2022年02月09日

夙に


「夙(つと)に」は、

夙に群臣を召して、御夢を問ひ給ふに(太平記)、

と、

早朝に、

の意味で使われる(兵藤裕己校注『太平記』)。

夙(つと)に行く雁の鳴く音はわが如くもの思へかも声の悲しき(万葉集)、

とあるように、古くから使われてきた。類聚名義抄(11~12世紀)には、

夙、ツトニ、アシタ、ハヤク、

とある。

人目もる君がまにまにわれともに夙興乍(ツトニオキツツ)裳の裾濡れぬ(万葉集)

と、

早く、

の意として、さらに、後には、

人夙(ツト)に事業に志を立つべし(「西国立志編(1870‐71)」)、

のように、

早くから、
以前から、

と、時間を広げて使うに至る。

「つとに」は、

ツトはツトメテ(朝)・ツトム(勤)のツト、朝早い意(岩波古語辞典)、
ツトはツトメテの義(和句解・日本釈名)、

とある。「つとめて」は、

前夜から引き続いた翌早朝、前夜に何か事があった翌日の朝、

の意(大言海・日本語源大辞典)で、類聚名義抄(11~12世紀)に、

旦、ツトメテ、アシタ、アケヌ、
朝、ツトメテ、
夙、ツトメテ、アシタ、ハヤク、

とあり、新撰字鏡(898~901)には、

暾、日初出時也、明也、豆止女天(つとめて)、又阿志太(あした)、

とある(「暾(トン) 丸い朝日、朝日のさし昇るさま)の意)。それが、

ツトは夙の意、早朝の意から翌朝の意になった、

とあるように(岩波古語辞典)、

つとめて少し寝過ごしたまひて、日さし出づる程に出でたまふ(源氏物語)、

と、

その翌朝、

の意でも使う(仝上)。そこから、

つとむ(務む・勤む)、

の、

早朝からことを行う意で、ツト(夙)を活用したもの、

で(日本古語大辞典=松岡静雄・大言海・日本語の年輪=大間晋)、

磯城島(しきしま)の大和(やまと)の国に明(あき)らけき名に負ふ伴(とも)の緒(を)心つとめよ(大伴家持)、

と、

気を励まして行う、
精を出してする、
努力する、

という意で使われるのにつながる(仝上・大言海)。

そうみると、「つとに」の語源を、

ツトはツトメ(勤)の略(万葉集類林・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・日本語源=賀茂百樹)、
ツトはツトメテ(朝)・ツトメ(勤)のツト、朝早い意(岩波古語辞典)、
ツトはツトメテの義(和句解・日本釈名)、

とし、「つとめて」の語源を、

翌朝を待ち設けての意で、ツトマウケテ(夙設)の約、また、ツトミエテ(夙見)の約か(大言海)、

「つとむ」の語源を、

早朝からことを行う意で、ツト(夙)を活用したもの(日本古語大辞典=松岡静雄・大言海・日本語の年輪=大間晋)、
ツトメ(晨目・早目)の義(言元梯・名言通)、
ツトは晨の義(国語本義)、

と、

つとに、
と、
つとめて、
と、
つとむ、

がにらみ合ったまま、確かに、

早朝をあらわす「つと(夙)」から派生した語、

であり、

「夙に」が漢文訓読調であるのに対して、「つとめて」は平安朝の和文に多く用いられた、

としても(日本語源大辞典)、結局、「つと」そのものの語源に至らない。

「つとむ」「つとめて」とのつながり以外で、「つと」の語源についての言及は、

ツトはハツトキ(初時)の上下略(和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子)、
ハツド(初時)ニの略(大言海)、
直ちにの意のツから(国語の語根とその分類=大島正健)、
ツトは日出の意の韓語ツタと同語(日本古語大辞典=松岡静雄)、

等々がある。新撰字鏡(898~901)のいう、

暾、日初出時成り、明也、豆止女天(つとめて)、又阿志太(あした)、

説明から見ると、

日の出、

とつなげる説に傾くが、断定は難しい。

「夙」 漢字.gif


「夙」(漢音シュク、呉音スク)は、

会意。もと「月+両手で働くしるし」で、月の出る夜もいそいで夜なべすることを示す、

とあり(漢字源)、「夙昔(シュクセキ)」と「昔から」の意、「夙興夜寝、朝夕臨政」と、「朝早く」の意である(仝上)。

「夙」 甲骨文字・殷.png

(「夙」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%99より)

「夙」 金文・西周.png

(「夙」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%99より)

別に、

会意文字です(月+丮)。「欠けた月」の象形(「欠けた月」の意味)と「人が両手で物を持つ」象形(「手に取る」の意味)から、月の残る、夜のまだ明けやらぬうちから仕事に手をつけるさまを表し、そこから、「早朝から慎み仕事をする」、「早朝」を意味する「夙」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2302.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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