今は残雪半ば村消(むらぎ)えて、疋馬(ひつば)地を踏むに、蹄を労せざる時分によくなりぬ(太平記)、
の、
村消ゆ、
は、
斑消ゆ、
叢消ゆ、
群消ゆ、
とも当て(広辞苑・大言海・岩波古語辞典)、
(雪などが)あちこちとまばらに消えている、
一方は消え、一方は残る、
意である(広辞苑・岩波古語辞典)。名詞として、
若菜摘む袖とぞ見ゆる春日野の飛火(とぶひ)の野べの雪のむらぎえ(新古今和歌集)、
薄く濃き野辺の緑の若草に跡まで見ゆる雪のむらぎえ(仝上)、
こりつみてまきのすみやくけをぬるみ大原山の雪のむらぎえ(後拾遺・和泉式部)、
などと、
まだらに消え残る、
意でも使う。
「すそご」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484482055.html)で触れた、縅(おどし)や染色に、
同じ色で、所々に濃い所と薄い所のあるもの、
を、
村濃(むらご)、
というが、これも、
斑濃、
叢濃、
とも当て、紫色を、
紫村濃、
紺色を、
紺村濃、
といい、
むら(斑)、
の意、
ここかしこに叢(むら)をなすこと(大言海)、
つまり、
色の濃淡、物の厚薄などがあって、不揃い、
の意である(広辞苑)。「むら」は、
叢、
羣(群)、
と当てるが、
当て字に多く村と記す、羣(むれ)の転、
とある(大言海)。
俄に激しく降ってくる雨に、
村雨、
は、
叢雨(岩波古語辞典)、
群雨(大言海)、
の意であり、
ときどきさっと強く降って通り過ぎる雨を、
村時雨、
というのも、
叢時雨、
の意であり(岩波古語辞典)、
叢時雨、
群時雨、
とも当てる。
斑霧(むらぎり)、
は、
まばらに立つ霧、
であり、
(黒漆塗村重籐強弓 https://www.touken-world.jp/search-bow/art0007040/より)
村重藤(むらしげとう)、
とは、
重藤弓を斑(むら)に巻いたもの、
を指す(広辞苑)。
「村」(ソン)は、
会意兼形声。寸は、手の指をしばしおし当てること。村は「木+音符寸」で、人々がしばし腰を落ち着けた木のある所をあらわす、
とある(漢字源)が、
会意兼形声文字です(木+寸)。「大地を覆う木」の象形(「木」の意味)と「右手の手首に親指をあて、脈を測(はか)る事を示す文字」(脈を「測る」の意味だが、ここでは、「人」の意味)から、木材・人が多く集まる「むら」を意味する「村」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji173.html)。
(「村」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji173.htmlより)
ただ、「村」の異字体は、
邨、
で、
形声。意符邑(ゆう むら)と、音符屯(トン)→(ソン)とから成る。人が集まり住む「むら」の意を表す。村は形声で、木と、音符寸(ソン)とから成り、もと、木の名を表したが、のち、邨の意に用いる、
とある(角川新字源)ので、
形声。「木」+音符「寸」。「邨」に同音の文字を当て、「むら」の意を仮借、
ということのようである(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9D%91)。当然、「村」には、「斑(むら)」の意はない。
「斑」(漢音ハン、呉音ヘン)は、
会意。二つの王は、玉を二つにわけたさま。斑はそれと文を合わせた字で、分かれて散らばる意を含む、
とある(漢字源)が、
形声。文と、音符辡(ハン・ベン 玨は変わった形)とから成る。まだらもようの意を表す、
とも(角川新字源)、
会意文字です(辡+文)。「入れ墨をする為の針」の象形×2と「人の胸を開いて、入れ墨の模様を書く」象形から、模様に分かれ目がある事を意味し、そこから、「まだら」を意味する「斑」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2120.html)。
(「斑」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2120.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:村消え