2022年01月13日

涯分


不肖の身としてこの一大事を思ひ立ち候事、涯分を量(はか)らざるに似たりと云へども(太平記)、

の、

涯分、

は、

がいぶん、

と訓むが、

かいぶん、

とも訓ます(精選版日本国語大辞典)。

逍遥飲啄安涯分、何假扶揺九萬爲(蘆象詩)、

と、

身分に相応したこと、
身の程、

の意であり(字源)、そこから、

環視其中所有、頗識涯分(曾鞏文)、

と、

本分、

の意にもなる(仝上)が、「涯分」は、

かぎり、

の意である。さらに、

涯分武略を廻ぐらし、金闕無為なるやう成敗仕るべし(「平治物語(1220頃)」)、

と、

「身分相応に」の意から転じて、副詞的に、

自分の力の及ぶ限り、精一杯、

の意でも用いる(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。

日本で中世以降に生じた用法である。本来名詞として用いられた漢語が、副詞としての用法に転じたという点は「随分」などと同様の変化をたどっている、

とある(仝上)。「随分」http://ppnetwork.seesaa.net/article/463881312.htmlについては、触れた。

「涯分」を超えると、

報国の忠薄くして、超涯の賞を蒙らん事、これに過ぎたる国賊や候ふべき(太平記)、

と、

度を超えたること、
分限に過ぎたること、

の意、つまり、

過分、

の意で、

超涯、

といい(大言海・広辞苑)、

身分不相応の昇進、
異例の抜擢、

を、

労功ありとて、超涯不次の賞を行はれける(太平記)、

と、

超涯不次(ちょうがいふじ)、

と使う(デジタル大辞泉)。しかし、それを、

シカラバ イカナルセイカノツマトモナシ、chôgai(チョウガイ)ノガイタクニホコルベシ(「サントスの御作業(1591)」)、

と、

一生涯にわたっていること、

の意でも使う例がある(精選版日本国語大辞典)。「涯」を、

果て、

と見なせば、「涯分」を、

精一杯、

と見なしたのと同じかと見える。

「涯」 漢字.gif


「涯」(漢音ガイ、呉音ゲ)は、

会意兼形声。厓(ガイ)は、「圭(土盛り)+音符厂(ガン・ガイ 切り立った姿)」の会意兼形声文字で、崖と同じく、切り立ったガケのこと。涯はそれを音符とし、水を加えた字で、水辺のがけ、つまり岸を表す、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(氵(水)+厓)。「流れる水」の象形と「削り取られた崖の象形と縦横線を重ねて幾何学的な製図」の象形(「傾いた崖」の意味)から、崖と水との接点「水際」を意味する「涯」という漢字が成り立ちました。転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「果て」の意味も表すようになりました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1833.html

「涯」 成り立ち.gif

(「涯」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1833.htmlより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:03| Comment(0) | カテゴリ無し | 更新情報をチェックする
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