「劫」は、慣用的に、
ゴウ、
とも訓むが、
コウ(コフ)、
が正しい。
呉音、
である。
劫波(こうは)、
劫簸(こうは)、
ともいう(広辞苑)。
「劫」(慣用ゴウ、漢音キョウ、呉音コウ)は、
会意。「力+去(くぼむ、ひっこむ)」で、圧力を加えて相手をあとずさりさせること、
とある(漢字源)。「脅」と同義で、
おびやかす、
力で相手をおじけさせる、
意だが、異字体「刧」とは本来別字ながら、
俗に誤りて、通用す、
とある(字源)。「劫」の字は、
サンスクリット語のカルパ(kalpa)、
に、
劫波(劫簸)、
と、音写した(漢字源)ため、仏教用語として、
一世の称、
また、
極めて長い時間、
を意味する(仝上)。
その後、四所の菩薩、化(け)を助けて、十方より来たり、……その済度利生(さいどりしょう)の区(まちまち)なる徳、百千劫の間に、舌に暢(の)べて説くとも、尽くべからず(太平記)、
は、「長い時間」を強調している。「劫」は、
刹那の反対、
だが、単に、
時間、
または、
世、
の義でも使う(字源)。インドでは、
梵天の一日、
人間の四億三千二百万年、
を、
一劫(いちごう)、
という。ために、仏教では、その長さの喩えとして、
四十四里四方の大石が三年に一度布で拭かれ、摩滅してしまうまで、
方四十里の城にケシを満たして、百年に一度、一粒ずつとり去りケシはなくなっても終わらない長い時間、
などともいわれる(仝上・精選版日本国語大辞典)。『大智度論』には、
1辺4000里の岩を100年に1度布でなで、岩がすり減って完全になくなっても劫に満たない、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%AB)、
磐石劫、
と呼ぶ、とか。この故か、囲碁で、
お互いが交互に相手の石を取り、無限に続きうる形、
を、
コウ(劫)、
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%A6)。
なお、劫には小中大の大きさの段階があり、
上下四方40里の城いっぱいにけしを満たし、3年ごとに1粒ずつけしを取除いて、すっかりけしがなくなってしまう時間、
を、
芥子(けし)劫、
といい、
死して無間地獄に墜ちて、多劫の苦を受け終って、今、人中に生まる(太平記)、
に注記(兵藤裕己校注『太平記』)する、
四十里の城に芥子粒を満たし、百年に一粒ずつ取って一劫はなお終わらない(大智度論)、
とあるのは、これを指すものと思われるが、さらに、
上下四方40里の岩を、天女が天から3年ごとに下ってきて、羽衣でひと触れしているうちについにその岩がすりへってなくなってしまうまでの時間、
を、
磐石劫、
といい、この、
芥子劫、
磐石劫、
を、
小劫、
とし、
上下四方80里の城と岩にたとえる場合、
を、
中劫、
さらに120里にたとえる、
のを、
大劫、
とする場合がある(ブリタニカ国際大百科事典)。また、
三千大千世界を擦って墨汁とし、千の世界に一点だけ下していき、墨汁が尽きるまで下した国全部を粉微塵にし、その一塵を、
塵点劫、
といい、これを多く集めた、
三千塵点劫、
とか
五百塵点劫、
とかの語もある(世界宗教用語大事典)。
四劫(しこう)、
というと、
世界の成立から無にいたるまでの期間を4期に分類したもの、
をいい、
成劫(じょうごう) 山河、大地、草木などの自然界と生き物とが成立する期間。人間の寿命が8万4000歳のときから100年ごとに1歳ずつ減少していって寿命が10歳になるまでの期間を1減とし、10歳のときから100年ごとに1歳ずつ増加していって8万4000歳となるまでの期間を1増というが、この成劫では20増減(20小劫)があるという、
住劫(じゅうごう) 自然界と生き物とが安穏に持続していく期間。20増減がある、
壊劫(えこう) まず生き物が破壊消滅していき、次に自然界が破壊されていく期間。20増減がある、
空劫(くうごう) 破壊しつくされて何もなくなってしまった時期。20増減がある、
とされる(ブリタニカ国際大百科事典・広辞苑・精選版日本国語大辞典)。また、この、
成(じょう)、
住、
壊(え)、
空、
の四劫は、循環するとも説かれる(精選版日本国語大辞典)。
天地すでに分かれて後、第九の減劫(げんこう)、人寿(にんじゅ)二万歳の時、迦葉(かしょう)世尊西天に出世し給ふ時(太平記)、
の、「第九の減劫」とは、
人間の寿命が百年毎に一歳減って八万歳から十歳になるまでを減劫、逆に十歳から八万歳になるまでを増劫という。それ十回ずつ繰り返される間この世が存続する、この九回目で、人の寿命が二万歳だった頃、
と注記(兵藤裕己校注『太平記』)されるのは、上記に基づく。
「劫」の字源については、
会意兼形声文字です(去(盍の省略形)+力)。「物をのせた皿にふたをした象形」(「覆う」の意味)と「力強い腕の象形」(「力」の意味)から、「力で相手をおしふせる」、「おどす」を意味する「劫」という漢字が
成り立ちました、
との説明もある(https://okjiten.jp/kanji2375.html)。
(「劫」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2375.htmlより)
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95