2022年01月30日

一翳眼にあれば


盛長(大森彦七盛長)これ程の不思議を見つれども、その心なほも動ぜず、一翳(いちえい)眼(まなこ)にあれば、空花(くうげ)乱墜(らんつい)すと云へり。千変百怪、何ぞ驚くに足らん(太平記)、

にある、

一翳眼にあれば空華乱墜す、

は、

目にひとつでも曇りがあると、実際にない花のようなものが見える、

つまり、

煩悩があると、種々の妄想が起き、心が乱れて正しい認識ができないことのたとえ

としていわれる(兵藤裕己校注『太平記』・精選版日本国語大辞典)。出典は、景徳元年(1004)北宋の道原撰の禅僧伝、

景徳伝燈禄、

にみえる、

福州芙蓉山靈訓禪師。初參歸宗問。如何是佛。宗曰。我向汝道汝還信否。師曰。和尚發誠實言何敢不信。宗曰。即汝便是。師曰。如何保任。宗曰。一翳在眼空華亂墜(福州芙蓉山霊訓禅師、初めて帰宗(きす)に参ず、問う、如何なるか是れ仏。宗(す)曰く、我汝に向って道(い)わん。汝、還(かえ)って信ずるや否や。師曰く、和尚、誠実の言を発せば、何ぞ敢えて信ぜざるや。宗曰く、汝に即すれば便(すなわ)ち是(ぜ)なり。師曰く、如何保任(ほにん)せん。宗曰く、一翳眼在れば空華乱墜す)、

の、

一翳在眼、空華乱墜、

による(故事ことわざの辞典)。「保任」は、

いまだまぬがれず保任しきたれるは、即心是仏のみなり(正法眼蔵)、

と、

「保」はたもつ、「任」は背おうの意、

で、

保持して失わないこと、保持してそのものになりきること、

の意である(精選版日本国語大辞典)

一翳在眼、空華乱墜、

は、

目に、なにかくもりがあると、実態のない花のようなものが乱れ落ちるさまが見えるところから、

とか(精選版日本国語大辞典)、

眼病のために、実際には花が無いのにも拘わらず、空中にいろいろな花があるかのごとく見えること、

とか(新版禅学大辞典)、

目に小さい埃が入っただけで、幻の華が宙を舞って乱れ落ちるということ、

とかhttps://irakun0371.hatenablog.com/entry/2020/11/22/091034

小さい埃一つが眼に入ると眼がチラチラする、

とか(禅林句集)、

眼にちょっとでも病いがあるとまぼろしの花が空中をみだれ飛ぶ、

とか(禅語辞典)等々とあるhttps://zengo.sk46.com/data/ichieimana.htmlので、そうした目の症状を喩えとして、

心病に陥っている者が、その迷妄の心により、本心がくもりさえぎられ、ものの真相を正しく見ることができないで、虚偽の仮相を見て、それをそのものの実態であるかのように思い誤っていることをいう、

という意味で使ったもののようであるhttps://zengo.sk46.com/data/ichieimana.html

一翳眼にある時は、空花みだれをつ。一妄心にある時、恒沙生滅す(「梵舜本沙石集(1283)」)

である。「恒沙(ごうしゃ)」は、

恒河沙(ごうがしゃ)の略、

で、「恒河」(ごうが)は、

梵語でガンジス川、

の意、「恒河沙」は、

ガンジス川の砂、

の意。

数量が無数であることのたとえ、

としていう(広辞苑・デジタル大辞泉)。

「翳」 漢字.gif


「翳」(漢音エイ、呉音アイ)は、

会意兼形声。殹(エイ)は、矢を箱の中に隠すことをあらわす会意文字。翳はそれを音符とし、羽を添えた字、

とあり(漢字源)、

身分の高い人の姿を隠すために、侍者が持ってかざす羽のおうぎ、
鳥の羽でおおった車の屋根、

といった(仝上)、

かざしの羽、

の意(字源)で、

掩翳(エンエイ)、

というように、

かざして隠す、

という意味で、そこから、

ものに覆われてできた陰、

の意になったもののようである(漢字源)。

「眼」 漢字.gif


「眼」(漢音ガン、呉音ゲン)は、

会意兼形声。艮(コン)は「目+匕首(ヒシュ)の匕(小刀)」の会意文字で、小刀でくまどった目。または、小刀で彫ったような穴にはまった目。一定の座にはまって動かない意を含む。眼は「目+音符艮」で、艮の原義をあらわす、

とあり(漢字源)、「まなこ」、ひいて、目全体の意を表す(角川新字源)。別に、

会意形声。「目」+音符「艮」、「艮」は「匕」(小刀)で目の周りに入墨をする様で、そのように入墨を入れた目、または、小刀でくりぬいた眼窩https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9C%BC

会意兼形声文字です(目+艮)。「人の目」の象形と「人の目を強調した」象形から「眼」という漢字が成り立ちました。「人の目」の象形は、「め」の意味を明らかにする為、のちにつけられましたhttps://okjiten.jp/kanji12.html

などともある。

参考文献;
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:03| Comment(0) | カテゴリ無し | 更新情報をチェックする
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