2022年01月16日

白波


「白波」は、

白浪、

とも当てるが、文字通り、

伊豆の海に立つ白波(思良奈美 しらなみ)のありつつも継(つ)ぎなむものを、乱(みだ)れしめめや(万葉集)、

と、

白く泡立つ波、

の意(広辞苑)の他に、

白浪五人男、

というように、

盗賊の異称、

としても使う(仝上)。これは、

海上(かいしょう)には海賊多くして白浪(はくろう)の難を去りかねたり(太平記)、

と、

白波、

の、

はくろう、

を訓読したものだが、出典は、後漢書・霊帝紀にみえる、

中平元年(184)張角反、皇甫嵩討之、角余賊在西河白波谷、時號白波賊、

の、

白波賊、

の、

白波、

に依る。張角は、

太平道の教祖、

で、目印として黄巾と呼ばれる黄色い頭巾を頭に巻いたことから、

黄巾(こうきん)の乱(黄巾之乱)、

と呼ばれる。この反乱を契機に後漢が衰退、劉備の蜀、曹操の魏、孫権の呉が鼎立した三国時代に移っていく。

ただ、海賊を、

白波、

山賊を、

緑林、

と区別することもある(岩波古語辞典)、とある。「緑林(りょくりん)」は、文字通り、

木の葉が青々としている林、

の意だが、

盗賊、

の意である。これは、

中国の湖北省当陽県の緑林山、

という山の名で、

前漢の末、王莽(おうもう)の時、王匡(おうきょう)・王鳳(おうほう)等が窮民をひきいてこの山にたてこもり、征討軍に抗して強盗をはたらいたとある、

ところに由来する(漢書・王莽伝、後漢書・劉玄伝)、とある(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。

緑林豪客夜知聞(李渉・遇盗詩)、

それによって、

隴頭秋水、白波之音間聞、辺城暁雲、緑林之陳不定(「本朝文粋(1060頃)」)、

とある(精選版日本国語大辞典)。

「白」 漢字.gif

(「白」 https://kakijun.jp/page/0595200.htmlより)

「白」(漢音ハク、呉音ビャク)は、

象形。どんぐり状の実を描いたもので、下の部分は実の台座。上半は、その実。柏科の木の実のしろい中身を示す。柏(ハク このてがしわ)の原字、

とある(漢字源)が、

「白」 甲骨文字・殷.png

(「白」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%99%BDより)

象形。白骨化した頭骨の形にかたどる。もと、されこうべの意を表した。転じて「しろい」、借りて、あきらか、「もうす」意に用いる、

ともあり(角川新字源)、象形説でも、

親指の爪。親指の形象(加藤道理)、
柏類の樹木のどんぐり状の木の実の形で、白の顔料をとるのに用いた(藤堂明保)、
頭蓋骨の象形(白川静)、

とわかれ、さらに、

陰を表わす「入」と陽を表わす「二」の組み合わせ、

とする会意説もあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%99%BD。で、

象形文字です。「頭の白い骨とも、日光とも、どんぐりの実」とも言われる象形から、「しろい」を意味する「白」という漢字が成り立ちました。どんぐりの色は「茶色」になる前は「白っぽい色」をしてます、

と並べるものもあるhttps://okjiten.jp/kanji140.html

「浪」 漢字.gif


「浪」(漢音呉音ロウ、唐音ラン)は、

会意兼形声。良は◉(穀物)を水でといてきれいにするさま。清らかに澄んだ意を含む。粮(リョウ きれいな米)の原字。浪は「水+音符良」で、清らかに流れる水のこと、

とある(漢字源)が、

「浪」 小篆・説文・漢.png

(「浪」 小篆・説文・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B5%AAより)

形声。水と、音符良(リヤウ)→(ラウ)とから成る。もと、川の名。のち、借りて「なみ」の意に用いる、

ともある(角川新字源)。さらに、

「浪」 成り立ち.gif

(「浪」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1512.htmlより)

会意兼形声文字です(氵(水)+良)。「流れる水」の象形(「水」の意味)と「穀物の中から特に良いものだけを選び出すための器具の象形」(「良い」の意味だが、ここでは、「ザーザーと、うねる波を表す擬態語」)から、「なみ」を意味する「浪」という漢字が成り立ちました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji1512.html

「波」 漢字.gif


「波」(ハ)は、

会意兼形声。皮は「頭のついた動物のかわ+又(手)」の会意文字で、皮衣を手で斜めに引き寄せてかぶるさま。波は「水+音符波」で、水面がななめにかぶさるなみ、

とある(漢字源)。「皮」は動物の皮を斜めにかぶったさまで、それをメタファに、水の表面の斜めになっている状態をいっているようだhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B3%A2。別に、

会意兼形声文字です(氵(水)+皮)「流れる水の象形」と「獣の皮を手ではぎとる象形」(「毛皮」の意味)から、毛皮のようになみうつ水、「なみ」を意味する「波」という漢字が成り立ちました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji405.html

「波」 成り立ち.gif

(「波」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji405.htmlより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:白波 白浪 緑林
posted by Toshi at 05:11| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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