総大将の被御覧御目の前にて、討死仕りて候はむこそ、後まで名も、九原の骨に留まり候はんずれ(太平記)、
獄門にかくるまでもなくて、九原の苔に埋れにけり(仝上)、
などとある、
「九原(きゅうげん)」とは、
墓地、
の意である。
春秋時代に晋の卿大夫の墳墓のあった地名にもとづく、
とある(広辞苑)。それをメタファに、
千載九原如何作、香盟応与遠持期(蕉堅藁(1403)古河襍言)、
と、
あの世、
黄泉、
また、
死者、
をいう、とある(精選版日本国語大辞典)。
禮記に、
是全要領、以従先大夫於九京也(京、即ち、原の字)、
とあり、黄庭堅賦に、
顧膽九原兮、豈其可作、
とある(字源・大言海)。
「九」(漢音キュウ、呉音ク)は、
象形。手を曲げて引き締める姿を描いたもので、つかえて曲がる意を示す。転じて、一から九までの基数のうち、最後の引き締めにあたる九の数、また指折り数えて、両手で指を全部引き締めようとするときに出てくる九の数を示す。究(奥深く行き詰まって曲がる最後の所)の音符となる。また糾合の糾、鳩合(きゅうごう)の鳩と通じる、
とある(漢字源)。別に、
象形。人がひじを曲げた形にかたどる。借りて、数詞の「ここのつ」の意に用いる、
とも(角川新字源)、
象形。肘を曲げて一つにまとめるさま。一からの数字を最後にまとめる意味(藤堂)。竜を象った文字で、音を仮借したもの(白川)、
と両説あげものも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%9D)、
象形文字です。「屈曲(折れ曲がって)して尽きる」象形から、数の尽き極(きわ)まった「ここのつ」を意味する「九」という漢字が成り立ちました、
ともあり(https://okjiten.jp/kanji131.html)、微妙に含意が異なる。
(「九」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%9Dより)
「原」(漢音ゲン、呉音ゴン、慣用ガン)は、
会意。「厂(がけ)+泉(いずみ)」で、岩石の間の丸い穴から水が湧く泉のこと。源の原字。水源であるから「もと」の意を派生する。広い野原を意味するのは、原隰(ゲンシュウ 泉の出る地)の意から。また、生まじめを意味するのは、元(丸い頭)・頑(ガン 丸い頭→融通のきかない頭)などに当てた仮借字である、
とある(漢字源)。同音の別語に音を借りて、「はら」の意も表す(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8E%9F)のは借字の故のようである。
別に、
会意文字です(厂+泉)。「けずりとられたがけの象形」と「岩の穴から湧き出す泉の象形」からわきはじめたばかりの泉、すなわち「みなもと」を意味する「原」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji354.html)のも同趣旨となる。
つまり、「原」は、
厡、
がもとの字になる。「原」は、
「厡」の略字、
とある(仝上)。
(「原」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8E%9Fより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:九原