2021年12月06日

たをやか


「たを(お)やか」は、

嫋やか、

と当てる(広辞苑)。

萩、いと色ふかう枝たをやかに咲きたるが(枕草子)

と、

重みでしなっているさま、
たわんでいるさま、

の意で(岩波古語辞典)、そこから、それをメタファに、

衣(きぬ)のこちたく厚ければたをやかなるけもなし(栄花物語)、
この女の舞ふすがた、たをやかにして(中華若木詩抄)、

などと、

(身のこなしが)いかにも柔らかで、優美なさま、

の意となり、その状態表現から、

心ばへもたをやかなる方はなく(源氏物語)、

と、

(人の性質に)加えられる力に耐える柔軟性のあるさま、

の意や、

あなうたて、この人のたをやかならましかばと見えたり(源氏物語)、
心あらん人に見せばや津の国の難波わたりの春の景色を、是は始めの歌のやうに限なくとをしろくなどはあらねど、優(いふ)深くたをやか也(静嘉堂文庫本無名抄)、

などと、

ものごし、態度などがものやわらかなさま。また、気だてや性質が、しっとりとやさしいさま、おだやかなさま、

と、

女性の姿や舞いの動作などについて言う価値表現へとシフトし(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)、さらに、後には、

此人七才の時より、形さだまって嬋娟(タヲヤカ)に、一笑百媚の風情(浮世草子「男色大鑑(1687)」)、

と、

あだめいているさま、

の意でも使うようになる。今日の語感は、こちらに近いのではないか。

「たをやか」の語源は、

タヲは、タワ(撓)の母音交替形、

で(岩波古語辞典・大言海・精選版日本国語大辞典)、

「やか」は接尾語、

となる(精選版日本国語大辞典)。

タヲタヲ・タヲヤグ・タヲヤメなどと同根で、しなやかな姿や形を示す語、

ともある(小学館古語大辞典)。

たをやめ(手弱女)、

は、

たわやめ(撓や女)、

の転訛と思われ、この「たわ」は、

タワム(撓)のタワ、ヤは性質・状態をしめか接尾語、タワヤでやわらかくしなやかな意。万葉集には、

手弱女の思ひたわみてたもとほり我れはぞ恋ふる舟楫をなみ、

と、

手弱女、

と書いた例がある(岩波古語辞典)。

「たをやめ」は、

ますらを(丈夫)の対、

とされる(岩波古語辞典)。

「嫋」 漢字.gif


「嫋」(漢音ジョウ、呉音ニョウ)は、

会意兼形声。弱(ジャク・ニャク)は、弓印二つに、彡印(模様)添えて、美しくしなやかな弓を示す。嫋は「女+音符弱」で、女性の捕捉たおやかなさま、

とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:たをやか 嫋やか
posted by Toshi at 05:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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