、イツクシ、イトシなどのイ。ロは助辞(古事記伝・皇国辞解・国語の語根とその分類=大島正健)、
イロハと同語(東雅・日本民族の起源=岡正雄)、
イヘラ(家等・舎等)の転(万葉考)、
イヘ(家)の転(類聚名物考)、
蒙古語elは、腹・母方の親戚の意を持つが、語形と意味によって注意される(岩波古語辞典)、
「姻」の字音imの省略されたもの(日本語原考=与謝野寛)、
等々あるが、蒙古語el説以外、どれも、「同腹」の意を導き出せていない。といって蒙古語由来というのは、いかがなものか。
イロハと同語、
とある「いろは」は、
母、
と当て、類聚名義抄(11~12世紀)に、
母、イロハ、俗に云ふハハ、
とある。つまり、
イロは、本来同母、同腹を示す語であったが、後に、単に母の意とみられて、ハハ(母)のハと複合してイロハとつかわれたものであろう(岩波古語辞典)、
ハは、ハハ(母)に同じ、生母(うみのはは)を云ひ、伊呂兄(え)、伊呂兄(せ)、伊呂姉(セ)、伊呂弟(ど)、伊呂妹(も)、同意。同胞(はらから)の兄弟姉妹を云ひしに起これる語なるべし(大言海)
とあるので、「いろ」があっての「いろは」なので、先後が逆であり、結局、
いら、
いり、
とも転訛する「いろ」の語源ははっきりしない。
因みに、「いらつめ」「いらつこ」は、
郎女、
郎子、
と当て、
いらつひめ、
いらつつみ、
ともいい、
「いら」は「いろも」「いろせ」「かぞいろ」など特別な親愛関係を示す「いろ」と関係があり、「つ」はもと、連体修飾の助詞。「いらつめ」と同様、何らかの身分について用いられた一種の敬称と思われるが、平安時代には衰えた、
とある(精選版日本国語大辞典)が、「いろ」の説明で、
母親を同じくすること、母方の血のつながりがあることを表わす。同母の。のち、親愛の情を表わすのに用いられるようになった、
としている(仝上)ので、
従来このイロの語を、親愛を表すと見る説が多かったが、それは根拠が薄い、
となり(岩波古語辞典)、この「いら」は、
イロ(同母)の母音交替形、
と見る見方になる(仝上)。当然、そうなれば、
イリビコ・イリビメのイリと同根、
ということになる(仝上)。さらに、
郎女、
という表記は中国にない。「郎子」と対にして、日本語のイラの音を表すためにラウの音の「郎」を使ったものとみられる、
とあり(仝上)、さらに「郎子」は、
イラツメに対して作られた語らしく、イラツメに比して用例が極めて少ない、
ともある(仝上)。因みに、「郎子」は、中国語では、
他人の息子の敬称、
である(字源)
「同」(慣用ドウ、漢音トウ、呉音ズウ)は、
会意。「四角い板+口(あな)」で、板に穴をあけて付きとおすことを示す。突き抜ければ通じ、通じれば一つになる。同一・共同・共通の意となる、
とある(漢字源)。同趣旨で、
会意。上部「凡」(盤、四角い板)+「口」。「口」は「あな」の意で、貫き通してまとめること。「筒」「胴」「洞」と穴の開いたものの意味で同系(藤堂)。または、「口」は神器で、「同」は筒形の器を表し、会盟のため人が集まったことから(白川)、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%8C)が、
会意。口と、冃(ぼう)(おおう。𠔼は省略形)とから成り、多くの人を呼び集める、ひいて「ともに」、転じて「おなじ」などの意を表す、
との解釈もある(角川新字源)。
(「同」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%8Cより)
また、
象形文字です。「上下2つの同じ直径の筒の象形」から「あう・おなじ」を意味する「同」という漢字が成り立ちました、
との説もある(https://okjiten.jp/kanji378.html)。
「母」(慣用ボ、漢音ボウ、呉音ム・モ)については「はは」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480039226.html)で触れたように、
象形。乳首をつけた女性を描いたもので、子を産み育てる意味を含む、
とあり(漢字源)、
指事。女(象形。手を前に組み合わせてひざまずく人の形にかたどり、「おんな」の意を表す)に、乳房を示す点を二つ加えて、子供に授乳するははおやの意を表す、
ともある(角川新字源)。
(「母」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%AF%8Dより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95