盛長(大森彦七盛長)が髻(もとどり)を取って中(ちゅう)に引つさげ、八風(はふ)の口より出でんとす(太平記)、
に、
八風、
と当てているのは、
破風、
つまり、
屋根の切妻の三角形の部分にうちつけた板、
と(兵藤裕己校注『太平記』)ある。
(神明造りにおける破風 デジタル大辞泉より)
「破風」は、
搏風、
とも当て、
日本建築で、屋根の切妻(きりづま)についている合掌型の装飾板、または、それが付いているところ、
を指す(広辞苑)が、
破風板の付いている屋根の部分(三州瓦豆辞典)、
つまり、
切妻造や入母屋造の屋根の妻(棟の端)の三角形の部分、
をも指しデジタル大辞泉)、
屋根の妻側で桁や母屋の木口を隠して、風雨から屋根を保護するために付ける板。デザインカットされた板を重ね合わせることで、建物のイメージを変えるといった意匠的な側面ももつ、
とあり(ログハウス用語辞典)、実用的な意味と装飾的な意味とがある。しかし、「破風」は、
千木より起こる。もと殿の左右の妻、後にその前に別に形を作る。即ち、屋の切棟の端、両下して山形をなす處、
とある(大言海)ので、本来は、
山形をなす、
ことを指していたのではないかともみえる。つまり、
屋根の妻側の造形、
のことであり、切妻造や入母屋造の屋根の妻側には必然的にあり、
妻壁や破風板など妻飾りを含む、
ということ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%B4%E9%A2%A8)になる。「搏風」を、
風を搏(う)つ、
からきたとする(日本語源広辞典)説は、「搏風」という字からの解釈で、
風が強く当たる部分、
という意とするのは、当たらずと雖も遠からず、という感じだが、和名類聚抄(平安中期)に、
榑風、和名、如字、
とあり、江戸後期の辞書注釈書『箋注和名抄』に、
按、榑當作搏、榑桑(扶桑)字、音義皆異、但諸本皆従木、
と、本来「搏風」ではなく、
榑風、
としている。色葉字類抄(1177~81)も、
榑風、ハフ、
とする。書言字考節用集(享保二年(1717))は、
破風、ハフ、本字、榑風謂之栄、
とあり、「搏風」でないとすれば、
風が強く当たる部分、
というのは、意味のない語源説になる。神武紀に、
太立宮柱於底磐之根、峻峙榑風(チギ)於高天原、
と、
榑風、
を、
ちぎ、
と訓ませている(大言海)。「千木」と「破風」は一本の材を用い、「千木」は、
社殿の屋上、破風の先端が延びて交叉した木、
を指し、
古代の家は、この突き出た端を切り捨てなかった、
が(岩波古語辞典)、後世、
破風と千木とは切り離されて、ただ棟上に取り付けた一種の装飾(置千木)となる、
とある(広辞苑)。だから、「ちぎ」は、
千木、
知木、
鎮木、
等々と当て(仝上)、
搏風、
とも当てる(日本語源大辞典)が、上述の由来から見ると、本来、
搏風、
ではなく、
榑風、
なのではないか。
「搏」(ハク)は、
会意兼形声。甫(ホ)は、平らな苗床に芽がはえたさま。圃(ホ)の原字。搏の旁は「寸(手)+音符甫」からなり、平面を当てる動作。搏はそれを音符とし、手を添えた字で、パンと平面をうち当てること、
とある(漢字源)。「うつ」「手のひらでたたく」意となる。
「榑」(漢音フ、呉音ブ)は、
会意兼形声。旁の部分(フ・ハク)は、大きく広がる意を含む。榑はそれを音符とし、木を添えた字、枝の広がった大木、
とある(漢字源)。「榑桑」は、太陽の出る所にあるといわれる神木、「扶桑」とも書く、わが国では、
皮のついたままの丸太、
の意である(漢字源)。これを交叉させて、上にで突き出た分が、
千木(榑風)、
山形に交叉した部分が、
搏風(榑風)、
となったとみていいのではないか。因みに「扶桑」は、『南史』夷貊(イバク)伝・東夷・扶桑国に、
扶桑國者……在大漢國東二萬餘里、地在中國東、其土多扶桑木、故以為名、扶桑葉似桐、初生如笋、國人食之、實如梨而赤、積其皮為布以為衣、
とあり、中国東方にあるとされる、
日本国の異称、
とされている(大言海・広辞苑)
さて、「破風」は、
伝統的な建物では、彫刻を施した板が貼り付けられて装飾性を持っていました、
とあり(https://shikishima-town.com/blog/word-hahu)、細かくは、三角形の斜辺に相当するところにつく板を、
破風板、
とよび、その頂点を、
拝(おが)み、
と名づけられ、破風板は、妻(棟の端)の垂木(たるき 棟から軒にわたす材)を隠すためにつけられた飾り板で、棟木の木口(切り口)を隠すために拝みの下に取り付ける飾りを、
懸魚(げぎょ)、
破風板の中ほどにあって、母屋桁(もやげた 棟や軒桁に平行して、垂木を支えるために渡した横木)の木口を隠す飾りを、
降懸魚(くだりげぎょ)、
という(日本大百科全書)、とある。
また、屋根の流れの中間にあけられた三角部分は、
据(すえ)破風、
または、
千鳥(ちどり)破風、
ともいい、屋根の流れの先端からさらに庇(ひさし)を出したときの妻の部分は、
縋(すがる)破風、
と呼ばれる(仝上)、とある。
破風の形には、直線的な、
直(すぐ)破風、
両端が反り上がる、
反(そり)破風、
中間が上向きに曲がる起(むく)り破風、
があり、玄関など入口によくみられる反転する形の破風は、
圓く下へ反りて、鍬形を倒にしたるが如く、
作る(大言海)、
唐(から)破風、
という(日本大百科全書)、とある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95