2022年01月04日
砌
「砌(みぎり)」は、
落城の砌、
というように、
時、
折、
の意で使うことが多いが、
露置く千般(ちくさ)の草、風に馴るる砌の松のみ、昔も問ふかと物さびたり(宿直草)、
と、
庭、
の意で使ったりする。本来は、古くは、
九月(ながつき)のしぐれの秋は大殿のみぎりしみみに露負ひてなびける萩を玉だすきかけてしのはしみ雪降る(万葉集)、
大(おほ)みぎりの石を伝ひて、雪に跡をつけず(徒然草)
などと、
軒下・階下などの雨滴を受けるための石や敷瓦を強いた所、
を指し、その語源は、
水(ミ)限(ぎり)の意(広辞苑・岩波古語辞典・名言通・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・日本古語大辞典=松岡静雄)、
水キリの儀、キリは走り流れる意(筆の御霊)、
水を切る意(国語の語根とその分類=大島正健)、
等々とされる(日本語源大辞典)。しかし、
水(ミ)限(ぎり)の意、
とすると、本来は、
見砌中円月、知普賢之鏡智(みぎりの中の円月を見て普賢の鏡智を知りぬ)(四至啓白文「性霊集(1079)」)、
と、
水際、
の意ではないか、という気もする。
敷石、
の意から、
紫の庭、玉の台、ちとせ久しかるべきみぎりとみがきおき給ひ(千載和歌集・序)、
みぎりをめぐる山川もこれ(葬礼)を悲しみて雨となり雲となるかと怪しまる(太平記)、
と、上述の、
庭や殿舎の境界、
ひいては、
庭、
の意に広がるのはあり得る。それが、
巖の腰を廻り経て、麓の砌に至りぬ(今昔物語)、
と、
(その)場所、
(その)場面、
の意となり、さらに、
在世説法の砌に臨みたるが如く(十訓集)
なると、
あることの行われる、または存在する時、
の含意となり、
この御政道正しい砌に、私な事はなりまらすまい(虎明本狂言・雁盗人)、
と、
あることの行なわれる、
または存在する時、
の意となり、
(その)とき、
(その)おり、
(その)時節、
の意に絞られていく。この意味の転換は、ある程度見えることかもしれない。ただ、この意味での、
みぎり、
についてのみ、
限(みぎり)の意にて、ミは発語か、砌は借字(大言海・国語の語根とその分類=大島正健)、
そのころの意を其の左右(ゆんでめで)というところからミギリ(右)の意か(志不可起)、
と、別語源とする説もある。如何なものだろうか。確かに、
敷石、
と
とき、
では差がありすぎるが、
敷石→庭→(その)場所→(その)時、
と、意味の変遷をたどると、無理がない気がするのだが。
いずれにしろ、
みぎり、
に当てた、「砌」(漢音セイ、呉音セイ)は、
会意兼形声。「石+音符切(切って揃える)」、
とあり(漢字源)、
瓦や石の端を切りそろえて重ねた階段、
の意である。さらに、
石の端を切りそろえて積み上げる、
の意として使う。中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)には、
階の甃(いしだたみ)なり、
とあり、
階の下の敷石を敷いたところのこと、
のようである(https://dic.nicovideo.jp/a/%E7%A0%8C)。
苔砌、
甃砌、
等々とあるので、
敷石、
の用例が、「砌」の原意としては近いことになる(字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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