「いら」は、
刺(広辞苑・大言海・デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)、
莿(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)、
などと当てる、
とげ、
の意と、
苛、
と当て、
苛立つ、
いらいら、
いらつく、
等々と使う、
かどのあるさま、
いらいらするたま、
甚だしいさま、
の意とがある(広辞苑)。この「いら(苛)」は、
形容詞、または、その語幹や派生語の上に付いて、角張ったさま、また、はなはだしいさま、
を表わし、
いらくさし、
いらひどい、
いらたか、
等々とつかわれる(精選版日本国語大辞典)とあり、
イラカ(甍)・イラチ・イラナシ・イララゲ(苛)などの語幹、
ともある(岩波古語辞典)ので、
苛、
と当てる「いら」は、
莿、
刺、
とあてる「いら」からきているものと思われる。
「いら」は多くの語を派生し、動詞として「いらつ」「いらだつ」「いらつく」「いららぐ」、形容詞として「いらいらし」「いらなし」、副詞として「いらいら」「いらくら」などがある、
とある(日本語源大辞典)。この「いら」の語源には、
イガと音通(和訓栞)、
イラは刺す義(南方方言史攷=伊波普猷)、
イタ(痛)の転語(言元梯)、
等々の諸説がある。ただ、
刺刺、
と当てる、
いらら、
という言葉がある(大言海)。平安後期の漢和辞書『字鏡』(じきょう)に、
木乃伊良良、
とあり、
草木の刺、
の状態を示す「擬態語」と考えると、
いら、
はそれが由来と考えていい。擬音語・擬態語の多さは、日本語の特徴なのだから。
『字鏡』には、
莿、木芒、伊良、
とある。「芒」(ぼう)は、
のぎ、
で、
穀物の先端、草木のとげ、けさき、
の意である(漢字源)。
「莿」(シ・セキ・シャク)は、
とげ、のぎ、
と訓ませる。異字体は、「茦」とある(https://jigen.net/kanji/33727)。手元の漢和辞典には載らない。
「刺」(漢音呉音シ、漢音セキ、呉音シャク)は、
会意兼形声。朿(シ とげ)の原字は、四方に鋭いとげの出た姿を描いた象形文字。刺は「刀+音符朿」。刀でとげのようにさすこと。またちくりとさす針。その左は朿であり、束ではない。もとはセキの音を用いたが、のち混用して多くシの音を用いる、
とある(漢字源)。
「苛」(漢音カ、呉音ガ)は、
会意兼形声。可は「¬印+口」からなり、¬型に曲折してきつい摩擦をおこす、のどをからせるなどの意。苛は「艸+音符可」で、のどをひりひりさせる植物。転じて、きつい摩擦や刺激を与える行為のこと、
とあり(仝上)、「苛刻」「苛政」「苛(呵)責」などと使う。別に、
形声。艸と、音符可(カ)とから成る。小さい草の意を表す。転じて、せめる、むごい意に用いる、
とか(角川新字源)、
会意兼形声文字です(艸+可)。「並び生えた草」の象形と「口と口の奥の象形」(口の奥から大きな声を出すさまから「良い」の意味だが、ここでは、「呵(カ)」に通じ(同じ読みを持つ「呵」と同じ意味を持つようになって)、「大声で責める」の意味)から、「大声で責める」、「厳しくする」を意味する「苛」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2098.html)。
(「苛」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2098.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95