「無作」は、
むさく、
と訓ますと、文字通り、
何も作らない、生み出さない、
意だが、
技量のないこと、無骨であること、
の意で使う。その場合、
くちのひろげやう、ぶさくだつた(「本福寺跡書(1560頃)」)、
と、
ぶさく、
とも訓ます(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。しかし、
むさ、
と訓ますと、
無作滅諦即如来蔵(「勝鬘経義疏(611)」)、
と、
有作(うさ)、
の対になり、仏教用語で、
因縁によって生成されたものでないこと、
つまり、
因縁の世界を超越した悟りの境地、
の意とある(広辞苑)。しかし、
有作、
は、
作られたもの、自然ならぬこと、
であり、
有為(うゐ)、
有相(うそう)、
と同じとある。となると、「無作」は、
身口意の動作を假らずして、自然に相続すること、
自然にして作為なきこと、
分別造作なきこと、
とある説明(大言海)の方が、正確である。それが、
道常無為、而無不為、侯王若能守、万物将自化(老子)、
の、
無為(むい・ぶい)、
に同じで、
自然にまかせて、作為するところのない、
つまりは、
因縁の造作なきこと、
因縁によって作られたものでなく、生滅変化を離れたもの、
となり、
その境地、
へと意味がつながる。
無作無起、観法如化(無量寿経)、
とある。「無作」は、
叡慮の驕慢の心を破って、無作の大善(だいぜん)に帰せしめんとなり(太平記)、
と、
無作の大善、
とも使う。
人為的でないおのずからの善、
とある(兵藤裕己校注『太平記』)が、
菩薩がする、分別を離れた無為自然の善根(広辞苑)、
はからいを離れた偉大な善(精選版日本国語大辞典)、
ともあり、「無作」の境地からの、
菩薩がする、分別を離れた無為自然の善根、
の意味の方がいい気がする。
有作、
には、
有相(うそう)、
の意がある。仏教用語で、
すがた、形のあるもの、
存在するもの、
の意で(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、
それは生滅変化するところから有為(うい)、
の意味にも用いる。また、
相対、差別においてとらえられるものをさす、
ともあり(精選版日本国語大辞典)、
うぞう、
と訓ますと、
有象無象(うぞうむぞう)、
となり、
有相無相(うそうむそう)、
の、
形をもっている存在と、すがた、形によって特質づけられている存在自体、すなわち存在の本性、
の意と同じで(精選版日本国語大辞典)、そこから、
宇宙にある有形・無形の一切の物、
つまり、
森羅万象、
の意となり、そのメタファで、
有象無象(うぞうむぞう)、
は、
世にいくらでもある種々雑多のつまらない人々、
の意で使う(広辞苑)。
「無」(漢音ブ、呉音ム)は、
无、
とも書き、
形声。原字は、人が両手で飾りを持って舞うさまで、のちの舞(ブ・ム)の原字。無は「亡(ない)+音符舞の略体」。古典では无の字で無をあらわすことが多く、今の中国の簡体字でも无を用いる、
とあり(漢字源)、
(「無」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%84%A1より)
音を仮借したもの(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%84%A1)、
もと、舞(ブ)に同じ。借りて「ない」意に用いる。のち舞とは字形が分化し、さらに省略されて無の字形となった(角川新字源)、
「人の舞う姿」の象形から「まい」を意味していましたが、借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「ない」を意味する「無」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji730.html)、
等々とあり、「舞」を略して借字したということのようだ。
「作」(サク・サ)は、
会意兼形声。乍(サク)は、刀で素材に切れ目を入れるさまを描いた象形文字。急激な動作であることから、たちまちの意の副詞に専用するようになったため、作の字で人為を加える、動作をするの意をあらわすようになった。作は「人+乍(サ)」、
とある(漢字源)。同趣旨で、
会意形声。「人」+音符「乍」。「乍」は、ものに刃物を入れる様を象ったもの。ものに刃物を入れ作ることを意味したが、「たちまち」の意の副詞として用いられるようになったため、意味を明確にするため「人」を添え、人為であることを明確にした。「做」(サ)と同音同系、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%9C)、別に、
会意兼形声文字です(人+乍)。「横から見た人の象形」と「木の小枝を刃物で取り除く象形」から人が「つくる」を意味する「作」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji365.html)。
(「作」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%9Cより)
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95