2022年01月17日
宇宙の終末
ケイティ・マック(吉田三知世訳)『宇宙の終わりに何が起こるのか』を読む。
著者は、
「宇宙に始まりがあったことはわかっている。約13億年前、宇宙は想像を絶する高密度状態から、一つの火の玉の状態になり、そこから冷えていくうちに、物質とエネルギーが元気に動き回る流体となった。やがてその中に、たくさんの種子ができ、成長して、いま私たちを取り巻いている恒星や銀河になった。惑星が形成され、銀河と銀河が衝突し、光が宇宙を満たした。
そしてついに、ある渦巻銀河の辺縁部で、ごくふつうの恒星の周りを公転している一つの岩石惑星に、生命体、コンピュータ、政治科学、そして、気晴らしに物理学の本を読む、ひょろっとした二足歩行の哺乳類が誕生した。」
と書き始め、
「だが、『次』はどうなるのだろう? 物語の最後には何が起こるのだろう? 一つの惑星の死、あるいは、一つの恒星の死さえも、理屈の上では人類が生き延びられる可能性はあるだろう。この先何十億年も、人類がさらに存続する可能性はある。現在とは似ても似つかない姿になっているかもしれないが、大胆に宇宙の彼方まで行って、新しい住み処を見つけ、新しい文明を築いているかもしれない。しかし、宇宙そのものの死は決定的である。宇宙のすべてがついには終わってしまうなら、それは私たちにとって、すべてのものにとって、何を意味するの だろう?」
そして、問う、
宇宙そのものはどのように終わるのか、
と。その答えとして、現在考えられている「終末パターン」の5種類を、順次説明していく。つまり、
ビッグクランチ(収縮してつぶれる)、
熱的死(膨張してすべての活動の停止にいたる)、
ビッグリップ(急激に膨張してズタズタになる)、
真空崩壊(真の真空の泡に突然包まれて完全消滅する)、
ビッグバウンス(収縮と膨張を周期的に繰り返す)、
である。
「まずは『ビッグクランチ』から始めよう。これは、現在の宇宙膨張が逆転するのなら起こるであろう、劇的な宇宙崩壊だ。続く二つの章では、ダークエネルギーによってもたらされる終末を2種類論じる。一つは、宇宙が永遠に膨張を続け、徐々に空っぽになり、暗くなっていくもの(熱的死)、そしてもう一つは、宇宙が文字どおり自らズタズタに千切れていくものである(ビッグリップ)。
その次に登場するのは、『真空崩壊』による終末だが、これは、『死の量子の泡』(正式な専門用語では、『真の真空の泡』とよぶ。公平にいって、こちらもなかなかおどろおどろしい)が自発的に発生し、それが宇宙全体を吞み込んでしまうというものだ。そして最後に、『サイクリック宇宙論』という、現時点ではまだ仮説段階にある領域に踏み込む。ここでは、空間の余剰次元に関する諸理論も論じるが、そのような理論では、私たちの宇宙が並行宇宙と衝突して消滅する可能性がある…… しかも、繰り返し何度も。」
とある諸説は、いずれも破滅的なものだが、ロジャー・ペンローズは、
共形サイクリック宇宙論(宇宙はビッグバンから熱的死までのサイクルを、永遠に何度も繰り返す)、
で、
「次のサイクルに移る際に、何か──前のサイクルのなんらかの痕跡──が生き残るという、魅力的な可能性を含ん でいる。」
としているし、この他にも、
ランドスケープ(私たち自身の宇宙とはまったく異なる条件をもつ可能性のある、さまざまに異なる空間からなる理論上の多宇宙説)、
があり、
「このような多宇宙は、ある特定の種類のインフレーションから生まれる可能性がある。すなわち、もともと存在している永遠の空間というようなものから、新しい多数の泡宇宙が、永久に次々と膨らんで生まれてくるようなインフレーションである」
が、あるいは、
「多宇宙のランドスケープの可能性が、私たちの慰めになるかもしれない。」
とし、
「インペリアル・カレッジ・ロンドンの宇宙論研究者で、宇宙のインフレーションから銀河の進化まで、じつに広範囲に及ぶ研究をおこなっているジョナサン・プリッチャードは、どこか遠方にある、私たちとは結びつきのない領域に、私たちが廃熱にすぎない存在になったずっとあとにも、何かが存在しているかもしれないという考えに希望を見出す。」
と。もちろん、
「でも、私たちはやっぱり死にますよね」。
それにしても、どうも、本書の、
宇宙の終り方、
は、キリスト教的な終末論に近い気がしてならない。
吉田伸夫『宇宙に「終わり」はあるのか-最新宇宙論が描く、誕生から「10の100乗年」後まで』(http://ppnetwork.seesaa.net/article/452881667.html)で触れたように、ここでは、ビックバンから「10の100乗年」後、
ビッグウィンパー、
と名づけられた、永遠の静寂を迎えるとした。
すでに、1兆年先には、ビッグバンの証拠も、膨張し続けた証拠、
ハッブルの法則(「他の銀河が、距離的にはほぼ比例する後退速度で天の川銀河から遠ざかる」)、
ビッグバンの核融合理論値(宇宙に存在する元素のわりあいは、水素全体の3/4、残りの大半をヘリウムが占める)、
宇宙背景放射(ビッグバンの余熱が宇宙歴38万年の熱放射という形で残っている)、
などの痕跡はまったく消えてしまい、
全てのブラックホールが蒸発し、物理現象がほとんど何も起きなくなった熱死に近い状態、
である。ビッグウィンパーとは、エリオットの詩から取られた、
すすり泣きの声、
である。
同じ「熱的死」でも、この「熱的死」は、どこか、
仏教的、
である。
著者は、最後に、
「人類が思考する生物であるかぎり、私たちは問うことをやめないだろう。『次は何が出てくるかな?』」
という言葉で締めくくる。まだ宇宙終末の構想は、新たな宇宙論とともに、次々と出てくるのだろう。
参考文献;
ケイティ・マック(吉田三知世訳)『宇宙の終わりに何が起こるのか』(Kindle版 講談社)
吉田伸夫『宇宙に「終わり」はあるのか-最新宇宙論が描く、誕生から「10の100乗年」後まで』(ブルーバックス)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください